霊感とオカルトライター
最初は私自身の紹介も兼ねて、この話をしたいと思う。
オカルトといっても色々ある。心霊、超能力、UFO、UMA、科学で説明できないことは全部オカルトだ。でも、オカルトライターの仕事としては、やっぱり心霊関係のコラムを書くことが多い。これまで書いてきたコラムのうち、9割以上は心霊関係だった気がする。
でも、私には霊の存在を感じたり見たりといった、いわゆる霊感がほとんどない。表現を「まったくない」ではなく「ほとんどない」としたのは、多少なりとも変なものを見たり、変な声を聞いたりした経験があるからだ。とはいえ、それが霊によるものだったのかは今でもわからない。
こんな私がオカルトライターとして、心霊関係のコラムを書いていいのかと悩んだこともある。でも、そんな悩みは先輩――それこそ師匠とも呼べるエリさんのおかげですっかり解決した。
エリさんは昔からオカルトライターとして活動していて、ちょっとした縁から私はエリさんのアシスタントになった。
エリさんは気さくなお姉さんといった感じで、仕事について色々と教えてくれるだけでなく、空いた時間には飲みに誘ってくれた。まあ、この辺はエリさんが酒好きで、単に飲み友達がほしかっただけだろう。でも、おかげで飲みの席では、より色々な話ができた。
その中で、霊感を持っていなくて大丈夫なのかといった悩みを話したことがある。そうしたら、エリさんも霊感を持っていないし、むしろ持たなくていいと返された。
そして、私にこんな話をしてくれた。
会社の同僚といった関係とは違うけど、ライター同士も同業者としてそれなりに繋がりがある。人によっては連絡先を公開しているし、お互いに連絡を取り合うというのも簡単にできる。そうして時には飲みに行ったり、情報交換をしたりといった人との繋がりもできる。
その中でエリさんは、霊感があると自負する同業者の男性と知り合った。彼は実家がお寺で、幼い頃から霊感があるだけでなく、霊を成仏させる――いわゆる除霊といったこともできたそうだ。
そんな彼がオカルトライターになったのは、多くの情報を集めやすい職業だからという理由だ。そうして集まった情報を基に、多くの霊を除霊したいというのが彼の願いだった。
彼のオカルトライターとしての活動は、心霊スポットと呼ばれる場所へ行き、除霊などを行った後、その報告をインターネットに載せることだった。どう除霊したかということまで詳しくまとめられていて、彼は一部から「ゴーストハンター」だなんて呼ばれてもいたらしい。
そうして彼は順調に活動していたけど、ある日突然、行方不明になってしまった。それから少しして、彼は遺体で発見された。死因などは今でも不明らしい。
エリさんは彼が行方不明になる直前にも、彼と会っていたそうだ。そこで、霊感とオカルトライターの話になったとのことだ。
霊感というのは単に霊の存在を感じたり見たりできるだけでなく、時には人の念を感じることもあるらしい。オカルトライターとしてインターネットに情報を発信し、それを見た人の念も少なからず感じることがあり、次第にそれは手に負えないものへと変化していったそうだ。
世界には数えきれないほど多くの人がいて、人それぞれ感じ方は違う。そうしたものが念として形を変え、それ自体が悪霊のようになってしまった。彼はそう話してからすぐ行方不明になり、後に遺体となって発見されたわけだ。
そうしたことがあったから、オカルトライターとして仕事をするなら霊感は持たなくていい。むしろ持ったらいけないとエリさんは繰り返し話した。
ちなみにこの話をしてから少しして、エリさんはオカルトライターの仕事を辞めてしまった。私にも理由を説明することなく、突然のことだったので当時は大変驚いた。
エリさんは元気に過ごしているし、今では結婚して家庭を持ち、幸せそうだ。子供ができてからは飲みに行くどころか会うのも難しくなってしまったけど、時々連絡を取り合うぐらいの仲は維持している。
ただ、私は少しだけ気になっていることがある。
「霊感みたいなものはまだない?」
最近のエリさんはこんな質問をよくしてくる。それはまるで、「霊感を持ったらいけない」と言われているようだ。
何も話してくれないけど、もしかしたらエリさんも少なからず霊感のようなものを持ってしまったのかもしれない。だから、この仕事から離れたと考えると納得できる。
私は好奇心が強い。行方不明になった後、亡くなってしまった彼は何を体験したのか。エリさんはなぜ仕事を辞めてしまったのか。それを知りたいという気持ちを強く持っている。
今のところ私に霊感のようなものはない。でも、霊感を持つようになったら、おそらくこの仕事を辞めることになるだろう。
その時、私は知りたいことを知って皆さんに伝えることができるのか、はたまた伝える前に命を失ってしまうのか。こんな楽しみがあるから、私はこのオカルトライターという仕事が大好きで、ずっと続けたいと思っている。
もしかしたら、霊よりもこんな考えを持っている私自身の方を「怖い」なんて思う人もいるかもしれない。
そんな雑話でした。