かつて親友と一緒にプレイしたゲームの脇役として生まれ変わったとはいえ、僕が望むのは、そのゲームの世界で彼と一緒に暮らし、彼を守り、再び彼の親友になることだけだ
亡くなった。
……
あの朝、ただそうして亡くなってしまった。
……
『ハンクくん』はまさにその日に亡くなっていた。
……
「なんてことだ……恐ろしい……!」
『ハンクくん』の遺体の周りには大勢の人だかりができていた。彼は、それは、僕がとても気に入っていたあのゲームを彼に勧めた友人だった。その瞬間の衝撃で、僕は言葉を失った。
(ハンクくん……)
気づかないうちに、頭の中でその名前を何度も繰り返していた。警察の発表によると、事故は2027年6月1日、午前6時から7時の間に起きた。彼が23歳の誕生日を迎える5日前のことだった。
僕は、死因を特定するために救急車で『ハンクくん』の遺体が運び出されるのをただ見送っていた。その日は大学へ行くこともなく、3日後に葬儀の日程が発表されるまで、部屋に閉じこもっていた。
(『ハンクくん』……)
「今日、私たちはここに集まり、人生で成功を収める可能性を十分に秘めていた若者を偲んでいます。しかし、人生は永遠ではありません。この出来事が、私たちの未来が決して保証されていないことを、皆に思い出させてくれることを願っています」
東京大学の学長は、敬意を込めてそう述べた。
僕は周囲を見回し、彼の両親を探した。彼らの目に悲しみが映っているかどうか確かめたかったのだ。しかし、彼らの表情には、まるで全く気にしていないかのような様子しか見られなかった。
(『ハンクくん』……)
その名前は、葬儀の間もなお、頭の中で響き続けていた。『ハンクくん』。僕にとって、彼は単なる友人ではなく、前へ進むための支えでもあった。多くの人が『真の友人』と呼ぶような人物だった。女子生徒たちからは大人気だったが、彼が誰かに興味を示す姿を見たことは一度もなかった。男子に関しては、何か得があればどんなグループにも平気で加わっていた。僕は彼と知り合ってからずっと、そのことをよく知っていた。
「ねえ、ハンクくん、うちの家族がパーティーを開くんだ。試験も終わったし、みんな招待されてるよ。でも、君は特別ゲストになるよ」
そう言ったのは、裕福な家庭の息子である入間だった。
「それって、俺にもご飯を出してくれるってこと? 特別な存在だから、タダで食べられるの?」
『ハンクくん』は漫画を見ながら、ごく当たり前にそう言った。
「ああ、もちろん。君は一番勉強に励んでるから、きっと優先すべきことがたくさんあるだろうしね」
「もちろんだよ! ずっとこういうパーティーに行ってみたかったんだ」
『ハンクくん』は厚かましくも嘘をついていた。
最初から、『ハンクくん』は信用しがたい人物だと警告されていた。僕はクラスで一番の優等生でもなければ、誰の目にも留まるような存在でもなかった……それぞれ異なる未来を持つ主人公たちの間で、ただの『脇役』に過ぎなかったのだ。
「おい、そこの、こっちを見てる君! もし気が向いたら、俺のパーティーに来てよ。悪いことなんて企んでないから」
「えっと、僕は……」
その瞬間、僕たちの視線が交わった。『ハンクくん』は僕をじっと見つめた。これから何が起こるのか分からなかった……でも、そのパーティーに行かなければならないからこそ、試験には一生懸命取り組んだのだ。
もう大学1年生になっていた。入間が言った通り、彼は自宅でパーティーを開いた。とはいえ、家というよりは、金で飾られた大きな邸宅で、何人ものメイドがいた。一見、不良のように見えたが、意外にも『ハンクくん』と同じように猛勉強するタイプで、二人は1位の座を争っていた。
(僕もあの人たちみたいになれたらな……)
レンタルしたスーツを着て、応接室に入った。かなりお金がかかったが、そんなことは気にならなかった。今こそ、誰かと交流しなければならないと分かっていたからだ。パーティーは他の人と知り合うための場だが、実のところ、僕は誰ともまともな会話を続けることができなかった。
「ねえ……君は……えっと……ヨシダ?」
『ハンクくん』が僕の後ろに現れた。
「あ! えっと……はい……あ、あの、ごめんなさい、邪魔しちゃったかな!」
