SS2.パウル~娘が可愛い過ぎて困る~
私はパウル。パウル・アルティノーレ。王国騎士をしている。最近特に娘のアインが可愛い。いや、娘だからとか親バカだとか思ってもらっては困る。…本当に可愛いのだ。
よちよちと家の中を這いずり回っていた頃もやはり可愛かったが、そんな娘もいつの間にか私にパンを焼いてくれるまでに成長した。娘の焼いてくれたパンは本当に美味しくて、マリアンヌには悪いがパンを焼く腕はアインのほうが上だろう。
しかしいくらパンを上手く焼くからといって娘をパン職人にするわけにはいかない。二人の息子同様、アインも立派な王国騎士になってほしいと思っている。
そんなアインがあろうことか魔法学校に行きたいと言い出した。よりにもよって魔法だなんて…
妻のマリアンヌの実家が貴族の中でも由緒ある侯爵家なのだがそこの当主というのが魔法師のお偉方で、それはもう偏屈な爺さんなのだ。マリアンヌの祖父だからあまり悪くは言えないが、戦場では魔法師なんて何の役にも立たないし、そのくせ口だけは煩く出してくる。当然、騎士である私とマリアンヌの結婚にも大反対だったから今でもそことは仲が悪い。
まあ、アインはそんなことは知らないだろうから、単純に魔法に憧れたのだろう。私の書斎にあった魔法の本を読んでいたと言っていたのでその影響かもしれない。騎士としては既に十分な強さをアインは持っているので私も渋々魔法学校に行くのを認めることにしたのだ。
そこで私の部隊の隊長であるギルベルト公爵に魔法学校への紹介状を相談したのだがこれが大変なことになってしまった。
「話がある!」
アインと一緒に訪れた団長室で待っていたのはギルベルト団長とヴェルギリウス公爵という魔法学校の副校長だった。
ギルベルト団長はいつもながらの気さくな態度でアインの可愛さを褒めてくれたが、もう一人のヴェルギリウス公爵は挨拶も早々に面倒そうな態度で奥のカウンターの方に行ってしまった。せっかくアインが新調したドレスで着飾っているというのに…
娘の可愛さが伝わらなかったことに内心むっとしていた私だが、アインが魔法を使いだしたころから
徐々に焦りが出てきた。アインの魔法が何とも地味なのだ。
…アインよ、何故私に撃ったような魔法を使わないのだ!
しかし思いとは裏腹に、一連の魔法を見たヴェルギリウス公爵は顔色をサッと変えた。…ふふっ、どうだ、やっと娘の可愛さがわかったか!
そう思っていると私は突然腕を掴まれ奥の別室に連れていかれたのだった。
「パウル、アインスターを騎士学校ではなく魔法学校に入学させたいというのは本気なんだな?」
二人になるとヴェルギリウス公爵はそう言って私に向かった。
「はい、それが娘の意志なのです。是非ともお願いいたします」
「よろしい。魔法学校の入学については私が責任を持って対処しよう。ところでパウル、君のことはギルベルトから多少聞いている。ギルベルトは随分君のことを気に入っている」
それはなんとも嬉しいことだ。自然笑顔になる。
「ありがとうございます。団長にはいつもよくしてもらっています」
「ギルベルトはつまらない人間には良くしないからそれは君の実力だ。まして私に礼を言うことでもあるまい。だがその君にアインスターは試合をして勝った。私も話半分だったが、今の魔法を見て確信した。彼女はとんでもなく強い…」
まあ、確かに息子達よりは剣の未熟を考えても強いことは確かだろう。…私も試合に負けたし。だから私も魔法の有用性は認めるが、しかし何とも公爵の言い様は大げさに聞こえる。
…とんでもなく可愛い、の間違いではないか?
「私も騎士として戦場には出ていますから、アインとの試合は驚きましたが…何故戦場ではあのように魔法を使わないのでしょうか?」
私は単純な疑問だけを言葉にする。
「君との試合がどのようなものだったか私は知らないが…答えは簡単だ。他の魔法師は使わないのではなく使えないのだ」
先ほどアインスターが見せたようなものが魔法なら魔法師は皆、魔法を使えないことになる、と公爵はよくわからないことを言う。
「他の魔法師もアインスターのように戦場で魔法を使えばいい、とそう思ったのだろう?そうすれば圧倒的に戦場で有利だと」
だが…と公爵は続ける。
「他に使える者がいない。そうするとどうなる?簡単に言うとアインスターがいる軍が戦争に勝つ」
それは…アインが危険ではないか!
「娘はそれほどの存在なのでしょうか?」
「それほどの存在だ。今はまだそれが明らかになっていないだけだ。いずれ明らかになる。そうなればアインスターを取り込もうとするものが出てくる」
取り込めないとわかると、命が狙われる…と。
「だからパウル、君がアインスターを魔法学校に入れようとギルベルトを頼ったのは英断だった。ギルベルトは決して人を戦争の道具にはしない。もちろん私も同様だ。だからこれは提案なのだが…」
そう言ってヴェルギリウス公爵はアインを一年早く魔法学校に入学させる話を始めた。次の年にはもう魔法学校に行ってしまうと思うとなんとも寂しいが、確かに公爵の言うように一年をフェルメールの街で過ごすのは危なく思えた。私がいない間に何か起こればアインを守り切れないだろう。
それに私は王都での仕事も多いのでアインが学校に行っていても会う機会があるだろう。…マリアンヌは寂しがるだろうなぁ…
結局私はアインの意志に任せるということにした。
「それではアインスターが入学する際には特別待遇として授業などを免除し、なるべく私の目の届くところに置いておくことにする。ああ、魔法の授業に関しては正直なところ今のアインスターが学ばなければならないことは既にないということだ」
それから試験は受けてもらうが結果に関わらず合格だ、と公爵は当たり前のように言う。…そんなので良いのだろうか?
「まあ、アインスターにはそのことは伝えなくてもよろしい。気を抜いて勉強しなくなっても困るだろう」
これで話は終わりだ、と公爵は元の部屋に戻ってしまった。私も慌てて後を追う。
これでもうアインの魔法学校入学は決まったということだろうか?ヴェルギリウス公爵は途中何か大事なことをたくさん言っていたような気もするが…正直話の全てを理解したわけではなかった。
…つまり、娘が可愛すぎて危険だと、そう言っていたのかな?
「お父様?どうでしたか?」
アインが心配そうに私を見上げる。おっと、いけない。アインに心配をさせてはいけない。万が一、アインが何か危険な目にあっても絶対に私が娘を守る。もちろん妻のマリアンヌも息子達もみんな私が守るが、これまでアインは一人で何でもやるしどこか大丈夫だと安心していたところもあった。だがその油断が取り返しのつかないことにつながるかもしれない。
…娘は私が守る!
もう一度そう心の中で繰り返し、私はアインの頭にそっと手を置いた。




