侍女
「…結局旦那様は来なかったわね」
乱れのないシーツにほっと息を吐く。
まだ見ぬ旦那様が来ないということは私自身に何の興味も持っていないということ。
結婚式は緊張してしまい終始下を向いていたため顔を知らなかった。相手は今まで王都にいたそうだから顔を合わせる機会もなかったのだ。
噂によると、どんな女性をも虜にする見目麗しい顔立ちと聞いている。
しかし、嫁を放って居なくなる旦那に、好感も興味ですら持てなかった。
安心していると、扉を叩く音がした。
「奥様、おはようございます。身支度をさせていただきます」
昨日の侍女が無駄のない動きで私の身支度をし始めた。自分で服を着ようとするとさっと取られ、気づいたら、いつもよりましになった女が鏡に映っている。
「あ、ありがとう」
「いえ、当然のことをしたまでです」
一見冷たく聞こえるが、やりきった顔がそうではないとわかった。
「ふふ」
「…どうかしましたか」
急に笑った私に困惑したようだ。
「可愛らしいと思ったの。貴女、顔にでていたから」
「なっ、」
侍女は顔を赤くして、動揺する。
その反応も可愛らしいわ。正直な方なのね。
「私1人ではここまで綺麗に着こなせなかったわ。あなたのおかげで今日一日気分が上がるわ。ありがとう」
こういう時はしっかりと相手の目を見て感謝の言葉を伝える。できれば、これから仲良くして欲しいという下心も乗せて。
「...ありがとうございます。ご要望がございましたらお声掛けください」
少しばかり侍女の目が柔らかくなったことを確認する。
「お名前は?明日以降も貴方に来て欲しいわ、いいかしら」
「私はハイネと申します。専属希望であれば侍女長には私から伝えます」
「まあ、宜しくね!」
ハイネは綺麗な礼をして部屋から退出した。
さすが高位貴族の使用人、最後まで仕事が丁寧だ。
それにしても嬉しいわ。この大きな屋敷でひとりぼっちは寂しいもの。