「ああ……そんなこと言わないで。ただ、君がここにいるのが嫌そうに見えたからさ。実のところ、あのバカに、どうやってそんなに簡単に資産を増やしているのか白状させるために来ただけなんだ。ちょっと酔わせてやれば、きっと全部話してくれるだろう」
彼の話し方は、冷徹で計算高い人のものだった。
「えっ、えっ?! あ、まさか……!?」
「何を想像してたんだ…?俺たちが友達だとか、そんなことか…?もちろん違うさ。ただの猫とネズミの遊びだっただけだ。世の中ってそういうものさ、相棒。勝つ者もいれば、負ける者もいる」
その瞬間、僕は『ハンクくん』の言葉に驚かされた。当時の僕はただ聞くだけで、彼の振る舞いに反論することなどできなかった。
「でも……なぜそんなことを言うんだ?」
「君を威嚇するつもりはないよ。ただ、君はどんなことを言われても、それを他の人にどう伝えればいいか分からないタイプ、つまり内気な人なんだって気づいただけさ。君が来ることは最初から分かっていた。何しろ、君みたいなのは扱いやすいからね。それに、そういうことを言えば僕 も少しは格好よく見えるだろ?」
「なるほど……」
『ハンクくん』は僕を物としてしか見ていなかった。僕はエアコンの効いた部屋の中の、ただのほこりの粒に過ぎなかった。
「アドバイスを一つ……裕福な家庭の子供たちを探し出して、彼らを利用し、彼らの寄生虫になれ。それが君にとって最善だ。さよなら」
両手をポケットに突っ込み、まるで世界全体が戦略ゲームであるかのように、彼は力強い足取りで去っていった。その瞬間、僕の心境は言葉では言い表せないものだった。
(人間のクズ……)
そう思った一方で、成功するかどうかは定かではないにせよ、彼が成し遂げたことには感心していた。その理由がすぐにわかった。
(ハンク様に追いつきたいなら、彼に僕を注目させなきゃ)
休暇中は、各科目でどのような学習法を用いるべきか、どう評価すべきかについてアドバイスをもらうため、大学の卒業生を探すことに専念した。大変ではあったが、『ハンクくん』君と競い合うためにランクアップすることだけが、僕の唯一のモチベーションだった。
学期が過ぎ、学業が進むにつれて、僕は社交力を高めることに専念した。『ハンクくん』が選ぶような基準で多くの人と人脈を築いた。『ハンクくん』が嫌うような内気な少年であってはならない。新しい『自分』にならなければならなかった。明らかに『ハンクくん』もそれに気づき始め、ついに僕に目を向けてくれた。
そうして、大学3年生の時、僕は『ハンクくん』の信頼を勝ち取った。もう彼を「くん」と呼べるようになったのだ。というのも、あの操る者で、冷淡で、利己的で、残酷な人物の背後には、僕と同じようなごく普通の人間がいることに気づいたからだ。
しかし、『ハンクくん』が、僕が苦労して手に入れた人脈を利用し、『友情』という名目だけで、実質的に僕を操ろうとしていることも分かっていた。それでも、『ハンクくん』と一緒にいるために費やした努力を、そう簡単に捨て去ることはできなかった。もし僕がまだ『ハンクくん』にとって友人として役に立っているのなら、それでいい……
「『ハンクくん』、このゲームすごく面白いよ、やってみて。グラフィックのクオリティがすごく高いって評判なんだ」
「ああ、確かに……でも来週は中間試験があるから、ゲームで時間を無駄にはできないんだ」
それはインターネット上で人気を博したゲームで、制作に約7年かかったと言われていた。すべては『メガミ・スタジオ』という会社のおかげだった。設立されたばかりの会社で、投資家たちは収益が見込めないと見なしていたが、意外にも彼らがリリースした『SCHOOL OF LOVE』は市場で大ヒットを記録した。『ハンクくん』が恋愛ものには興味がないことは分かっていたから、一緒にプレイしようと説得しても無駄だった。
「えっと……やってみる?」
「待って……ちょっと休憩するのも悪くないかも。このゲームのことは聞いたことあるけど、実際にプレイしたことはないんだ。ちょっと気になっているよ。」
彼が僕と一緒にプレイすることに同意してくれたことに驚いた。口には出さなかったが、不機嫌そうな表情が読み取れた。プレイ時間が経つにつれて、彼がこのゲームを気に入っていないことは明らかだった。ある意味、彼に無理強いしているような気がした。しかし、その不機嫌そうな表情にもかかわらず、『ハンクくん』は僕の気持ちを理解しようとし、普通の友達のように振る舞おうとしているのが見て取れた。そこが、僕が『ハンクくん』を好きだった理由だった。
