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水曜日、雨が降ったら  作者: 天王洲アイス


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24/24

第24話:永遠の周波数(エピローグ)

奇跡のようなこけら落とし公演から、一年が経った。


相変わらず俺たちの日常は多忙そのものだった。

俺はJソリューションズの次世代インフラ部門の統括となり、部下の三島さんは今や大規模プロジェクトを一本任されるほどの立派な一人前に成長した。

そして藍奈さんは、自作の『水曜日、雨が降ったら』をひっさげた世界ツアーを大成功させ、世界的なアーティストへと羽ばたいていった。


お互いに多忙で会えない日々も多いが、俺たちの間にある周波数は、距離や時間に邪魔されることなく力強く繋がり続けていた。


今日、彼女が長い世界ツアーを終えて帰国する。

そして今日は、水曜日だ。


14時10分。俺は路地裏の喫茶『雨音』のドアを押した。

いつものカウンター席に腰を下ろし、マスターの淹れるブレンドの香りを吸い込む。

時計の針が、約束の14時15分を指した。


カラン、とドアベルが軽やかに鳴る。



「待たせてごめんなさい、五代さん!」


店に入った瞬間、いつもの席でメガネの位置を直しながら振り返る彼――五代さんの姿が見えた。

私は薄手のマウンテンパーカーを脱ぎながら、迷いのない足取りで彼の隣の席へと滑り込んだ。


「おかえりなさい、藍奈さん。世界ツアー、本当にお疲れ様でした」


「ただいま帰りました、五代さん!」


15歳の年齢差も立場も越えて、互いの顔を見つめ合い、自然と微笑みがこぼれる。


「世界ツアーの過密スケジュールで、少し痩せたんじゃないですか? ちゃんと食べてますか」


「ふふ、五代さんこそ、統括になってからまた白髪が増えたんじゃないですか? 無茶ばかりしてるでしょう」


「お互い様ですね」


顔を見合わせてクスクスと笑い合う。

ココアとコーヒーの湯気越しに交わす会話は、一年の会えない月日を一瞬で埋めていく。


その時、店の窓ガラスにポツポツと小さな水滴が跳ねた。

あっという間に、外はしとしととした静かな雨に包まれていく。


「あ……雨、降ってきちゃいましたね。やっぱり僕が雨男だからかな」


五代さんが窓の外を見上げながら自嘲気味につぶやいたのを遮るように、私は身を乗り出した。


「ふふ、五代さん。実はね、ずっと秘密にしていたことがあるんです」


「秘密……?」


「五代さんは自分のことを筋金入りの雨男だって思っているみたいですけど……実は私、影の『雨女』なんです。人生の大切な日や、本当に愛おしい時間には、絶対に雨が降るの」


私の告白に、五代さんは一瞬目を丸くし、それから心底おかしそうに肩を揺らして笑った。


「なんだ……じゃあ俺たち、引き寄せ合うべくして引き寄せられたんですね」


「ええ、きっとそうです」


マスターにお礼を言い、私たちは店を出た。

外は、街のノイズを優しく包み込むような、穏やかな雨が降り注いでいる。


五代さんが大きな黒い傘を開き、私の方へと差し伸べてくれた。


「行きましょうか、藍奈さん」


「はい!」


私は彼の手にそっと自分の手を重ね、ひとつの傘の下で肩を寄せ合った。

濡れないようにと、さりげなく自分の肩を雨に濡らしながら傘を寄せてくれる彼の優しさが、たまらなく愛おしい。


雨音の重なる水曜日の街。

二人の足音と微笑みが、どこまでも温かい周波数を奏でながら、未来へと続いていく。

『水曜日、雨が降ったら』を最後までお読みいただき、本当に、本当にありがとうございました!

中間管理職の重圧に疲弊していた45歳のエンジニア・五代零士と、求める歌姫像と等身大の自分に悩んでいた30歳の歌姫・雨宮藍奈。

二人が路地裏の喫茶店『雨音』という小さなシェルターで出会い、お互いのプロとしての矜持をリスペクトし合いながら、雨の日の周波数を重ね合わせていく物語はいかがでしたでしょうか。

本作を書くにあたって大切にしたのは、「単なる歳の差の恋愛」ではなく、「プロフェッショナル同士が対等に学び合い、成長していく姿」でした。

五代が藍奈から学んだ「心に届く音」「部下へのプロセスの承認」。

藍奈が五代から学んだ「裏方の泥臭い誇り」「原点の自分に戻る覚悟」。

重機事故、大規模停電、そして観客史上最大級の台風……様々な壁を現場の仲間たちや三島、神宮寺専務の意地と共に乗り越え、ひとつの「最高の原音」に結実したラストステージは、作者にとっても胸が熱くなる執筆体験となりました。

雨音の重なる水曜日の街で、ひとつの傘の下に寄り添う二人。

彼らの奏でる温かい周波数は、これからもずっと、どこかの雨の街で静かに響き続けていくはずです。

最後になりますが、読者の皆様に、心からの感謝を申し上げます。

もし「二人の恋や仕事の続きが見たい!」「三島ちゃんのその後が気になる!」など、外伝やSSショートストーリーのご要望がありましたら、ぜひブクマや評価(★★★★★)、感想などで教えていただけますと幸いです!

ノイズに満ちた日常の中で、雨が降るたびに、ふとこの二人を思い出していただけたら最高に幸せです。

これまで付き合いいただき、本当にありがとうございました!

天王洲アイス

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