31話、お館様、夜の極楽居酒屋でとろける。
ーー午後六時半、すっかり日が落ちて、現代の灯りがぽうっと温かく灯る『湯そば庵』のテラス席。
頼重「(大浴場から上がってサッパリし、長椅子にどっしり座りながら)ぷはぁ〜〜、今夜も良い湯じゃった。お館様、お体の調子はいかがですかな?」
信玄「うむ、松千代のハブラシとお芋、そして夏野菜のおかげで、ここ数日腹の痛みなど微塵も感じんわ! 全身から力がみなぎっておる。して、頼重……先ほどから厨房の方から漂ってくる、この炭火で肉と葱が焦げる暴力的なまでに芳しき匂いは一体なんじゃ!?」
権三「がはは、お館様、お待たせいたしました! これぞ大人の夜の部の特権、神の馳走『やきとり』と、きんきんに冷えた『神の酒』にござります!」
作左衛門「お館様、銭の仕込み(食券)はすでに完璧にござる! さあ、松千代様、お館様へ夜の極楽をお届けくだされ!」
松千代「はーい! おじさん、お待たせぇ! じゅーじゅー焼きたての『やきとり』と、ちんちん(キンキン)に冷たーいお酒だよぉ! お皿あっちっちだから、気をつけてねぇー!」
ーー松千代とお初の手によって、信玄公の目の前の杉のテーブルに、濃厚な甘辛いタレをまとった焼鳥と、表面に冷たい水滴をまとったガラスのトックリがポコポコと並べられる。
信玄「おぉお……! なんという香ばししゃじゃ。どれ、まずはこの『神の酒』とやらを……(ガラスのお猪口に注ぎ、一気にグイッと煽る)……!? ーー(一瞬で目を見開き、全身を硬直させる)」
頼重「お、お館様!? やはり酒はまだ早すぎましたか!」
信玄「(お猪口をガタガタと震わせ、あまりの衝撃に言葉を失いながら)……ち、違う! 儂らが飲むドロドロとした濁酒とは、完全に別物じゃ! 水のように透き通り、雑味が一切なく、そして喉が凍るほど冷たくて喉越しが凄まじい! ーー(続いて、焼き鳥をガブリと一口齧る)」
信玄「むおぉおおおお!? 肉が驚くほど柔らかく、この絶妙な甘辛いタレと香ばしい葱が、冷たい酒と絡み合って……美味さが頭の中で爆発したぞぉおおおお!!! (両目から涙をハラハラと流して長椅子の上でとろける)」
作左衛門「(お猪口をキュッとやりながら)がはは! お館様も完全に骨抜きになられましたな! これを風呂上がりに夜風に吹かれながらやるのが、遠藤領の最大の極楽にござりまする!」
信玄「(一心不乱に焼き鳥を貪り食い、お酒をグイグイとお代わりしながら)うぅう……美味い、美味すぎる……。毎日闇に潜んで苦労しておる隠密よ、お主の分もある、遠慮なく食うが良い!」
隠密「(テラスの影から現れ、大号泣しながら)はっ! ありがたき幸せにございまする、お館様ーーーー! ーー(焼き鳥をあむあむ)」
松千代「あはは、おじさんたち、みんなお顔がまっかっかで、にこにこ楽しいねぇー!」
信玄「(真っ赤な顔でデレデレになり、松千代のちっちゃな手を握りしめながら)うむ、うむ! 松千代、お主は本当に天からの授かり物じゃ! 天下の織田信がいくら威張ろうとも、風呂上がりにこの焼き鳥と酒を飲む極楽など、逆立ちしても知らぬわ! 儂は絶対に病を完全に治し、この極楽を日ノ本中に広めるために天下を統一してみせるぞ!」
夜七時五十分、松千代がおめめをゴシゴシ擦っておねむになるまで、武田信玄公は遠藤家の大人たちと一緒になって、焼き鳥を齧り、冷たい酒を飲み交わし、戦国時代最先端の「極楽おやじ」として心ゆくまで夜のテラス席を満喫するのでした。