「やりたくないなら、無理しなくていいよ……」
か細い囁き声だった。
「何て言ったの、ケンドウくん?」
「何でもない……じゃあ、もう行くね。ちょっと遅くなっちゃったし、夜に授業があるんだ。これは家に持って帰るよ。気に入ったら、隣のブロックの店で買えるよ」
僕は立ち上がって荷物をまとめ始めた。
「そうね……覚えておくわ、ケンドウくん」
なぜそんなことを言ったのか自分でもわからなかった。どうせ買うつもりはないと分かっていたのに。
こっそり彼の後をついていくと、彼が本当にそれを買っていたことに驚いた。彼の顔には微笑みが浮かんでいた。悪意のある笑顔ではなく、まるで僕がそれで幸せになることを願っているかのような、幸せそうな笑顔だった。
翌日、それを買ったかどうか尋ねると、ハンクくんはためらうことなく笑顔でそれを見せてくれた。できることをいろいろ試しているんだ、と言ってくれた。きっと、本当の友達として振る舞えることを僕に証明したかったに違いない。
この頃には、もう『ハンクくん』の操ろうとする意図には気づかなくなっていた。最初は、友情が思い通りにいかないのではないかと怖かったけれど、結局のところ…… 『ハンクくん』は変わっていた。僕のおかげではない。彼自身が変わることを選んだのだ……それが最初から僕の目的だった。人は変われるということを証明すること。
また、気づかないうちに、僕自身も人として変わっていた。『もしカイトが僕の存在に気づかなかったら、どうなっていただろう?』と、いつも自問していた。たぶん、それぞれ異なる人生を送る主人公たちで溢れた世界の中で、ただの『脇役』に終わっていただろう……
(『ハンクくん』に電話したほうがいいな、ずいぶん時間がかかっている)
ゲームを紹介してから2日が経っていた。一瞬、彼がゲームにハマってしまったのかと思った。そんな可能性は低いけれど、相手は『ハンクくん』だ。彼は本当に予測不能だから。
授業が終わり、彼の番号に電話をかけた。
「『ハンクくん』、寝ちゃったの?……もしもし?」
……誰も出なかった……
僕は、一緒にゲームをした彼の家へ向かうことにした。
一歩一歩、僕は何気なく歩いていた。ただ、彼がゲームにハマってしまったという結論しか頭になかった。
「ひどい! ひどい!」
一人の女性が叫び声を上げた。彼女だけでなく、歩道を囲む大勢の人々も同様だった。これほど多くの人が取り乱し始めるという事実に、僕は戸惑いを覚えた。
「ハンクくんはきっとこのゴシップを気に入るはず」
僕は何気ないふりをして、ゆっくりとスマホを取り出した。
ついに電話に出てくれることを期待して、彼の番号をダイヤルした……
あの着信音が聞こえてきた。『ハンクくん』がいつも使っているデフォルトの着信音だ。その音は、とても遠くにあるようで、でもすぐそばにあるようにも聞こえた。
……
その音は、あの人混みの中から聞こえてきた。
……
その音。
……
『それはハンクくんの着信音だった』
こうして『ハンクくん』の人生は終わりました。彼は僕に前へ進む力を与えてくれ、ある目標を胸に抱き続ける力を与えてくれたのです……『ハンクくんのようになりたい』と。
こうして僕たちはこの瞬間にたどり着いた。僕は葬儀の場にいる。そこには、ただ友達のふりをしている人たちが並んでいる。彼らの満足げな表情が感じられた。
彼らは最初から、もう重荷がなくなることを理解していたのだ。ライバルが一人いなくなった。大学とはもともとそういう場所だった。ただ、大学での友情は平和な雰囲気を作り出すために、あまりにも美化されすぎていたのだ。誰もが忘れていた。
結局のところ、大学とは「誰がすべてにおいて優れているか」「誰が他者から際立つか」「その物語の『主人公』は誰になるか」を競い合う場なのだということを。
(『ハンクくん』……『ハンクくん』……『ハンクくん』……)
最後のお別れを告げるよう言われる中、僕はその言葉を繰り返し呟いた。
(最後にもう一度……)
長く続く道のようだった場所から数メートル先、僕はついに白いバラを手にその場所にたどり着いた。目の前には、かつて僕の友人だった、僕の人生でただ一人の友人の遺体が横たわっていた。僕は、彼をそうさせるために自分がとった行動を振り返った。ある意味、彼に無理やり僕の友人になるよう強いてしまったような気がした。聞いた話によると、彼は鉄片が落ちて胸を貫かれ、その衝撃で亡くなったという。
