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SS3.フェルメールの人たち

 ここはフェルメールの商人ギルドの応接室、その中から二人の話し声が聞こえる。


「どうしてそれを早く言わないんだ!」


「どうしても何も、私も先日知ったばかりでね。それにいちいちオズワルトさんにお伝えする義理も無いですしね」


 ここ商人ギルドの幹部であるオズワルトとボルボワ商会の店主ボルボワである。


「冷たいじゃあないか、ボルボワ君。私と君の仲だろう?先刻からアインスターさんに会いたいと何度もお願いしていたじゃあないか。それが叶う前にアインスターさんは王都に行ってしまうなんて…」


 しかもそれを私は王都にいる知り合いから聞いたのだよ!とボルボワを睨みつける。


「オズワルトさん…その知り合いというのは王都の貴族ですかな?その方はなんと?」


 実はオズワルトはフェルメールの領主の一族でれっきとした貴族なのである。


「それが…今やこの街の名物ともいえるあのパンについてのことなんだが、アインスターさんが何か関係しているんじゃないか、と探りを入れてきたんだ。他にもアインスターさんのことで知っていることがあれば教えろと…」


「関係も何も…あのパンはアインスターさんが考えたものですからな。まあ、本人の希望でそのあたりは曖昧になっていますが…それでなんと答えたのです?」


「…パンの開発には協力してもらっている、と。いや、先方も随分突っ込んで聞いてくるのであまり本当のことを言うのもまずいかなと思い、濁してはおいた」


「まあ、妥当なところでしょうな。アインスターさんが王都の学校に行くと言っていたことと関係がありそうですが…」


 二人はしばし無言でお茶に口を付けた。


 ……


「それでオズワルトさんはアインスターさんにどのような用件でお会いしたかったのでしょう?これからの面会は日程的に難しいと思いますが、何か聞きたいことでもあれば私が代わりに聞いておきますよ」


 話は全てボルボワ商会を通せ、という事だろう。 


「いや、今のところ特に聞きたいことなどは無い。今は只お礼が言いたかっただけなのだ。君も知っているだろう?アインスターさんと君が持ち込んだパンのおかげでどれだけこの街の商人達や商人ギルドが利益を得たか」


 あれから商人ギルドではオズワルトを中心としてパン工房に技術を広め、他の街にも大々的に宣伝を行ったのだ。その結果、とても美味しいパンがフェルメールにはあると評判になり外からの客も増えた。飲食関係だけではなく今フェルメールの街は全体が活気づいているのだ。


「今のところその製法はうちだけのものだが、時間が経てばこの街の職人が引き抜かれたりして他の街にも技術が漏れるだろう。王都の商人ギルド本部に話を通してこの街の利益を守るように働きかけてはいるが…アインスターさんに何かアイデアがあれば教えてほしいというのはまあ本音なのだよ」


「オズワルトさん、言いたいことはよくわかります。私も正直なところアインスターさんを一人の商人のような目で見ておりましたからな。ですが、王都の学校に行くのだと言われて、はっとしましたよ。考えてみればまだ幼年の女の子なのですよ」


 随分しっかりした方なので見た目相応のお歳なのだということをついうっかり忘れてしまうのです、とボルボワは笑う。


「ですから大人の我々がアインスターさんに負担を押し付けるようなことがあってはいけないと思うのです。私も王都にいる息子にくれぐれもアインスターさんに迷惑をかけてはいけないと、何かあれば助けてやりなさいと、言っているところなのです」


「確かにそうですな…うむ、私も私の出来る事をしていきましょう。さしずめ王都の連中も何故かアインスターさんを注視しているようですからな。そのあたりも気を付けておきましょう」


 ……コンコン


「失礼いたします」


 ノックの音とともに女性職員が焼きたてのパンを持って入室してきた。部屋の中にパンの良い香りが立ち込める。テーブルに置かれたパンを二人は無言で食べ始めるのだった。

 今回は内容の都合上、とても短くなってしまいました。次回から第二章に入ります。引き続きお楽しみいただければ幸いです。


                                     loooko

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