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子曰く  作者: 神秋路
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縁起の悪いもの ①

「あああああああああああああああ???!!やめろ!!!痛みで殺す気か!!」


 年明け早々、とある森の中からとある一人の青年の悲痛な叫びが聞こえる。


「何を言っているんだい」

「わたくしたちはただ、怪我してる孔を助けたいだけですわ」

「だからって…その手に持ってるもんはなんだよ…」

「これはメスとピンセットですわ」

「これで君のお腹に刺さってるガラスを抜くことができるんだ」

「わたくしたちが二人で頑張って改造したものだから、心配はありませんわ」

「心配しかねえよ!!やるならちゃんとやれ、そこの麻酔使って良いから!!おいバカむやみにに触るな!!!」


 変わらず伊織の怪我の処置、自分の怪我の面倒を見ながら、彼らは新年を迎えた。あらかじめ蓄えていた食料もあり、他にも孔が非常食として残しておいたイモリの干物を少し調理して、「年越しイモリ」なるものを二人で食べて過ごした。ちなみに、孔は魔女が好むイモリやカエルなどを食べることは嫌いである。


 その日の昼、孔がそろそろガラスを引き抜いても良い頃だと、研究室や伊織のいる部屋とは別の部屋に薬屋や道具を用意していた。一通りそろった時に、長谷川姉妹がやってきたのである。どこから話を聞きつけたのか、孔が大けがを負っていることを知っていた。そのために自ら改造した道具を持ってきたと彼女らは言ったが、孔にとってはどう考えても拷問の直前にしか見えなかった。


「畜生、お前らのせいで予定が先送りになった」

「だから、遠慮しないでわたくしたちに任せてくれたらいいのに」


 と言う千代の顔はかなり楽しそうに歪んでいる。


「それでは、予定が先送りになったのなら、月占の神社に遊びに来ないかい?」

「何で?人が多くて行ってられないだろ。第一俺や今養生してる伊織さんは顔がだいぶ知られてるんだぞ」

「誰も来られないところを教えてあげる」

「けど、あの人もまだ怪我が完治してないんだ」

「大丈夫ですわ、ほんの少しだけですから」


 二人はなぜかどうしても孔達を神社に招きたいらしく、孔が何を言っても食い下がった。どうやら二人は、以前の凪の誘いを引き受けたらしい。やがて、話を聞いた伊織もそれなら行きたいと言い出して、孔はとうとう根負けした。


 元日の月占神社は境内いっぱいに町中の人々がごった返していた。正月のために規模が大きくなった授与所には、いつもより圧倒的に多い人数の巫女が必死に参拝者の受付をしている。孔達は裏の方から境内へ入り、まっすぐ社務所へと向かった。真昼ということもあり、社務所には祈祷を受ける参拝者でいっぱいで、凪を訪ねるだけでも苦労した。


「お前らは仕事じゃないのか?」

「私たちが舞うのは祈祷じゃなくて、この後の祭りのことだよ」

「そんな祭りなんてあったか?」

「ほとんど夜中のことですから、知っている方も少ないそうですわよ」

「…ああ、あれのことか」


 その『祭り』は孔も何度か見た記憶があった。きっと、昼はなかなか外に出られない孔のことを思って、凪が誘いでもしたのだろう。

 それは、無事に新年を迎えられたことを祝うもので、参加できる人間は限られている祭りである。拝見することは可能だが、巫女の神楽以外は何が起きているのかあまり分からないため、見に来る人間も少なかったのをよく覚えている。


 実際のところ、何をしているのかというと、月占神社の祭神がその年の一年間の様子を占うだけで、占いが終わると宮司が外に出てきて占いの内容を伝えるだけである。来る人は少ないので、近年はまとめられて社務所や授与所の窓に掲示されている。


「いやでも、あれは夜中だろ?なんで今ここに来なくちゃいけないんだよ」

「宮司さんが呼んで来いって」

「何用だよ」

「それは分かりませんわ。でも、伊織さんの娘さんもいることですし」


 などと双子に押されて社務所に入ろうとしたとき、視界の端に見覚えのあるものが映った。


「あ…」


 声を掛けようとしたとき、それは人差し指を立てて「しー」と、示した。表情を見る限り、「お願いだからそっとしておいてくれ」という意味だろう。それは明らかに他の人間とは馴染めていない程に目立っていたが、孔以外の人間の目には映っていないように思える。

 すぐさま追いかけようとしたが、凪が社務所の奥から姿を現したのもあって、そんなことはすぐに忘れてしまった。


 凪は度重なる忙しさのせいで、疲労困憊した様子で孔達を出迎えた。いつもとは違い、狩衣を身に着けてはいるが、それすらもどこかヨレヨレとしていて疲れていた。


「ああ、来たんだね」

「お前が呼んだんだろ、こっちはまだ腹にガラスが刺さってるってのに」

「正直言って、それは君がいつも試験官を持ち歩いてるせいでもあるだろ。」

「このご時世、何があるか分からないからな。…ところで、何の用事があって呼んだわけ?夜中でも良いだろうに」

「ああ、実はね、気になるものを拾ったから、見てもらおうと思って。ちょっと待ってて」


 凪は急いで社務所内のデスクの引き出しを開けると、何やら宝石のようなものを取り出した。遠目から見てもかなり大きいことと、縁起の悪いものだろうなということには察しがついた。


「…おいおい、俺は何でも屋じゃないんだぞ」


 孔は呆れたように言った。

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