もう嘘はつかない
案内が終わると、コンピュータ科目の授業が始まった。経済学を専攻しているからといって、この分野で一番だったとは言わないが、正直なところ、最初はプログラミングに関わることはすべて大嫌いだった。しかし、経済学の課題でコンピュータを使うことに慣れてしまえば、再びプログラミングをするのはまるで冗談のようだった。
「かわいそうなクラスメートたち、君たちは気づいていないようだが、君たちの中で、俺がここで一番優れているんだ」
先生が何かを説明している間、俺は心の中で笑っていた。
「カイトくん、これ全然分からないよ」
ヒカルくんがPythonの言語を理解するのに苦労しているのが分かったから、良き友人として手助けした。彼がそれに苦戦している姿を見るのは本当に気の毒だった。日本の友人・ケンドウを思い出した。きっと、彼とよく似た人は他にもいるんだろうな
(今思えば……不知火は生まれつきの天才だから、こんなこと、彼女にとっては大したことじゃないんだろうな……)
俺の言葉は、不知火がまるで当たり前のように、広告パネルも含めて、商品の売買を行うウェブサイトをゼロから作成しているのを見て、途切れてしまった。最悪なのは、先生がそんなこと教えてもいないということだ。
(この女性には怖気づいてしまう。俺のような凡人なら、これほど複雑なことを敢えてやろうとは思いもしないだろう)
先生は、俺たちのレベルを測ることができるようなウェブサイトを作るという課題を出した……
……
…………
(ちょっと待って……今、何かおかしいことが起きている……以前やったことと同じことを、またやってしまったような気がする)
一瞬、頭の中に奇妙な感覚がよぎり、それが本当に不安を掻き立てた。
(ひかると電話番号を交換したっけ……? 覚えていないけど、交換したような不思議な感覚がある)
不知火と俺が10点を取った授業が終わると、ひかるが何も疑っていないうちに、この不思議な出来事を話そうと彼のところへ近づいた。
「ねえ、ヒカルくん、また電話番号を聞かれたの、変だと思わなかった?」
「え? どういうこと?……さっき君に教えたばかりじゃないか」
俺はその場に立ち尽くし、戸惑った表情で彼を見つめた。記憶の断片が脳裏をよぎり、ようやくあの瞬間を思い出した。どうやら、何らかの理由で記憶の一部が消去されていたらしい。まるでNPCが自分の行動を忘れてしまったかのように、まるでゲームのエラーのようだった。
「なるほど……でも、俺、時々物事を忘れちゃうから、そう言ったの。またこういうことがあったら、いつも思い出させてくれる?」
平然を装っていたが、実のところ、あの忌々しい女神がキャラクターたちの記憶を好き勝手に操作しているかもしれないと知り、恐怖で震えていた。心を操る能力を持つ誰かに見られているという事実が、私を不安にさせた。
(この件について、俺の唯一の味方……あの忌々しい変態をそう呼べるならの話だが……と一緒に徹底的に調査しなければならない)
そう考えていると、ちょうど3年生の教室へ向かおうとしたその時、威圧的な声が私を止めた。それは生徒会長の声で、まるで自分が他の人より優れているかのような態度をとっていた。
「ちょっと待って!今すぐ生徒会室に来なさい」
「仕方ない、今行くよ……」
(本当にうっとうしいな!)
エスコリアムラに会って、女神からの特別な力を引き受けるかどうか聞いてみようと思っていた。ところが、その途中で生徒会長に呼び出され、事情聴取を受ける羽目になった。
「本題に入りたいんだけど…… もうご存知だと思うけど、高校を盛り上げるための教育活動を行うため、全員が何らかの部活動に所属しなければならないの……でも、1ヶ月経ってもあなたはどの部活動にも参加していないわ。だから、今すぐ空いているこれらの部活動に入ってもらいたい」
松本は、文芸部、水泳部、新聞部の3つの入会申込書を私に見せた。
「まだ空きがあるのはこれらの部活だけよ。ジャーナリズム部はおすすめしないわ。毎週記事を書くのが嫌だという子が多いし……」
(くそっ、またあの長ったらしい説教が始まる。この会話はスキップしたほうがいい)
もううんざりだったので、私は最も無難な選択肢を選ぶことにした。
「ジャーナリズム部に入ります。」
「え? マジで?」
「言いたくないけど……調査するのが大好きだし、写真も得意なんだ。」
(嘘だよ、経験があるように見せかけるためだけに言ってるだけ。とにかく、さっさとここを離れたいだけなんだ!)