スーツ姿の彼――それでもなお死んでいる――を見るのは、彼の人格に対する侮辱のように思えた。
(『ハンクくん』……)
僕は彼の死を否定した。彼が僕の元を去ってしまったことを受け入れられなかった。しかし、現実は僕の目の前にあった。
「これからも……頼りにさせてほしい……『ハンクくん』……」
まるでため息のようなその言葉が僕の口から漏れた。もっと言葉をかけたいと思ったが、言いたいことが山ほどある中で、もう何を言えばいいのかわからなくなっていた。 「もういい……次は俺の番だ」 僕の後ろにいた少年が、急いで通り抜けようとしていた。
「いや……行きたくない……」
僕の言葉には声が出ていなかった。
「一日中ここにいるわけじゃない。俺たちが……」
「黙れ……」
その少年は、僕を急かして立ち去らせようとし続けていた。彼は痛みを装っているのは明らかだったが、本当は彼を憎んでいた。『ハンクくん』のいない世界の方が、結局のところ彼ら全員にとって良いのだ。
「黙れ……!」
「黙らないよ。君は言うべきことはもうすべて言ったんだから、これ以上気まずい雰囲気にならないようにしよう……」
「黙れ……『ハンクくん』の悪口なんて言うな!!」
「このクソ野郎……」
僕は躊躇することなく、容赦なく彼を殴りつけた。憎しみの眼差しを向けながら、目からは小さな涙がこぼれ落ちた。
「『ハンクくん』はまだここにいる……君の言葉を聞いてる、今、怒ってる……」
「あのバカは死んだ……もう何も残ってない……」
「『ハンクくん』は生きている……『ハンクくん』は生きている……!」
誰ももう口をきこうとはしなかった。僕を止めようとしていた先生たちも、まるで何が起きているのかを理解したかのように、すぐに手を止めた。
「『ハンクくん』は生きている……『ハンクくん』は生きている……『ハンクくん』は生きている……『ハンクくん』は生きている…… 『ハンクくん』は生きている……!『ハンクくん』は生きている……!『ハンクくん』は生きている……!」
あの死者が蘇ることを願って、その名前を繰り返し口にした。とはいえ、彼はただ現実を否定しているだけの哀れな人間に過ぎなかった。
「吉田さん!お気持ちはわかります、ですが、そんなことは…… 」
「『ハンクくん』は生きている……!『ハンクくん』は生きている……!『ハンクくん』は生きている……!『ハンクくん』は生きている……!!『ハンクくん』は生きている……!!『ハンクくん』は生きている……!!『ハンクくん』は生きている……!!『ハンクくん』は生きている……!!『ハンクくん』は生きている……!!『ハンクくん』は生きている……!!『ハンクくん』は生きている……!!!『ハンクくん』は生きている……!!!『ハンクくん』は生きている……!!!『ハンクくん』は生きている……!!!!『ハンクくん』は生きている……!!!!!!『ハンクくん』は生きている……!!!!!!!!」
誰もがそれが嘘だと分かっていたけれど、その言葉を繰り返しても何の意味もなかった。僕は、もうこの世にはいない『ハンクくん』の死をひたすら否定し続けていた。ただ、僕の呼びかけの一つひとつが、『ハンクくん』を彼らが閉じ込めた牢獄から目覚めさせてくれることを願っていただけだった。
「まだ……彼に伝えたいことがたくさんあった。本当にたくさんあった……『ハンクくん』と一緒に過ごしたい瞬間が山ほどあったのに、今や僕は『ハンクくん』にとって何者でもない……登る人のいない梯子のようなもの、打ち込む釘のないハンマーのようなもの…… イソギンチャクのないカクレクマノミ、花のないミツバチ、サメのないクリーニングフィッシュ、落ち葉のカエルのない細足のタランチュラ……」
僕は互恵的な関係を次から次へと語り続けた。声が枯れても、魂の限りを尽くして叫び続けた。涙が言葉を遮り、僕は打ちのめされたように地面に崩れ落ちた。
「『ハンクくん……』」
それが僕が覚えている唯一のことだ。気を失う直前、『ハンクくん』が「冗談だよ」と言って立ち上がる姿を想像しながら、彼の顔を見つめていた。
何よりも辛かったのは、彼の両親でさえ悲しみの色ひとつ見せず、まるで世界そのものが『ハンクくん』を憎んでいるかのようだったことだ。
