女王への謁見(最適化版)
清晨、寒風が吹き荒れる。
シャールと宮殿の入り口で手を振って別れた後、あの、まるで二つの世界を隔てるかのような、重々しい大扉が、シミアの目の前で、ゆっくりと閉ざされた。シャールの温かい励ましの言葉が、まだ耳元に残響している。彼女の心は、沈むどころか、かえって、あの「未来」への期待に、そっと、胸を躍らせていた。
(この儀式さえ、無事に終われば、私とシャルの新しい生活が、始まるんだ)
衛兵に導かれ、彼女は、この、権力の砦へと、足を踏み入れた。足元の石板は、鏡のように磨き上げられ、廊下の柱の、あの、精巧だが冷たい彫刻を、映し出している。シミアは、慎重に歩きながらも、心中では、とりとめのないことを考えていた。
(こんなに華麗な場所、廊下の床だけで、おそらく、私とシャルの全財産よりも、価値があるんだろうな)
彼女は、内壁に描かれた、上古十一英雄の壁画を見た。物語は、入り口から始まり、彼女の前進と共に、先へと進んでいく。だが、彼女には、あの英雄たちの偉業を、鑑賞する心はなかった。彼女の目には、これらの英雄の伝説は、彼女が待ち望む、シャールと一緒に、小さなお店を営むという、あの幸福な未来と比べて、あまりにも、遥かで、非現実的に、映っていた。
(儀式が終わったら、絶対に、シャールを連れて、あのパン屋のオーブンが、どんなものか、見に行かなくちゃ)
次第に、奥深くへと進み、一つの、長い防風通路を抜けた後、一つの、壮大な光景が、彼女の目の前に、広がった。四人の衛兵が、力を合わせて、一つの巨大な扉を押し開けると、一股の、燻香が混じった、暖かい風が、顔に、吹き付けてきた。
一支隊の軍隊を、丸ごと収容できるほどに、広々とした大広間の中央に、一本の、長く、金糸で刺繍された赤い絨毯が、まるで、未来へと続く光の道のように、真っ直ぐに、視界の果てまで、伸びていた。
そして、その果てに、高い玉座の上に、一人の、彼女と、年齢の変わらない少女が、座っていた。
銀白色の中長の髪、芸術品のように精緻な五官、無数の宝石がちりばめられた華麗な礼服、そして、その礼服よりもさらに雪のように白い、血の気のない肌。
シミアは、思わず、歩みを止め、あの、想像を絶する美しさに、衝撃を受け、無意識のうちに、呟いた。
「綺麗……まるで、妖精みたい」
彼女の言葉が、落ちた、その一瞬。玉座の上の女王――ミリエル・ローレンスが、まるで、何か信じられない言葉でも聞いたかのように、猛然と、その眼眸を、上げた。二人の視線が、空中で、交わった。
続いて、女王陛下の口元に、あるような、ないような、一筋の、探るような、そして、驚きを帯びた、彼女一人だけに向けられた、微笑みが、浮かんだ。
(え?)
シミアの脳内が、真っ白になった。
(彼女は、なぜ……私に、笑いかけたの? 私が、さっき、何か、失礼なことを、言ったから?)
「コホン!」
一つの、わざとらしい、威厳のある咳払いが、彼女を、混乱の中から、現実に引き戻した。彼女は、それでようやく、絨毯の両脇に、とうに、厳粛な面持ちの大臣たちが、ずらりと並んでいることに、気づいた。あの咳払いと、無数の、冷たい、審視するような、そして、不屑に満ちた視線が、今、彼女の身の上に、集中していた。
「領主の証の儀式へようこそ。一階領主、ブレン家の継承者よ」玉座の上の女王が、立ち上がった。その声は、冷やかだが、有無を言わせぬ威厳を帯びていた。「ローレンスの名を以て、この場にいる、全ての臣下に、感謝する」
その声に、大広間の、全ての大臣たちが、心を動かされた。シミアは、最前列に立つ、二人の人物を、認識した――それは、シャールが、出発前に、彼女に、何があっても、覚えておくようにと、言った、顔だった。
一人は、白髪白髭の、厳粛な面持ちの老者、グリン・エグモンド。もう一人は、陰鬱な眼差しで、口元に、あるような、ないような、冷笑を浮かべた中年男性、ミゲル・フラッド。
(彼らこそが、王国貴族全体の、頂点に立つ、二人の、「十階領主」。)
シミアは、自分の呼吸さえ、止まったのを感じた。ただ、そこに立っているだけで、彼らの身から発せられる威圧感は、まるで、自分のような、領地さえ持たない「一階領主」を、容易く、踏み潰せるかのようだった。
彼女が、その気迫に、心を奪われている間に、二人の十階領主は、すでに、女王に、深く、頭を下げ、そして、彼らの背後で、全ての貴族が、整然と、一斉に、片膝を、ついた。
シミアの脳内は、一片の混乱に陥り、ただ、シャールの、「皆と一緒にやるように」という、叮嚀だけを、思い出し、慌てて、それに倣い、片膝を、ついた。
だが、彼女を迎えたのは、より多くの、より厳しい、視線の攻撃だった。彼女は、それらの視線に倣って、下を向いた。それで、ようやく、恐ろしいことに気づいた――自分の膝が、まさに、あの、王族だけが踏み入れることのできる、赤い絨毯の上に、跪いていることを。
シャールが、千回も、万回も、叮嚀してくれた規則が、彼女によって、すっかりと、忘れ去られていた。
冷や汗が、瞬時に、彼女の背中を、濡らした。
あの、大貴族たちの、まるで彼女を、生きたまま喰らうかのような視線の中で、彼女の脳内は、真っ白になり、そのせいで、後の、儀式の内容は、彼女、一文字も、聞き取ることが、できなかった。
直到、女王の、あの、冷ややかな声が、再び、響き渡るまで。まるで、最終的な、審判のように。
「儀式は、ここまで。シミア・ブレン、私と、来なさい」
シミアは、背中に、冷や汗をかいている間に、何か、肝心な内容を、聞き漏らしたのではないかと、疑った。