「それなら、申込書に記入して、部室に行って部会長に提出すればいいよ」
「わかった、ありがとう」
(物事を深く考え込むのが好きではないので、記憶が正しければ、単に主役も脇役もいないクラブを選んだだけだ。それに、松本と長く話していると、彼女に目をつけられてしまうような事態になりかねない)
ちょうど生徒会室を出ようとしたその時、松本が予期せず、奇妙な口調で再び私を呼び止めた。
「あの……えっと……この前、君が殴られた時、助けようと思ったんだけど……何もできなかった。でも、私が自信を持てるように、わざとあんな風に振る舞ってくれたんでしょ? 本当に……ありがとう」
「……」
その言葉を言い終えたとき、彼女の顔がほんのり赤くなっていることに気づいた。俺にとって、それは最悪の兆候だった。何しろ、私たちの間にはますます相性が良くなっているのだから。
(まさか、ここまで来てから……)
「ねえ……そもそも、俺を助けるために、他のクラスメートと一緒に来てくれればよかったんじゃない? 、俺の行動は最善ではなかったのは分かってる……でも、結局のところ……あれは「俺一人でもできる」という無謀な考えで、事前の計画もなしにやってしまったからで、結局、バカみたいに見えちゃっただけ!」
(俺を好きになるか、嫌うかのどっちかだ。いずれにせよ、彼女は来年卒業する、嫌われても大したことじゃない)
「え? な、なぜ生徒会長で松本グループの後継者である松本カナにそんなことを言うの? 私たちは何よりも安全を最優先し、腐敗と闘い……」
彼女は、松本グループが国内で行ったあらゆる活動について、少なくとも5分ほども私に説明し続けていた。これ以上の要約はないだろう。そう、彼女が話し続けている間に私はその場を抜け出したので、彼女があとどれくらい壁に向かって話し続けていたのかは分からない。
「この辺りにジャーナリズム部があるはずだ……」
部活動が行われている教室を見やると、すぐに殺気立ったオーラを感じ取った。ゲームやカイトさんの記憶からすると、あの部の連中はゴシップに飢えた怪物のような存在と見なされており、興味深い会話や何か起きた出来事を聞き逃さないよう、聴力を研ぎ澄ませているらしい。部長は一度も日光を浴びたことがないと言われている。
(ドアをノックすべきだ)
「すみません……中に誰か生きていますか?」
最悪の事態を覚悟しながら、俺はそっとドアをノックした。
「今日は誰も来なかったみたいね……」
「……入ってもいい……」
謎めいた声が俺を迎え、ドアがゆっくりと開いた。
「まるでホラー映画みたいだ」
そっとドアを開けた。
予想通り、教室は真っ暗で、プリンターが置かれた小さな机を照らす光がわずかに見えるだけだった。
「待ってたの……あなたが来るって分かっていたわ」
耳元でその声を聞いた瞬間、俺は動揺した。振り返ると、暗闇の中でかろうじて見えるのは金髪の少女だった。今のところ、俺を殺すつもりはないようだった。
「君が部活の会長だよね?」
「うん……うん……私だよ。ついてきて、いくつか質問するから。」
俺たちはあの机の方へ向かった。その途中、どこからともなく椅子が投げられてきて、そこに他にも人がいるような気がした。
「よし……申請書は正しいね……最初の質問、他人を覗き見するのが好き?」
(一体どんなクソみたいな質問だ? 彼女を納得させるような答えを返さなきゃ)
「えっと……仮に誰かを監視しなければならないという状況なら、そうかもしれないね。その人がどんな暗い秘密を隠しているか、誰にも分からないから。」
「よし……2つ目の質問。もし川で溺れている愛犬と恋人のどちらかを救わなければならないとしたら、どちらを先に救う?」
(そんな質問で何を狙ってるんだ、この変人?)
「その仮定の話なら、犬を先に救うだろう。だって、犬と『恋人』の間にはすでに親密な絆があるかもしれないし、流れが激しい場合だけ行動すればいいから」
「素晴らしい……3つ目の質問。噂を信じますか?」
(...)
