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子曰く  作者: 神秋路
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馬鹿と変態と喪失症 ⑤

 それからその日一日色んな魔法を試した。簡単な魔法であれば何もなくても使えたが、少し規模の大きい魔法や大魔法なんかは魔法書とその魔力が無ければとても使えるものではなかった。


 子供の頃から愛用してきた古い本をやっとのことで本棚から取り出し、ありったけの魔法を試した。


 この症状は、体に異常が起こったことで、魔女の場合使う魔力が混乱し、うまく力を使えなくなるというものだと聞いていた。しかしどうも全てがそうだとは限らないらしい。


 孔が試した膨大な魔法もほんの一部にしか過ぎないため、例外な魔法もある可能性は否定できなかったのだ。まして使っている本は大体十五年程前のものばかりで、散々勉強のために使ってきたためにもうボロボロで外に出すのも危ぶまれる程だ。


(本も新調するか……確か、柳原(やなぎわら)……とかいう人間がなぜか魔法書出してたってこの間凪が言ってたような)


 けれど生活費が限られている中、魔法書などという物を買うのでも随分な贅沢だ。しばらくは我慢しなければいけない。


 そんな生活は驚くことに二ヶ月ほど続き、最後には一日紅茶を飲んで(しの)ぐだけの生活が当たり前になってしまっていた。凪は事情を知ってはいたが、季節も季節で忙しい。そのためよく波美やそれにくっついてきた子供たちが時々何かしらの差し入れをしにやってきた。


「あらあ、知らないうちにこんなにみすぼらしくなっちゃって」

「みすぼらしいなんていつものことだろ。お前は言葉も行動も二つずつ多いな」

「あらあら、聖水の件はごめんなさいね。あれは嫌がらせとかじゃなくて、こう、薬か魔法の役に立てばと思って置いていったのよ」

「あれは教会の聖職者が使うもんだ。魔女なんかに渡したところで弱らすだけだろ……つうかどこで手に入れたんだ」

「ええと……まあ、何でもいいじゃない。知り合いから成り行きで貰ったのよ」

「納得できねえけど……お恵み貰ってるから文句は言えないよな」

「あらあらまあまあ、それはこちらも同じことよ。この間は出雲のこと、ありがとね。おかげですぐに良くなったのよ。ねえ、出雲」

「うん! ありがと、こー!」

「そうだよ! いづもをありがと、こー!」

「『さん』ぐらいつけろクソガキ共!」

「まあまあ……日向も出雲のことすごく心配していたのよ」

「でも、本当に良くなったみたいで良かったな。あのままだったら今でも症状が続いていたかも知れないから」

「まあ、そうだったのねえ。あなたに相談して本当に良かった。ああこれ、差し入れね」

「ああ、ありがとう。お前らがいなかったら俺マジでここで白骨化してたよ」

「ふふ、凪や私があなたと会ってなかったら、そもそもあなたはここに住んでいないわよ。ま、こんなところ凪が継いだ土地とはいえ、あなたがいなけりゃ滅多なことでは来ないんだから、白骨化を超えて風化してたかもね」

「マジでそうなりそうだったんだからやめてくれ……」


 二人が話している間、出雲と日向は備品と薬品だらけの部屋で暴れないように、紅茶とお菓子で行動不能にさせている。けれど、会話の内容だけはしっかり聞いているので、楽しそうに茶々を入れてきた。


「こー、骨なの?」

「まだ骨じゃねえよ……」

「こー、これから骨になるの?」

「なるけどまだならねえよ……お前ら白骨化なんて言葉よく知ってるな」

「私たちの子ですから♡」

「あー将来関わりたくねえなあ」


 子供たちはキャッキャと楽しそうに笑う。よく観察してみれば、言動や顔の節々でどこか凪と波美の子だと分かる。あの凪もこんなに笑うことはあっただろうかと思い出そうとしたが、なぜだか思い出せなかった。

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