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6.大使

「私がベオグニード帝国の大使として、リュンヌの森へ行き、ルーナの民達に交渉しましょう」



 私の提案に陛下は顎に手を当てて思案する。すると、騎士団長が手を挙げた。


「僭越ながら、公爵様が直々に行くのは、少々、危険すぎるのではありませんか?聞く所によると、彼らは奇妙な術を使い人を惑わすと言います」


「それは教会の流した真っ赤な嘘だ。彼らは平和を願い、癒しの術に長けた温厚な種族だ。彼らは他のグエラと違い、攻撃の術を一切持たない」


「そうなのですか。出すぎた真似をお許し下さい」


 騎士団長は恭しく頭を下げた。


 陛下は心配そうな眼差しを私に向ける。



「ふむ。何故そなたが行くのだ?他の者ではならぬのか?」


「ええ。彼らはグエラの中でも用心深い種族です。国の重要な役割を担っている陛下か私のどちらかが直接行かなければ、彼らは心を開かないでしょう」


「面白いじゃないか!私が直々に、リュンヌの森へ行ってやろう」


「なりません!」


 私の語気を強めた発言は陛下だけでなく、その場にいた者全てを驚かせた。


「何故だ!」


「僭越ながら、陛下の御身は狙われております。ご自身の身を守る為にも、ここはお控えくださいませ。それに、陛下にはやって頂きたい事があるのです」


「分かった。では、そのやって欲しい事とは何なのだ?」


「では、この機会にグエラとの交流を深める為にも、他種族との合同会議を開くという名目でグエラの王族達に書状を書いて頂きたいのです。その合同会議の内容は、お互いの国の奴隷解放でどうでしょう?」


 私の発言に、他の筆頭貴族は反発を示す。


「貴様っ!半獣に媚びを売るなど、何を考えておるのだっ!」


「そうだっ!そうだっ!」


「私も反対ですわっ!」


「....私は....」


 オリバーだけは何かを言いかけて俯いている。


「彼らの事を半獣と呼ぶのはやめなさい。女神に等しく与えられたグエラとエンハの名前があるのです」


 世界には二種類の種族がある。魔法や便利な道具で栄えた「エンハ」が我々、人族の事だ。

 古代語で知恵という意味を持つ。


 先程、半獣と呼ばれた獣や鳥、水棲生物、竜に変身する力を持つ「グエラ」と呼ばれる種族だ。古代語で自然という意味を持つ。


 数で勝る我らに対し、グエラは遥かに長寿で永遠に近い時を生きる者も存在する。


 これらは女神により、等しく与えられた種族の名だと伝えられている。



「ふむ。では、これを持っていくと良い」


 陛下は自身の王笏を差し出した。

 驚いたギュスターブは陛下に進言した。


「陛下っ!王笏を貸し与えるなど、この国の貴族の力の均衡が崩れてしまいます」


「良いのだ!この国の歴史では、東方の国への視察官と、かつて戦争をしたジルバ王国へ出征した軍司令官に貸し与えられたのだ」


 この国では壮麗な杖を皇帝と上級神官が使う。この国で最も、位の高い皇帝の持つ王笏は、神話にも登場する程の国宝だ。


 神話の中で語られる女神の信徒と邪神の信徒と戦ったとされる聖戦「ラグナロク」の際、創造の女神から英雄ミサナに女神の加護が付与された杖を与えられたという。


 英雄ミサナは仲間達と見事、邪神を打ち倒し、この世界に平和をもたらした。

 そして、ベオグニード帝国を建国した。


 この国を建国した英雄の末裔が皇帝であるミゼル陛下なのだ。神通力もこの女神から英雄に与えられた力だと伝えられている。


 その歴史を継いで戦争や敵国に行かなければならない時には代表者に、この王笏を貸し与える歴史がこの国にはある。歴史上、他人にこの王笏が貸し与えられたのは二回とされている。一回目は、未知の島国であった東方の国の視察団の代表に貸し与えられた。それまで東方の国は未知の国と呼ばれていた。王が鎖国という法を敷いて、他国との関わりを絶っていたが、その視察団のお陰で他国との交流をするようになった。

 二回目は、ベオグニード帝国と獣の王が統べるジルバ王国との戦争があった際に軍司令官に貸し与えられたと伝わる。


「陛下の王笏があれば、彼らはきっと信用するでしょう」


「では受け取ると良い」


「ありがとうございます」


 私は陛下から王笏を受け取った。

 その王笏は華麗というよりも、荘厳と呼ばれる方が相応しい。王笏の錬成の難しいオリハルコンという希少金属で作られ、羽のように軽く不思議と手に馴染んだ。


 王笏の先端には翼の生えた女性の装飾が象られている。恐らく創造の女神だろう。その装飾の下に拳ほど大きな赤い魔石が埋め込まれている。


 魔石はあらゆる魔力の媒体となる石だ。色々な色があるが、赤い魔石は数が少なく、強い力を持つと言われる。豆のように小粒でも高値で取引きされる。この大きさとなれば、五兆Gはするだろうか。そもそも神話の時代に作られたアーティファクトなのだ。誰もこの王笏に値段がつけられないだろう。



「では、会議はこれにて終わりだ。騎士団長よ。エフィデルに護衛として、お主の部下をつけておけ」


「はっ!畏まりました!」



 騎士団長が敬礼し、陛下は下がっていった。

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