6 家族という名のゲームの始まり
母、翔子の隣に響児が座り、その向かい側に祖母。祖父はぽつんとひとりで座り、祖母の隣に沙希は座っていた。
食べたくて作ったはずの牛丼が目の前にありはするが……あんな話を聞いて食欲は失せていた。
祖父母は響児を気に入っているらしく、しきりに話しかけて世話を焼き、その隣で翔子が対抗して響児にかまおうとする。
もの凄く自分ひとりが惨めに感じてせちがらい。
「どうした。沙希」
いつもの、沙希をからかうときの表情で響児が沙希を見る。
もはやにらみ返す気力すらない沙希は箸を置き「ごちそうさま」と呟いた。
「もう食べないの?」
翔子が聞いてくるが、こんな状況で食欲があるわけがない。
同い年の、それも腐れ縁の幼なじみが父親になる。
こんな現実はやっぱり受け入れがたい。
「……ねえ。家はどうするの?」
反対したって無駄なのはもうわかっている。
理性で嫌だと叫んでいるけれど、沙希だって翔子には幸せになってもらいたい。
そりゃもう、相手が気にくわない相手だろうとも。
「この家に住むわよ。一応名義は私になってるし」
またしても予想通りの展開に沙希は全てを諦めたため息をついた。
「仕事は?」
「一応まだこのままよ。響児くんはまだ学生だから生活のこともあるし。子供を産んでしばらくは休むつもりではいるけど、そのあとはちゃんと復帰もするつもりだし。そのあとの赤ちゃんの面倒は申し訳ないけれど、お義父さんやお義母さんにお願いするの。了承もすでにとってるわ」
「…………そうなの?」
じろりと祖父母を見ると、真顔で頷かれた。
「まあ、来年はオレも就職できるように頑張るし。どうにかなるだろ」
「就職できば、の話でしょ」
暢気な顔で言う響児に沙希は胡散臭そうな視線を送る。
「楽観過ぎよ。あんたは」
「ほう。そんなにオレがお前のパパになるのは嫌か」
「あたりまえよ」
同い年の父親なんて冗談じゃない。
言葉にはしなかったが、それは充分響児に伝わっていた。
「そっか。まあ。普通そうだよな」
それを少しは深刻に受け止めているのか、響児はぽりぽりと頭を掻く。
「でも……」
「でも?」
そのあとの言葉をどれぐらいの時間待っただろうか。
「諦めろ」
いつもの意地の悪い笑みをそこに見て、沙希は食卓に突っ伏した。
こんな男と一緒に住むことになるとは世も末だ。
これがまた大学で噂になったりなんてしたら、恥ずかしすぎて顔が上げられなくなりそうだ。
でも、多分。
この男のことだから絶対に言いふらす。
で、沙希の前で惚気話をしたりとかするのだろう。わざとらしく。
友人二人組の爆笑する姿までもが容易に想像できることが悲しい。
「……もー、どーにでもして」
所詮自分の人生なんてこんなものなのかもしれない。
どうしようもなく、どうしようもないまま、三人の同居生活はこの一週間後に始まる。