体育祭当日
雲一つない快晴の空に花火が上がる。体育祭が決行されるのは言うまでもない。吹奏楽部による勇ましい行進曲を背に生徒達が整列すると、任期満了を控えた生徒会長が開会を告げる。開会式が終わると召集のかかった生徒を残し、殆どの生徒が応援席へと戻って行く。
二人三脚まで出番のないレイは、自分より先に応援席に戻っていたフェーゴの隣に腰を下ろした。
「暇だな……」
フェーゴが誰にでもなく呟く。
初等部のものとは違い、高等部の体育祭には全員参加の競技がなく、大抵の生徒が自分の出番までは暇をもて余す。クラスメイトの応援に加わったところで大した効果は生まないだろうし、書物の類いは教室に置いて来ている。
「ウォーミングアップ、するか?」
「まだ大分時間はあるよ」
洞窟でネロに会った日から、レイとフェーゴは毎日欠かさずに放課後の時間を二人三脚の練習に費やした。帰りが遅くなり、事情を知ったクオンやベルリッツが差し入れを持って来た事もあった。それらは全て、今日この日の為に彼らが投資してきた時間だ。どんな結果になろうとも、悔いの残る過ごし方をした覚えはない。その時間の中で出来る事は全てやったのだから。
「なあ、しりとりでもしねぇか?」
今日に限った事ではないが、どうもフェーゴは落ち着きがない。
「フェーゴ、なんかそわそわしてない?」
「まあ、気がかりが無いってこたねぇが……競技に響いてもしゃあねぇからな。今は忘れっか」
そう言ってフェーゴは雲のない空を見上げる。その視界には一面の青。グラウンドに響く歓声はどこか遠く聞こえ、自分だけがこの青い空間に浸っているようだった。二人三脚の召集には、まだまだ時間が掛かりそうだ。
『二人三脚に出場する選手は、召集場所に集まって下さい』
「ついに来たか」
フェーゴが仰向けの姿勢から跳ね起きた。続けてレイも腰を上げ、二人で召集場所に向かう。
と、その時だった。
「若様!」
教師のものではない、大人の声がフェーゴを呼び止める。目をやると、フェルヘイズ軍の兵が数名、台車に乗せた鉄の箱を警備しながら近づいて来る。鉄の箱には幾重にも施錠がされており、簡単には開けられない仕組みとなっていた。
「お、間に合ったか。こいつを待ってたのさ」
曇り気味だったフェーゴの顔に明るさが戻っていく。意気揚々と箱に歩み寄った彼が隊長格と思わしき兵士に目配せすると、兵士達が一人ずつ錠前を外していく。やがて全ての錠前が取り払われ、残るは箱の本体だけとなる。最後の鍵を持っていたのは、フェーゴだった。
ガチャリ、と小気味良い音が鳴り響き、箱の中から姿を表したのは普段フェーゴが身に付けているような赤い籠手。しかし、普段のそれとはいくつかの相違点があった。
一つは大きさ。いつもより一回り大型化している。
二つ目は形状。より機械的な見た目になり、攻撃性も増している。
そして三つ目。その籠手には只の籠手にはない、銃器を思わせるスライド機構が取り付けられていた。
フェーゴは箱からそれを取り出すと、早速右腕に装着して具合を確かめていた。
「いい感じだ。ご苦労だったな、皆」
兵士達はフェーゴに今一度敬礼すると、踵を返して撤収して行く。
「フェーゴ、それは?」
「俺が特注で開発を頼んだ新しい武器さ。そんな事より招集だろ? 早く行こうぜ」
急かすようにそのごつごつした籠手がレイの背中を押す。競技の時間には間に合ったが、それでも他の生徒よりは遅れた為、軽い注意は受けた。
程なくして二人三脚の前の競技が終わり、いよいよ本番となる。
「遂に来たな、レイ」
「ああ、見せつけてやろう。俺達の特訓の成果を!」