「正直、意味が分かりません。結局のところ、それらは見た目に惑わされ、状況を理屈で理解しようとしない人々の推測に過ぎないからです。もっとも、場合によってはその人が真実を語っている可能性もありますが、そのためには、どんな噂であっても、その噂の発信者に直接尋ねるべきだと思います」
「素晴らしい、魅力的、崇高、壮大!」
その少女は机全体を片側にずらして、俺の顔に素早く近づいてきた
「あなたは私たちが探していた人そのもの……ヒヒ」
(実のところ、質問を考えるのにそれほど時間はかからなかった。いくつかは心理テストと罠を組み合わせたような、まあ、奇妙なものだった)
「ねえ……あの変な質問の理由、教えてくれないの?」
「はじめまして、井村樹です、よろしく」
彼女は腕を伸ばし、俺の手を優しく包み込んだ。
(気持ち悪い)
彼の手から抜け出そうとしたが、すぐに握りしめられてしまった。
「よし、みんな、明かりをつけて」
ほぼ瞬時に明かりがつき、少年と赤毛の少女は、どちらも真剣な表情をしていた。
(一体何に巻き込まれたんだ? まるでカルトみたいだ)
「ただ一つ聞きたいんだけど、君たちは僕がこの部に入ることを前から知っていたの?」
「おやおや、やっぱり想像通り頭がいいね。お気づきだろうけど、私たちは『噂』で言われているような普通の部活じゃない。私たちは、たった数秒ですべてを分析する超天才たちなんだ」
「たった3つの質問で、俺が超天才だって言ってるの?」
「いやいやいや、俺たちはずっと前から君をマークしていたんだ……2日前から……以前は君を『良い奴』とは見なしていなかった……でも、神崎に辱められても、君があれほど自然体で振る舞った姿は、俺の目には芸術作品のように映ったんだ!」
これを聞いて恐怖で身動きが取れなくなった。あのクソ女神にいつも監視されているのが不快だなんて言ったのは知ってるけど……
(これはやりすぎだ!)
「どれくらい前から俺を監視していたの?」
「さっきも言った通り……60時間13分45秒、60時間13分46秒……」
「俺の家で俺をスパイしていたの!? 」
彼女は一瞬言葉を切り、やがて奇妙な笑みを浮かべ始めた。
「まあ……『ずっと』ね。これで君の質問には答えたよ 」
俺はクラブから逃げ出そうと一瞬で距離を置いたが、2人は素早い動きで私の腕をつかみ、身動きが取れなくした。
「離してよ、変人ども! 」
何かできるかのように必死で彼らの脚を蹴ったが、その握力は強すぎて動けなかった。
「おい、落ち着けよ。いつも見られているのがどれほど居心地が悪いかなんて、私たちも分かってる……正直、こんなことしたくなかったけど、『誰か』が君を監視していたから、やむを得なかったんだ。」
「またストーカーが増えたってこと?」
「訂正するわ、『ストーカー』ね。だって、彼女の動きは一見すると女性そのものだったし、暗い色のジャケットを着ていても、その曲線美がはっきりと見て取れたから」
逃げ出そうとする気持ちを捨て、落ち着いて真剣な眼差しで彼女の目を見つめた。
「あの人、誰だか分かる?」
「私にも分からないよ。隠しカメラをすべてかわしているみたいだし、私が調査した中で最大の謎だけど……最高だ!」
彼女の言葉には、わずかな陶酔感が感じられた。
「よし……以上だ。解散していいぞ」
「ありがとうございます、イムラ様」
二人の少年は去っていった。
「アラカワ、君も帰らないのか?」
「冗談はやめてよ……俺のこと、もっと知ってるんでしょ?」
俺の直感が正しかったことを示すかのように、イムラはゆっくりと拍手を始めた。
「本題に入るよ……」
……
…………
………………
「……………………………………………………『お前は誰だ?』…………………………………………」
彼女の笑顔が消え、真剣な眼差しを向けてきた。その目は、俺が真実を答えるまで、ここから離さないという意思を示していた。
「俺は荒川カイト。ただの、ある少年で……」
「嘘をつかないで。1ヶ月で人がそんなに変わるわけがない。短期間で人が変わるなんて、心理的にあり得ないわ。」
「何て言えばいいんだ? 記憶喪失だって言うのか?」
「説得力がないな。君は何かを隠している。どうやら『ストーカー』もそれに気づいているようだ……」
彼女の執拗さは圧倒的だった。ゲームの中で、今村一樹という名前の存在を聞いたことは一度もない。彼女は『エラー』として生成されたのかもしれない。あるいは、偶然に自我を獲得し、再びゲーム内に侵入した人工知能なのかもしれない……あるいは、女神がゲームをプログラミングする際、人間の体に宿らせることを単に言い忘れた存在なのかもしれない。
「本当に知りたいの?」
俺は威嚇するような口調でそう言い放った。この秘密をゲーム内の誰かに話してしまえば、世界そのものに影響を及ぼしかねないと思ったのだ。おそらく、それにより、さらに大規模な記憶の消去を引き起こしてしまうだろう。
「さあ、言ってみろ!」
少女は動じなかった。俺は彼女から離れ、安定した距離まで下がると、まるで高品質な短編映画を模倣するかのように、この方法でオーラを蓄積し、非常に支配的な印象を与えようと考えた。
「わかった……俺……俺は……俺は……俺は……俺は……俺は……」
「さっさと済ませなさい。他にもやることがあるんだから。ドラマチックな演出はよして。」
(くそっ、後悔させないぞ)
「わかった……『俺は転生者だ』!」




