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デイブレイクス〜Daybreaks〜  作者: 煙の物干し竿
第六章 南風に誘われて
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キャンプ当日

 キャンプ当日、フェルヘイズ国立学校の校門前には治安維持部デイブレイクスの面々が集結していた。

そこには元名誉顧問にして新入部員イスルギ・クオンと、現顧問アベル・ゼプター教員、そしてセシリアの姿もあり、揃うべき人物は全員出揃っていた。ゼプターから詳しい日程を説明された後、何故か部活の備品として用意されていたキャンプ用具を持って出発となった。


「それじゃあ出発しよう。現地までは僕が引率するよ」


目指す場所はゼプターが選んだ山だ。整備は行き届いていないが川も流れており、夏のレジャーにはうってつけの場所らしい。

麓までの距離は学校から徒歩でおおよそ一時間弱。送迎車両も出ているが、今回は強化合宿と言う事で、全員荷物を背負ったまま歩き続ける事となった。






 麓までの道のりも決して楽なものではなかった。

何しろ真夏の炎天下を小一時間歩き続けるのだから、休憩を挟まなければ傷病者が出てもおかしくはない状況だ。

そして、山道に差し掛かってからは更に過酷な環境が待っていた。


「セシリア、疲れてない?」


足を止めたセシリアをベルリッツが気遣う。


「いえ、そのただ……山の空気が美味しくて、つい」


寧ろ彼女は汗一つ浮かべておらず、このメンバーの中では最も平気な顔をしていた。誰も口には出さないが、戦闘用に改造されている彼女の肉体はこの程度の山道で音を上げる事はないのだ。


「確かに、町よりは大分空気が澄んでいるな。先生、この辺りで休憩にしては?」


休憩を提案したジオスは二人分の荷物を背負っていた。更にその後ろからは、疲労困憊したイーノがふらつきながらも着いて来る。


「すみま……せん……普段あまり……運動しないものですから……」


「そうだね、日陰も多いし、皆も疲れてきてる頃だろう。休憩にしよう」


部員達は各々荷物を降ろして休憩に入る。喉が渇いていなくても小まめに水分を補給しなければ、思わぬ所で脱水症状を引き起こす事もある。レイがふとクオンに視線を向けると、彼女は竹で出来た水筒を取り出し、水分補給を行っていた。

その表情には先日見せたような陰りは見られず。レイは一先ず安心して自らも水分を摂った。

十分程休んだ後、彼らは荷物を背に再び歩き出した。

 自然に慈悲はない。人が登りやすいような道なども誰かが作らない限りは存在しない。

が、治安維持部はそれを乗り越えられないチームではなかった。

当然のように互いが励まし合い、時には遅れた仲間に手を差し伸べた。常に全員が同じ歩調に合わせながら立ちはだかる苦難を乗り越えて、とうとう川の流れる目的地まで到達した。






 目的地へと到達した彼らは深呼吸をしたり座り込んで休憩しりするが、目的地に着いたからといってゴールした訳ではない。先ず拠点を作るべく男女別にテントを張る作業に掛かった。


「イスルギさん、そっち引っ張って頂戴」


「心得た」


レイが女性陣の方を見ると、クオンがベルリッツやセシリアと協力してテントを張っているのが見える。

つい最近までレイ以外とは滅多に口を聞かなかった彼女が、こうのように他者と協力して一つの作業をしているという事にレイは少なからず感慨に近いものを覚えた。


「どうした」


後ろから掛けられた声にレイが振り向けば、そこには治安維持部一の巨漢、ジオス・ノヴァの姿があった。


「クオンがさ、ついこの間まで人と全然話せなかったのに、今はこうして部長とも上手くやってる。そういうの、良い傾向だと思って」


それを聞いたジオスは目を閉じて暫く沈黙した後、再び口を開いた。


「……俺は、この部には何かしら大きな力があると思っている。それこそ、人を変える程の、な」


人を変える程の、大きな力。確かにあるのかもしれない、とレイは思った。きっとそれは、他の誰かによってもたらされた訳ではなく、一人が生み出している訳でもない。このメンバーが揃ってこそ生み出される力なのだろう。


「おいてめぇら! ボサッとしてねぇで手伝え!」


そこに、フェーゴの怒鳴り声が降りかかる。彼の後ろでは今にも倒れそうなイーノがテントの骨組みを一人で支えていた。


「もう……持てません!」


そう遠くない間にそうなる事は予想がついたが、案の定イーノが手を放し、骨組みを派手にばら撒いた。


「あぁー! 何て事しやがる一年坊!」


フェーゴは頭を抱えて地面に両膝を突いた。


「どうやら俺たちもゆっくりはしていられないようだな、“レイ”」


「ん……ああ、そうだね」


ジオスがレイを名前で呼ぶのは初めての事だった。

未だ進まない組み立て作業へと向かう彼の後姿を、レイは微かに口元を綻ばせたまま追いかけた。






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