孤児院
フェルヘイズの城下町に位置するヴェナブルズ孤児院。レイが十五年間を過ごした、まさに家のような存在だ。
カルド・カローレで子供が好きそうな土産を買い、孤児院の門に辿り着くと、庭では子供達が元気に走り回っていた。
「あ、レイ兄ちゃん!」
レイに気付いた子供が声を上げると、周囲の子供達はたちまちレイを取り囲んだ。
「レイ兄ちゃん、ひさしぶり!」
「なにそれ、おみやげ?」
孤児院を出るまで、レイはこの子供達の兄代わりだった。身寄りのない子供達にとって、レイは本当の家族のように思えたのだろう。
「皆元気そうで何よりだよ。院長はいるかな」
「うん、おうちの中にいるよ」
レイは子供達に手を引かれ、院の建物まで連れて来られる。彼がここを出た時から雰囲気は変わっておらず、“帰って来た”という想いが胸に沸き上がるのをレイは感じた。
家具の位置などに多少の変化は見られるものの、内装には大きな変化は見られない。
「いんちょー、レイ兄ちゃんがきたよ!」
子供の一人が院長を呼ぶと、椅子に座り、修道服に身を包んだ婦人がこちらを振り返る。
「あらレイ、よく来たわね。今日はどうしたの?」
「久し振り、院長。今日は子供達の様子を見ようと思って」
ヘレナ・ヴェナブルズ院長。彼女は孤児院の子供達にとって母親の様な存在だ。勿論、レイにとっても。
この孤児院をたった一人で切り盛りして今日まで暮らして来た。
「ああこれ、子供達にお土産だよ」
レイが取り出したのはカルド・カローレの焼き菓子。ベルリッツに渡した物と同じだが、こちらは贈り物用として大きな箱に入っている。
「ありがとう。レイが来てくれてみんな喜んでいるわ」
「ならいいんだけど」
レイはまだ赤ん坊の頃にこの孤児院の前に捨てられていたらしい。それ故に親の顔を知らず、同時に普通の家庭がどういったものかも解らない。しかし、大体はこの孤児院の様なものなのだろう、と思う。ここを出て今年で二年目になるが、戻って来れば、やはり自分の家なのだと感じるからだ。
「あの頃はあんなに小さかったのに……時間が経つのは早いものね」
「確かにここを出るまでも長いようであっという間だったよ」
“時は残酷である”とは誰の言葉だったろうか。
その時が充実していればしているほど、早く過ぎていくものだ。レイが孤児院を訪れて談笑しているこの時間もまた、例外ではない。
「じゃあ、そろそろお暇しようかな」
「あら、もうこんな時間ね。そういえば、生活には困ってない?」
「ああ、大丈夫……なのかな?」
大丈夫だ、と言いかけたが、あながちそうでもない事に気付く。収入源であるギルドには最近行っていない。
だが、院長に心配をかけまいとギルドに出入りしている事は隠しているため、今更大丈夫ではないとは言えなかった。
「本当に大丈夫かしら? 困ったらいつでも頼りなさい。ここはあなたの家よ」
「……わかった。本当に危なくなったら頼らせて貰うよ」
実際のところ危険な目に遭い、生活費にも余裕はない状況なのが、今更そんな事は言い出せない。
そこで、ふとクオンの顔が脳裏に浮かぶ。今日は用事があると言った彼女は今、どうしているだろう……
レイは無意識に、言い様のない不安に駆られた。
一方その頃……
フェーゴ、セシリア、ジオス、そしてイーノがギルドに入ると、カウンターの方で何やら口論が行われていた。片方はギルドマスター、もう一方は目に傷のある中年の男だ。
「どうして一人で行かせたんだ!」
「此方もそれが仕事ですので……」
口論、と言うには語弊があるかもしれない。まくし立てているのは殆んど傷の男の方だからだ。
「だが、彼女はまだ子供だ!」
興味を引かれたフェーゴが歩み寄る。
「どうしたよおっさん。穏やかじゃねぇな」
「なんだ君は……っ!」
傷の男はフェーゴに気付くと目を見開いた。それもそうだろう。突然一国の王子が目の前に現れたのだから。
それに反してギルドマスターは落ち着いた様子でフェーゴに応対する。
「これは若様。確か若様はヴェナブルズ様とはご友人で?」
「あん? そうだけどよ」
「でしたら、どなたか伝えては頂けますでしょうか……」
「イスルギ様が、午前の依頼に出たきり帰って来ないと」