……
日が過ぎ……
日は週へと変わり……
週は月へと変わった……
そして月は年へと変わった……
その間のどこかで、僕はかろうじて最低点で卒業した。大学を中退しようかとも考えたが、両親がこれほど苦労して払ってくれたお金を無駄にしたくないという思いから、かつてのやる気を失ったまま卒業してしまった。今、僕は最初からそうあるべきだった姿に戻ってしまった……主人公たちばかりの世界における『クソみたいな端役』に。
「『ハンクくん』……今ならきっと、君は僕を殴りながら『お前はクソ野郎だ』なんて言うだろうな」
これが今の僕だ。50歳前後の老人。自分の年齢が何歳なのかは一度も知らなかった。ただ、僕が知っていたのは、『ハンクくん』の誕生日が毎年6月6日だということだけだった。そして今、彼は54歳になった。
「もし可能だったなら、『ハンクくん』はきっと成功して、もしかしたら愛も見つけられただろうに……『ハンクくん』」
世界は変わっていた。毎年6月1日、僕は『ハンクくん』が亡くなったあの場所を訪れ、彼が亡くなった場所を自分の血で印をつけた。この数年間、僕は小さな店でパートとして働いていた。それほど多くのお金は稼げなかったが、生活するには十分だった。
「もし『ハンクくん』が生きていたら……きっと良い仕事を紹介してくれただろうに」
年を重ねても、僕は彼を『ハンクくん』と呼び続けた。それが、僕の心の中で『ハンクくん』を生き続けさせる唯一の方法だったからだ。
彼の55回目の誕生日に墓参りに行き、まるで彼がそこにいるかのように墓に酒を注いだが、彼はそこにいなかった。
「長い年月が経ったね……天国で幸せに過ごしているといいな」
もう涙をこらえきれなかった……そして、今がその時だと決心した。
(『ハンクくん』……)
僕はゆっくりと橋を渡り、橋の真ん中までたどり着いた。眼下には激しく流れる川があった。
「これから僕がしようとしていることを、許してくれるといいな……『ハンクくん』」
僕は必死に橋の端まで駆け上がり、冷たい夕暮れの中、沈みゆく太陽を無力感に苛まれながら見つめていた。そして、飛び降りた……
(『ハンクくん』
『ハンクくん』
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たくさんの岩に打ちつけられ、水の中に沈んでいく中で痛みを叫ぶことさえできなかった。しかし、『ハンクくん』のことを思い出し、この痛みはあの時に感じたものに比べれば何でもないのだと思った。
僕の存在が川の中に溶けていくまで、もう安らかに休むことができた。
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死の後に何が見えるのか、しばらく考えていた。神が、僕が犯した自殺という行為を、何らかの形で許してくれるだろうかといつも思っていたが、もう後戻りはできない。
《さっさと目を覚ませ……》
僕の言葉は、突如として、暗闇の世界の中で囁き声が聞こえ始めたことで途切れた。やがて、その暗闇の世界の中で、僕はその姿をはっきりと見ることができた。僕の目の前には誰かが立っていた。その人は、輝く緑色の模様が施された服を着ており、目は真っ白で、体からは輝くオーラが漂っていた。
「お前は誰だ?」
それが僕が最初に口にした言葉だった。この場所に僕を連れてきたのは、間違いなく、ある種の神に違いないと確信していた。
「僕の行いを裁くつもりか? そりゃあ……」
「私はアルシス・デムス、生の神だ……会えて光栄だ、人間よ。」
「僕に何を求めているんだ? 僕は死んだのか?」
「いや……君に重要な使命を託したい。かつて君の友人だった……『ハンク 藤本』トのことだ」
その名前を聞いて、僕が知っているあのハンクくんと同じ人物なのか分からなかった。この状況全体が奇妙に思えた。
「つまり……『ハンクくん』は生きているということですか?」
「厳密には生きているわけではないが、君がかつてプレイしていたあのゲーム『School of Love』の中にいる、とだけ言っておこう」
そのゲームの名前を再び耳にして、僕が彼に初めてそのゲームを見せた時の記憶がよみがえった。
「そのゲームが『ハンクくん』と何の関係があるの?」
