第184話:陰謀の終焉
「な……なんなのだ、なんなのだ、これはあああああっ!」
海岸にダンデールの叫び声が響き渡った。
ダンデールは自分が見ている光景が信じられなかった。
オステン島を制圧するためにダンデールが揃えた兵士の数は450、みな歴戦の傭兵ばかりだ。
これだけの人数がいればグレータードラゴンですらその日のうちに討伐できる、そう自負していた。
それが今、ダンデールの目の前で無残な姿を晒している。
浜辺は戦闘不能になった兵士たちで埋め尽くされていた。
ある者は岩に吹き飛ばされて昏倒し、またある者は砂浜に頭から突き刺さってピクリとも動いていない。
次々と倒されていく兵士の中心にイリスがいた。
まるで踊りでも踊るかのように軽やかに飛び跳ねながら襲い掛かる兵士たちを返り討ちにしている。
いや、イリスはもはや狩る側になっていた。
「ひいいいっ!こいつは化け物だあっ!」
「なんだこいつ!なんなんだよこいつはあっ!」
恐慌をきたし戦線を離脱しようとしている兵士も出始めていた。
「ええい!怯むな!陣形を整えろ!魔法部隊は何をしているんだ!さっさと援護しろ!」
指揮官の怒声に魔導士が一斉に魔法を放つ。
魔族だけができる無詠唱魔法だ。
「どうだ!一撃一撃がアークデーモンをも屠る攻撃魔法を20連撃だぞ!これなら奴とて……」
得意げに叫ぶ指揮官の声が途中で止まる。
爆煙の中から出てきたイリスには傷どころか服のほころびすらない。
「ば、化け物め……な、ならば奴の仲間に攻撃を集中させろ!意識を分散させるんだ!」
号令を受けた兵士がキールたちの元に殺到する。
「ぎゃっっ!」
「ぐわっ!」
しかし兵士たちは辿り着く前に体を硬直させて昏倒していった。
「彼女たちには近づけさせませんよ」
そこには左手から電撃を放ちつつ立ちはだかるルークがいた。
「ば、馬鹿な!何故人間如きが魔族を止められる!奴らの脆弱な魔法が効くわけなど……」
「あたしの弟子をそこらの人間と一緒にするんじゃないよ」
「ヒッ!」
突然背後から聞こえてきた声に指揮官が体をこわばらせる。
軋むように振り返るとそこにはイリスが立っていた。
「はうはうはう……」
指揮官は溺れでもしているかのように喘ぎ声をあげることしかできない。
イリスがゆっくりと人差し指を持ち上げた。
「師匠、わかっているとは思いますが」
「わーってるっての、殺しゃしないよ」
イリスが額に指をあてると指揮官は糸が切れたように崩れ落ちた。
「ちょっと魔力の流れを止めただけだって。1時間もしたら目を覚ますよ」
既に戦闘は終結したも同然だった。
人族も魔族も兵士は既に戦意を喪失して遠巻きにイリスとルークたちを囲むだけだ。
「もう終わり?退屈しのぎにもならなかったんだけどな」
イリスは残念そうに周囲を見渡すと人差し指をくいと上に曲げた。
オミッドとダンデールが見えない縄にくくられてでもいるようにイリスの前に引き寄せられてくる。
2人とも顔面蒼白でガタガタと震えている。
「あんたらがこいつらのボスなんだろ?もうちょっと気合入れるように言ってくんないかな?これじゃ張り合いってもんがないんだけど」
「き、貴様は何者なんだ……」
だらだらと脂汗を流しながらオミッドが尋ねる。
「これほど強い魔族であれば儂が知らないわけがない。貴様はどこからやってきた何者なんだ!何故こんなことをする!同じ魔族じゃないか!これほどの強さを持ちながら何故人族などに与しているんだ!」
「まーだそんなこと言ってるのかい」
イリスがオミッドの頭をがっしと掴んだ。
「いっそ魂にでも刻み込まなきゃわからないのかねえ」
「ヒィイイイッ!!」
「師匠!上です!」
ルークの警告と共に突然頭上に影が差した。
巨大な何かがゆっくりと舞い降りてくる。
重厚な羽音と共にルークたちの目の前に降り立ったそれは真っ赤な鱗を全身に纏った飛竜だった。
続いて次々と青い飛竜が数体舞い降りてきた。
その数は約10体、どれも首元に鞍を付けて重装備の戦士が乗っている。
「あれは……魔界の飛竜部隊だぜ。魔界きってのエリート部隊が何でこんなところに……?」
ガストンが固唾を飲み込みながら呟いた。
飛竜部隊、高速で飛来して強力な魔法を叩きこむという魔界の中でも勇猛果敢で知られる部隊だ。
一騎で一個中隊を相手にできるとも言われるその戦力はアロガス王国でも未だに恐怖の対象として語り継がれている。
とはいえ人族と魔界の間に協定が結ばれてからは滅多に人目に出ることはなくなったため、ルークも見るのはこれが初めてだった。
赤い飛竜から1人の魔族が降り立った。
黒緋の鎧を身に纏い、ただならぬ雰囲気を漂わせている。
間違いなく彼が部隊の指揮官だろう。
「おお!バーランジー卿!」
その姿を見たダンデールの顔が喜色に染まる。
面頬を持ち上げたその顔は確かにバーランジー領領主、バルバッサ・バーランジーその人だった。
「彼が飛竜部隊を率いているのか……でも何のためにこの島に?」
ルークの額を冷や汗が伝う。
バーランジーの実力は先日の山賊討伐でよくわかっていた。
しかも今は一騎当千と言われる飛竜部隊を引き連れている。
もしバーランジーがこちらに敵対してくるならただでは済まないだろう。
「へえ、ようやく歯ごたえがありそうなのが来たみたいだねえ」
イリスは楽しそうに歯を見せて笑っている。
「た、助けてくだされ!あ、あの無頼共が!わ、儂の兵隊を嬲り殺そうとしておるのです!これは魔界に対する明らかな加害行為ですぞ!」
ダンデールはバルバッサに駆け寄ると膝元に縋りついた。
「は、早くあの者共を討伐、殲滅してくだされ!あやつらは我らが国に仇なす者、唾棄すべき悪逆共です!魔界領主の威光を今こそお示しくだされ!」
バルバッサが険しい顔でルークを見る。
「痴れ者が……」
その言葉と同時に何かが宙を舞うのが見えた。
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