終章 追憶
懐かしい夢を見た。
あの大事件ももう五年前の出来事だと思うと、時が流れるのは早いと実感する。沙耶香たちと別れてからもう五年も経ったと考えると、同時に驚きの感情も湧いてきた。
あれから、沙耶香は本格的に巫女になる決意をした。大学を退学してこちらに住み、瑠璃さんの後を継ぐと彼女は決めたのだ。
一方の俺は自分が殺されかけた村に住み続ける覚悟も、香菜のように自分も大学を辞めてまで、支え続ける勇気もなかった。
「私、きっとお母さんに大きな負担をかけてたんだと思うの。少なくとももっと気を遣うべきだった。だからせめてね。巫女になって最初で最後の親孝行をしようと思って」
あんなことになってしまったが、瑠璃さんは沙耶香を自身の跡継ぎにしようとする意志は見せていたようで、沙耶香は幼い頃から巫女のいろはについて叩き込まれていたという。
こうして俺たちは円満に別れ、俺は東京に戻って大学を卒業。そのまま、そこそこの企業に就職した。
慣れなかった社会人生活にもようやく慣れてきた頃、俺の実家宛てに一通の手紙が届いた。沙耶香からだった。
俺は大学には実家から通っており、付き合っていたときに一度家に招待したこともあるし、お互いに手紙を贈りあったときもあったから、その伝手だろう。
手紙には今までは瑠璃さんの代行として巫女の職務に就いていたこと。今度のオマツリで正式に瑠璃さんの後任として巫女になること。そして圭人くんが謝りたがっていることなどが丁寧な字で書いてあった。
――次は時輪村、時輪村。霧睡神社にお越しの方は、こちらでお降りください。
寝ている間にもう近くまで来ていたようだ。俺は降車ボタンを押して窓の外を眺める。
五年前も村に到着したのはこんな夕方だったなと思う。社会人生活で体力もついてきたから、あの時ほど疲れてはいないけど。
減速したバスの車窓から目に入ったのは、五年前よりも綺麗になった巫女装束の女性……沙耶香だった。
時間はいとも簡単に人を大きく狂わせる。一度できてしまった悪意の輪に嵌れば、取り返しのつかないことになる可能性だって大いにある。
この村でのたった一週間の出来事は、それを痛いほど俺に教えてくれた。




