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ゾンビは治せる病気です~Dr.アピリス診療所~  作者: 長多良
第10章 2~8日後・・・
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第113話 3日後・・・⑤博多湾ミッドナイト

 その日の夜。私、蘭葉メアリとアピリス先生、パナテアさん、ジョージさんの四人でとある場所に来ていた。


「ミナミサイクル・・・。自転車屋さん?」


 アピリス先生が運転してきた軽自動車から降りた私の前にあったのは、小さな建物だった。

 アピリス先生が用があるという事で、私は護衛も兼ねてついてきた。

 先生とジョージさんは知ってる場所らしいが、私と、もちろんパナテアさんも初めて来る場所だ。だがパナテアさんは先生から多少話を聞いているらしい。

 私だけ、ジョージさんから「行ってからのお楽しみ」とはぐらかされてしまった。


 そこは博多湾に近い郊外。住宅街と工場街のはざまにある小さなサイクルショップだった。

 決して綺麗とは言えないこじんまりとしたお店。

 今はもう深夜も近くなので店は閉まっているが、裏手の作業場からは灯りが漏れている。


 周囲にも人影はいない。

 元々夜中は人の少ない地区ではあるが、今は感染症の緊急事態でさらに、だ。

 それでも所々の建物は光が灯っている。

 どんな緊急事態でも、自分の住居や会社を放り出せる人ばかりではない、というのは本当らしい。


「自転車屋さんに見えますけど、実はここの店長が・・・」


 アピリス先生が説明しようとしてくれていると、奥の作業場から人が出てきた。


「ククク・・・聞きなれたエンジン音が聞こえたと思ったら、やっぱりアピリスだったナ」

「ミナミさん!」


 独特の口調で現れたその人に、アピリス先生は嬉しそうに駆け寄った。


 丁寧に手入れしているが、それでも落ちる事のない汚れが染みついた作業着。それに身を包んだ30歳ほどの長身の女性。

 作業の邪魔にならないようにショートにした黒髪は、汗と油に晒されてもなお美しさを放っていた。


 彼女はやや気だるそうな皮肉っぽい笑顔を浮かべて、アピリス先生とパナテアさんを見比べる。


「ジョージから聞いたよ。姉ちゃんと会えたんだってナ。よかったじゃないノ」

「はい!ありがとうございます!ミナミさんは大丈夫でした?ここら辺も危険なはずじゃ」

「ククク・・・。アタシは守るモノはこの店くらいしかないんだ。それにアタシみたいな人種は危険スリルには慣れっこ、ダロ?」

「いやいや、無理しちゃだめですよ。と言っても、ミナミさんがここにいてくれたおかげで私は助かりましたけど」

「そうだろ?必要なんだよ、アタシみたいなバカな人間も、サ」


 なんか、口調だけでなく話す内容も独特の人だなぁ・・・。

 しかしアピリス先生もジョージさんも特に疑問を持たず、受け入れている。

 まあ元々知り合いらしいし・・・。


「あのー、それでアピリス先生、この人は一体・・・?」


 中々紹介してくれないので私は自分から質問した。

 まさかただの自転車屋さんに用があるわけでもないだろう。


「ああ、そうですね。この人はミナミさん。ミナミサイクルの店主で、普段は子供相手に自転車の修理とかしてるんですが、実は伝説のチューナーなんですよ!」

「チューナー?」


 テレビとかラジオの話?ではないだろう。何の事かな。

 しかしアピリス先生妙にテンションが高いな。


「車のチューニングですよ!車を改造して、元々より凄いパワーと性能を生み出すんです。ミナミさんは公道最速のマシンを作ったという伝説があるんですよ!」

「車の改造!?」

「私の軽自動車を300キロ出せるモンスターマシンにしたのもミナミさんなんですよ!」

「えええ!?」


 以前ゾンビライダーと戦った時に、アピリス先生は確かにこの軽自動車で300キロ出していた。

 この車を改造したのはこの人だったのか・・・!?


「ククク・・・、お前さんがこの車で本当に300キロ出したと聞いた時は笑ったヨ」

「あの事件を解決できたのは。ミナミさんのお陰ですよ!」

「そんな大したもんじゃない、と言いたいところだが、アタシが責任もってやった仕事だ。心配はしてなかったサ」


 アピリス先生が妙にテンション高い理由が分かった。

 先生はスピード狂なところがあるのだ。きっと憧れの人なんだろう・・・。


「しかしあの車、メンテはちゃんとしてるみたいだが、ちょっと本調子じゃないんじゃないカ?」

「そうなんです。ちょっと山奥の道で無茶してしまって。しばらくは私は研究で籠ってしまいますが、その後はまたこの車の力が必要になるかも知れないんです」

「なるほど、それでアタシにチューニングをして欲しい、ってことダナ」


 怨敵ダンテ・クリストフとの決戦に備えて、車の整備をしに来たという事か。


「ククク・・・まあいいだろう。詳しい話はおいおい聞かせろよ。最高のコンディションにしてやるヨ。」

「ありがとうございます!それともう一つお願いがあって・・・」


 そう言うとアピリス先生はいつも戦いに使ってるニードルガンを取り出した。


「これをもう一丁作って欲しいんです」

「え!それってミナミさんが作ったんですか!?」


 私は思わず口を挟んでしまった。


「はい、再生異常再生症の患者が暴れた場合の治療の方法に悩んでいた時に、ジョージの紹介でミナミさんを紹介してもらって、一緒に考えて作ってもらったんです」

「ククク・・・。まあ、車の改造技術の延長さ。銃の形にしたのはアタシの趣味だけどナ」

「そうだったんだ・・・」

「それでもう一丁ってのは?」

「私が使うためよ」


 パナテアさんが一歩前に出る。


「え、でもこのニードルガンはアピリス先生にしか使えないんじゃ?撃つ時に相手の症状に合わせて薬剤を調合するからって・・・、あ、そうか」


 自分で喋ってる途中で、気づく。


「そうね、だから、アピリスと同じ知識を持つ私なら扱えるはずよ。ダンテ・クリストフとの戦いのために、私も対抗策が必要だから」

「ククク・・・そういう事ね。いいだろう、最高のモノをもう一丁、車のチューニングと一緒に用意してやるヨ」

「ありがとうございます!」

「気にするな。全部終わったら、また一緒に走ろうゼ」

「はい、必ず・・・!」


 アピリス先生とミナミさんの間の空気感は結局よく理解できなかったが、とにかくこれでまた一つ、ダンテ・クリストフとの決戦に向けた準備が進んでいった。

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