「メガミ……彼女は気まぐれな女神で、君の友人を殺した。彼は、愛の女神に初めて挑んだ人間『藤本広恵』の血を引く子孫だったからだ」
「メガミ? それって、あのゲームをデザインしたスタジオの名前じゃないの?」
「あの忌々しい女が人間界で影響力を行使しているなんて、危険だ……」
その存在は怒りに震えながら拳を握りしめた。
僕は、その神が語った言葉から、次に何が起こるかを予感した。
「僕に何を求めているんだ?」
そう言い終えるや否や、まるで「誰か」が悪事を働こうとしているかのように、その場が揺れ始めた。
「まさか……見つかってしまった……これだ!」
瞬く間に、その存在は小さな輝く球体を私に向かって放ってきた。
「これで、お前は『愛』に飲み込まれる前に、ゼン・ミクロフがデザインしたオリジナルキャラクターとして転生することになる。その名は『宮村 光』。このキャラクターは、メガミの視線を避けるように設計されている。ハンクは常に危険にさらされている…… メガミは自分のゲームの中で彼を主人公に強制し、拷問しようとしている。そして、彼が誰かに好意を抱いた時には、再び死ぬことしか考えられなくなるような方法で彼を苦しめるつもりだ……君はどんなことからでも彼を守らなければならない。彼はメガミを倒すための我々の唯一の希望だ。君は……」
笑い声が、私たちがいた場所を遮った。あの神から与えられた情報を、かろうじて思い出すことができた。
「それなら……そういうことなら……僕が『ハンクくん』をどんな危険からも守ってあげる」
その場所が砕け始め、ひび割れから羽根が、泡やハートの形をした胞子と共に落ちてくるのが見えた。
「その球体に触れろ。さもないと、この気晴らしは無駄になる……!」
一瞬も迷わず、僕はその球体に触れた。すると、数ミリ秒のうちに老いた僕の体は若返り、顔はかつての若い頃の姿ではなく、今では非常に女々しい少年の顔になっていた。そう気づいたのは、ちょうどある家――おそらく僕の部屋になる場所――に瞬間移動し、そこに鏡があったからだ。
「おや……つまり、また若返ったわけか……ハハ……」
その時の気持ちを説明できる言葉などなかったし、この心地よさを表す表情も見つからなかった。
(自分のしたことで裁かれることはなかったようだ。まだその時ではなかったのだろう)
階段を下りると、そこには今や僕の両親と思われる大人二人がいた。
「おはよう、パパ、ママ」
「おはよう、光ちゃん」
確認した。今は『宮村光』だ。これから『ハンクくん』に会わなければならない。スケジュールを確認すると、ちょうど5月の第1週だった。今は京都に住んでいる。ルートは以前と同じだったので、記憶が正しければ、ゲームの舞台となった竜珠高校は滋賀にあるはずだ。
(早く会いたいな……『ハンクくん』)
高校に着くまでそれほど時間はかからなかった。案の定、今の僕はただの「脇役」に過ぎないが、なぜか重要な登場人物のような気分になった。あちこち探してみたが……
—そうだ……日本での顔とは違っているはずだ。彼の振る舞いを手がかりにすべきだ……
他の生徒たちを調査するためだけに授業をいくつかサボっていたところ……
「さあ、臆病者……気持ち悪い豚……ちゃんと謝りなさい!」
それは、ゲームのヒロインの一人である神崎 桃の声だった。彼女はそこで、ごく普通の男子生徒を苦しめていた。
(当然だ。何しろ、どんなエキストラに対してもそうするだろうから――)
「えっと……はい……どうか、あなたの服に触れる権利すらないこの卑しい男を許してください。俺は最も厳しい罰を受けるに値します」
その少年の言葉を聞いて、エキストラがそんなことを言うはずがないと気づいた。何が起きているのか、ほぼ瞬時に理解した。あれは『ハンクくん』だった。自分の利益しか考えない人間だからこそ、常に勝つために手段を選ばないのだ。
「ハ……」
僕は言葉を止めた。今、彼の本名で呼んでしまえば、あの神が話してくれた女神に知られてしまうかもしれない。『ハンクくん』と話すには、適切なタイミングを見計らわなければならなかった。
また一日が過ぎた。今度は何をすべきか分かっていた。こっそりと職員室に忍び込み、僕のクラスの生徒名簿を探すと、そこに今の『ハンクくん』の写真があった。
「カイト アラカワ……今、君はそう呼ばれているんだね」
(カタカナ? なぜ彼はそんな風に書いたの?)
