演劇本番 その二
幕が降りている間に治安維持部は急ピッチで舞台のセットを入れ替え、先ほどまで人の国だった舞台は魔王城へと様変わりした。
それを可能としたのはレイ。彼が光速移動を利用して物品の運搬を文字通り光の速さで行ったのだ。
そして、魔王と姫が魔王城に到着した所から第二幕は始まる。
「着いたぞ。ここが魔王城だ」
「無茶を言ってしまい申し訳ありません……」
「構わん、お前にはこれから一芝居打って貰う事になる」
レイはあらかじめ懐に隠しておいた大きめのガラス玉を取り出す。
「今からこの水晶玉を使って人の国に声を送る。お前はあたかも拐われたかのように振る舞ってくれれば良い」
「は、はい……」
魔王が念じると水晶玉は青白い電流に包まれる。
「愚かな気人共よ、貴様らの姫君イーリスはこの魔王サタニエルが預かった。声を聴かせてやる」
魔王は顎でイーリスに発言を促す。
「た、助けて下さい!」
「返して欲くば、大人しく和平交渉に応じる事だな。フハハハハハ!」
魔王は、悪役のようにダークな雰囲気、カリスマ性のあるニヒルさを感じさせる笑い声を上げた。
そこで一旦幕が降りて、また上がる。時間の経過を感じさせる演出である。
「サタニエル様、これは一体……」
「申し上げます!」
そこへ、鉄仮面を装着したジオスが乱入した。
彼の第二の役、魔王の部下である。
魔王の部下は跪いてこうべを垂れる。
「人の国側が、勇者を召喚しました!」
「勇者だと? どういう事だ」
サタニエルがイーリスの方へと振り返る。
「聞いた事があります……人の国には古くから、異界より力のある者を呼び寄せる秘法があると……」
イーリスは暫く押し黙ると、再び口を開いた。
「父は、魔物の国を滅ぼす気です……」
「何!? ならお前はどうなる」
我ながら迫真の演技だとレイは思う。
「きっと私はもう……捨てられたんでしょう」
「ええい、何て奴だ!」
「魔王様、ここは私めにお任せを。必ずや勇者を止めて見せましょう」
魔王の部下が一歩、前に出る
「わかった。ただし絶対に殺してはならんぞ? 奴らと同じ程度まで堕ちる必要はない」
「サタニエル様?」
魔王が勇者を殺してはならない、と言ったのはイーリスにとっては意外な事だった。
「御意」
魔王の部下は深くこうべを垂れると、舞台の袖へと退場した所で幕が降りた。
舞台は再び人の国に移った。ジオスは既に王の衣装に着替えている。
「いよいよ明日が旅立ちだな、勇者イスルギよ」
「つまり、魔王を殺せばいいという事だろう」
勇者の衣装を纏ったクオンの登場に、それが代役とは知らない観客は騒然とする。誰もが、勇者は男がやるものだという先入観を抱いていたのだ。
「そうだ、まずは北の洞窟に赴き、勇者の剣を手に入れるのが良かろう」
「それで魔王を討てば、元の世界に帰れるのだな?」
「約束しよう」
勇者イスルギが観客側を向き、数歩歩いたところで幕が下り、次は北の洞窟へと背景が移り変わる。
「ふむ、あれか」
本来勇者の剣が刺さるべき台座には、クオンの愛刀タチモチが突き刺さっている。
彼女がそれに歩み寄ると、仕掛けを利用して魔王の部下が登場する。
「この剣は渡さんぞ」
「魔王の手先か、貴様に恨みは無いが……」
勇者は脇差ツユハライを抜き放つ。
勝負は一瞬だった。彼女が魔王の部下の真横を高速ですり抜けると、彼は力尽き、倒れた。
「元の世界に帰る為だ、許せ」
勇者がタチモチを引き抜き、それを魔力で赤く染め上げた所で第二幕は終了。
物語は最終局面を迎えていく……




