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星辰の下で約束を  作者: 眠犬


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第二十九話 報告

 翌日の夕刻、張飛は子義を連れて劉備の天幕を訪れた。


 これから何を告げるのか、頭では分かっていても、いざその場が近づくと、なぜか落ち着かない気持ちが込み上げてくる。誰かに自分の想いを、しかも公の場で認めるということが、子義にとってはまだどこか慣れない感覚だった。


「なぁ、義。緊張してんのか?」


「……多少はな」


 道中、そわそわと落ち着かない様子の子義に、張飛は珍しくからかうこともせず、ただ隣を歩いてくれた。天幕の前で一度足を止めると、張飛は子義の顔を覗き込んだ。


「大丈夫だ、俺が話す。義は黙って隣にいてくれりゃいい」


「……分かった」


 その一言に、幾分か肩の力が抜けた。頼りになる背中を見つめながら、子義は小さく息を整える。中に入ると、すでに関羽の姿もあった。


「兄者! 雲長! 俺たち、正式に恋仲になったぞ!」


 挨拶もそこそこに、張飛は満面の笑みでそう報告した。あまりに唐突な切り出し方に、劉備と関羽は目を丸くして子義の方を見る。


「……」


 子義は恥ずかしさを堪えるように、そっと目を伏せた。


「子義殿、そうなのか?」


 劉備が微笑みながら、確かめるように問う。


「……ええ。はい」


 小さな声だったが、それでもはっきりとした肯定だった。


 劉備と関羽は、しばし顔を見合わせた。そして、どちらからともなく破顔する。


「そうか! それはめでたい!」


「ええ。益徳、良かったな」


 劉備と関羽が、揃って目を細める。その温かな眼差しに、張飛はますます上機嫌になり、終始楽しそうに笑っていた。


「思えば、益徳がここまで誰かに執心するのを見たのは初めてだ」


 劉備がしみじみと呟く。関羽も静かに頷いた。


「うむ。子義殿もまた、良き相手を得たな」


 その言葉に、子義は面映ゆさを覚えながらも、小さく頭を下げた。


「……ありがとうございます」


 畏まった返事に、張飛が横からくすりと笑う。


「そんな畏まらなくてもいいだろ、義」


「これくらいは、けじめだ」


 軽口を挟みながらも、その表情はどこか安堵に緩んでいた。認められたことへの喜びが、じんわりと胸に広がっていく。


 *


 ひとしきり話が弾んだ後、劉備がおもむろに立ち上がると、子義に向き直った。


「子義殿。益徳を、よろしく頼む」


 そう言って、深々と頭を下げる。義兄弟の長兄であり、劉備軍を束ねる頭でもある男が、こうも真摯に頭を下げる姿に、子義は思わず息を呑んだ。思いがけない仕草に、慌てて言葉を返す。


「わ、私の方こそ……よろしくお願いします!」


 自分でもよく分からない返答になってしまい、頬が熱くなる。それを見た張飛が、堪えきれずに噴き出した。


「益徳、あまり子義殿を困らせるな」


 関羽の一言に、張飛はへらへらと頭を掻く。


「わーってるよ」


 どう見ても分かっていない返事に、関羽は小さく息を吐いた。


「よし、今夜は祝宴といこう」


 劉備が上機嫌にそう提案する。だが張飛は、どこかバツが悪そうに視線を泳がせた。


「こ、今夜はちょっと……明日にしようぜ」


「ほう? 何か都合でもあるのか」


 関羽が片眉を上げて尋ねる。張飛は答えに詰まり、ますます挙動不審になっていった。


「な、なんもねぇよ! ただの気分だ!」


 しどろもどろに誤魔化す張飛に、劉備と関羽は顔を見合わせ、揃って肩を揺らして笑った。


「そうか、そうだな」


「今夜は、二人で過ごすと良い」


 含みのある笑みを浮かべながら、二人は温かく二人を送り出した。


 *


 劉備の天幕を出ると、外はすっかり夜の帳が下りていた。篝火の明かりが、二人の影を長く伸ばしている。張飛は顔を赤らめながら、上擦った声で切り出した。


「なぁ、義。今夜、俺の部屋に来ないか」


 その言葉に、子義もようやく、先ほどの劉備と関羽の意味深な視線の理由を察した。


 鼓動が、僅かに速くなる。頬に集まる熱を自覚しながら、それでも子義の心は不思議と穏やかだった。この男とならば、この先どんな夜が待っていても構わない――そんな確信めいた思いが、胸の奥に静かに根を張っていた。


 振り返れば、傭兵として渡り歩いていた頃の自分には、想像もつかない未来だった。誰かの隣を歩き、誰かに求められ、誰かのために心を震わせる――そんな日が来るとは、思ってもみなかった。


 子義は小さく頷くと、顔を真っ赤に染めながら、張飛の天幕へと足を向けるのだった。

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