同じクラスに不知火麗華という名の別のヒロインがいることに気づいた。彼女と常に一緒にいるのは運命なのだろう。というのも、ある意味では、『ハンクくん』はゲームをしていた頃、彼女を憎んでいたのだから。
その情報を手に、僕は自分の教室へ向かった。そこには『ハンクくん』がいた。文字通り、僕の3つ前の机に座っていた。不審がられないように、いつ近づけばいいか見極めなければならなかった。
……1日後……
料理の授業で、3人1組になるよう言われていた。その時、僕は行動に出た。彼はそこで何かをささやきながら笑っていた、かろうじて聞き取れたのは、「幸い、こういうことには慣れている。今はエキストラ扱いだから、きっと自動的に他のエキストラたちと組むことになるはずだ」という言葉だった。
(さすが、僕が知っている『ハンクくん』だ)
『ハンクくん』のグループに加わると、レイカも一緒にいた。実際に会ってみると、彼女は素晴らしい人だった。でも、『ハンクくん』の表情はそうは言っていなかった。『ハンクくん』に再び認められるために、ラーメン作りに全力を注いだ。『ハンクくん』は、文句一つ言わずに指示通りに動く人や、操りやすい人を好むことを知っていた。何しろ、彼は皆から嫌われているあの『ハンクくん』なのだから。
ついに、僕たちは最高評価を獲得した。『ハンクくん』が喜びの声を上げるのを見た。まるで自分の死など全く気にしていないかのようだった。
「やったぞ……!…………君、名前は何だったっけ?」
僕は一瞬ためらった。そこにいるのは私の友人であり、何年も前に亡くなった人だった。その瞬間の懐かしさに胸がいっぱいになり、ただ微笑んで自分の名前を告げた。
「そうだ、僕は宮村ヒカルだ。どうやら、これが初めての会話みたいだね」
「はじめまして、宮村」
彼は緊張した様子だった。
僕は笑顔を絶やすことができなかった。どういうわけか僕の祈りが届き、『ハンクくん』に再び会えたのだと分かっていた。しかし……どこか気にかかることがあった。
「念のため、俺は『荒川カイト』だ。きっと仲良くできると思うよ」
彼は電話番号を交換しようとスマホを差し出した。
本名を隠さなければならないことは分かっていたが、彼を単に『ハンクくん』と呼ぶことしか考えられなかった。胸が張り裂けるような思いで、今の彼をそう呼ぶしかなかった。
「ありがとう、荒川! こんなに短い時間で友達だと思ってもらえたのは初めてだよ、へへ」
敬称をつけることはできなかった。また『ハンクくん』とうまくやっていかなければならない。彼の信頼を勝ち取るのに2年ものスピードランを要したが、結局のところ、これらすべてには見返りがあった。これからは、『ハンクくん』と一緒に再び人生を楽しめるのだ。
(『ハンクくん』、また以前のように友達に戻れるといいな)
今、僕には新たな目標ができた。あの神が言ったことから彼を守らなければならない。『ハンクくん』を救えるのは今や僕だけだから、それなら。
…
……
………
…………
『かつて親友と一緒にプレイしたゲームの脇役として生まれ変わったとはいえ、僕が望むのは、そのゲームの世界で彼と一緒に暮らし、彼を守り、再び彼の親友になることだけだ』




