表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デイブレイクス〜Daybreaks〜  作者: 煙の物干し竿
第三章 戦う理由、生きる理由
21/88

雑用と野暮用

 本当は、一目見るだけで良かった。

この目に焼き付けて、心に刻み込むだけで。

だが、欲しい、と願ってしまった。

手に入れる為なら、何をしてもいいと思う程に……












 湿った洞窟内に火花が飛び散る。

それはレイ・ヴェナブルズとその幼馴染、イスルギ・クオンによるものだ。

今、彼らが行っているのは極めて基本的な組手。勝負は五分と五分の均衡を保ち続けている。

レイが特訓を開始してから一ヶ月余りが過ぎた。

彼の成長は目覚ましいもので、以前は組み手をすればクオンの圧勝に終わっていたが、現在は見ての通り、互角に戦える程までになっている。


「僅かな期間でよく此処まで上達したな。私でも追い付けなくなってきたぞ」


「そんな、クオンに比べたらまだまだ……!」


両者は短い鍔迫り合いの後、互いに突き放す。

レイはこの一カ月で光速移動中の制御を目指し、鍛錬を重ねた。

まだ完全な制御には至っていないものの、解除後の隙は大幅に減ってきている。


「ならば此れはどうだ!」


クオンが横薙ぎに右手の刀を一閃する。だが既にそこからレイの姿は消えていた。彼は移動ではなく瞬時にしゃがむ事でクオンの攻撃を回避したのだ。

そして反撃に出ようとレイがその身を捻ると――

――クオンの放った足払いによって彼は盛大に転倒した。

うつ伏せで地面に倒れた彼の首に、冷たい刃が突きつけられる。


「勝負あったな」


クオンはまるで獲物を捕らえた狼のように口元を吊り上げた。


「足を使うなんて聞いてない……」


「お前を殺しに来る敵はそう甘くはないぞ」


先日ヒドゥンマスに襲われた時は何とか退けたが、自分達の生存に気付けばいずれ命を狙いに来るだろう。その時までに、レイは一人でも生き残れるようにならなくてはいけなかった。






 その日の修行を終え、帰り支度を済ませた所でクオンがふと口を開いた。


「そうだ、明日は急な用事が出来たから修行は休みとする」


「用事? そうか、じゃあ俺も久しぶりに孤児院でも行こうかな」


明日は部活があるのだが、折角なのでレイは部活を休んでヴェナブルズ孤児院に行く事にした。






 翌日、部活に顔だけでも出しておこうと、レイは部室を訪れていた。

イーノとフェーゴは、イーノが部室に持ち込んだチェスの最中。討ち取った駒はフェーゴの方が多いが、残っている駒はイーノの方が強力だった。戦術ではフェーゴが、戦略ではイーノが勝っているといったところか。


「今日はギルドに行ってもらうわね」


「は? ギルドぉ?」


さりげなく盤上の駒を引きずり倒しながらフェーゴが振り返った。またしてもベルリッツが校外での活動を提案したからだ。


「この間裏山であんな事があったばかりじゃないですか」


セシリアも紅茶を啜るのを止めて抗議の声を上げる。


「何も危険な依頼をこなして来いとは言わないわ。今日受けて貰うのは、雑務よ」


雑務、という単語に全員首を傾げる。


「イーノ、説明よろしく」


イーノはしばらく駒が薙ぎ倒されたチェス盤を眺めて呆然としていたが、ベルリッツの声で我に返る。


「あ、はい。えー、ギルドは今、魔物の活性化やヒドゥンマスの活動開始などに関連した対応に追われています。そんな中、一般市民からの些細な依頼、つまり薬草の採集や運搬などといった雑務は後回しにされ、埋もれてしまっているんですよ」


イーノが説明を終えると、ベルリッツがそれに続く。


「確かに、魔物やヒドゥンマスに比べれば、雑務なんて大した事ないのかもしれないわね。でも、自分じゃ出来ないからお願いしたのに、誰もやってくれないって考えると、ちょっと可哀想じゃない?」


「わかんねぇでもないけどよ、そこで俺らが動く必要はあんのか?」


「あら、誰かを助けるのに理由がいるかしら?」


どこかで聞いたようなセリフを言い放つベルリッツは、ギルドを通して地域住民からの信頼を勝ち取ろうという算段らしい。

また姉さんの気まぐれか、とジオスも嘆息する。


「最近、治安維持らしい治安維持をしていない気がします……」


「やる事がないからって、余った時間で無理やり活動するこたぁねえだろうに」


更に、セシリアとフェーゴも呟きを漏らす。


「と、とにかく、私はこれから部長集会があるから、余ったメンバーで行って来なさい! レイ君は、孤児院に行くんだったわよね?」


「はい」


「じゃあ、ジオスと若くんとセシリア。ついでにイーノもさっさと行きなさい!」






 追い立てられるように四人が部室を出て行くのを見届けると、レイも椅子から立ち上がった。


「それじゃ部長、お先に失礼します」


「あ、待って。相手が子供なら、お菓子とか持って行った方が喜ぶんじゃないかしら?」


「それで喜ぶのは部長じゃないですか? まあ、何か買っていきますけど」


「それがいいわ。じゃあ行ってらっしゃい」


レイが部室を出ると、先程部室を出た四人はまだ部室の前で固まっていた。


「みんなも大変だな」


「いや、姉さんのああいう所は昔から慣れている」


「私は慣れてませんけど……」


「慣れろとは言わない、その内平気になる」


そうして校門までジオス達と談笑し、レイは自分の育った家へと向かった。






私はお土産がタオルや洗剤だとガッカリします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