俺の親友
午後1時、俺はすでに家の外に出て、ヒカくんと待ち合わせる場所へ向かう地下鉄に乗っていた。彼が短期間で俺の信頼を勝ち取れたなんて、今でも信じがたい。かつてハンクだった頃、俺には本当の友達ができるような人間になるのが難しかった。
周りの男子はみんな、人気者になりたいがために私の友達になろうとしていた。しかし、ケンダオだけは、一目見た瞬間から両親よりも強い絆を感じた。彼の内気さと優しさが、彼を唯一無二の存在にしていた。とはいえ、それに気づいたのはしばらく経ってからだったが。
(本当にケンドーみたいになりたいな……どうやら『カイト』は『ケンドウ』と似ているようだ)
地下鉄は満員だった。この時間帯ならいつものことだ。こうした隙をついて女性に手を出す変質者たちを何人も見分けられた。もちろん、俺はいつも先手を打って、彼らを徹底的に辱めてやった。
「本当に、このバカどもはうざい……」
と、痴漢を殴った後、俺は疲れ果てて呟いた。
(中村に会うのは確実だった……まだ彼にどんな蔑称をつければいいかわからないな。『変態の中村』? それかもしれない)
話しているうちに、言及し忘れたことがたくさんあると思うが、俺が今通っている『龍珠』高校は滋賀県にある。先ほども言ったように、この世界の地理は元の日本とほぼ同じだが、ゲーム内ではインフラが少し充実している。待ち合わせ場所は京都だ。ヒカくんの話によると、彼はそこから来るらしいから。
待ち合わせ場所へと続く大通りを歩いていくと、大きな噴水の前に、ヒカくんが携帯電話を手に立って待っていた。
「カイくん!やっと来たね。ちょっと迷った?」
「迷ったわけじゃないよ。ただ、いろいろ考えてただけさ」
と、彼に挨拶しようと歩み寄った。
「よし……いい場所を知ってるよ。何しろ、この長い一週間の授業の後は、しっかりゆっくり休む価値があるからね」
彼は嬉しそうな表情で親指を立てた。
「もちろん、誰だって、少しくらい休む時間は必要だよね」
(休む……)
このゲームに転生したことを知った時、真っ先に頭に浮かんだのは、安らぎの瞬間など持てないだろうということだった。
(『カイト』はよく休んでいて幸せそうだった。ハンクなんかとは、本当に違う)
女の子、授業、ゲーム、漫画など、普通の高校生の男子が話すような様々な話題について話した。こういう瞬間は、二人きりの時の『ケンドウ』をとても思い出させた。まるで、昔の自分と同じようなバカと話しているようだった。
(ケンドウくん……)
俺たちはゲームセンターに入った。そこには『ストリートファイター』をモチーフにした格闘ゲームがたくさんあったが、著作権の問題でその名前は使われていなかった。これらのゲームは、誰かと対戦する際にカジュアルなイベントとして登場するものだった。
(『カイト』はこの手のゲームが苦手だった……でも、どれだけ恥をかかされても、いつも笑顔を絶やさない)
「うわっ……また君に負けた…… 」
彼はアーケードゲーム機から立ち上がり、私の方へ急いで近づいてきた。
「このゲーム、僕が一番のはずなのに! なんでそんなに僕を辱めるんだ、カイくん!」
些細なことで怒り出す、騒がしい子供のようだった。正直、そんなヒカくんの愉快な一面が好きだ。彼を見るたびに、どうしても『ケンドウ』の顔を重ねてしまう。
(人って、ある面では似たようなところがあるものなんだな)
ヒカくんが俺に文句を言っている間、俺はもう何も気にならないかのように思わず笑みを浮かべてしまった。今、俺が望んでいるのは、普通の高校生として平凡な生活を送ることだけだから。
「ねえ、ヒカくん、ラーメンでも食べようよ。遊びすぎて、食事のことをすっかり忘れてたみたいだし」
「ハハ!ついに、長い間空腹に耐えることでは君に勝ったぞ…………」
彼が言い終わる前に、大きな腹の音が鳴った。明らかに俺のものではない。そうでなければ、俺自身がそう言ったはずだ。その音はヒカくんのものだった。
「恥ずかしい……これって……」
彼は顔を赤らめて振り返った。
思わず笑ってしまった、ヒカくんにとっては自分への嘲笑に映ったようだ。『ナルト』さながらの食べ方でラーメンを食べ終えた後、ヒカくんは俺を、日本のそれと同じような橋――渡月橋へと案内してくれた。
(ここって、カップルが通る場所じゃないの?)
俺は困惑した表情でヒカくんを見つめ、彼の異性愛者であることを疑った。
「ねえ、ヒカくん。この場所は、好きな人と来るほうが良いと思わない?」
「何言ってるの、カイくん?友達と来る場所でもあるよ……でも……」
ヒカくんは、まるで俺を挑発するかのように、危険なほど俺の耳元に近づいてきた。
「友達以上の関係になりたいんじゃないの?」
「フェムボーイの魅力を利用して、そんな馬鹿なことを言うな!」
恥ずかしさのあまり、俺は本能的にヒカくんから距離を置いた。
ヒカルくんは笑い止まなかった。あの女っぽい外見をゲイのジョークのネタにするなんて、反則だ。
(あの遺伝子、本当に憎くなるぞ、くそっ)
俺たちは橋をゆっくりと歩いた。俺は周囲を見回し、笑っている人々を眺めていた。あの人たちは『カイト』とは違う人生を送っているのか、それとも同じなのか、俺にはわからなかった。もしかすると、彼らは存在価値など何もない単なるNPCなのかもしれない。
(「エラー」……おそらく、それに関しては別のケースなのかもしれない)
イツキのことを考えた。かつてはただのNPCだった彼女が、今ではジャーナリズムクラブで、礼儀正しい赤毛の双子と一緒に暮らしている。彼女について聞きたいことは山ほどあったが、機会が訪れるまでは答えは得られないだろう。
「カイくん、川が見える? この季節、かなり増水してるよね?」
「ああ、そうだね。この数ヶ月は雨が多くなるみたいだし」
その川を眺めていると、前世の記憶が次々と蘇ってきた。だが、それらはすべてぼやけていた。実のところ、俺はハンクとして過ごした人生の一部の記憶を日々失いつつあった。正直、それらは俺にとってそれほど大きな影響を与えるものではなかった。その人生の大部分は、幼い頃から両親に『人を操る怪物』になるよう教え込まれ、実際にそう振る舞っていた時期だった。自分の中にその姿を見出すと、嫌悪感を覚えた。カイトに対してではなく……
……ではなく、ハンクに対して……
「ねえ……このゲームについて、僕にはわからないことがたくさんあるんだ。あまりにもたくさんあるから、君と一緒に体験してみたい……『ハンクくん』」
ヒカくんはごく自然にそう言った。
「そうだね、このゲームは本当に奥が深い。ガイドのようなものがあれば、ヒロインたちが自然に近づいてきてくれるのにと思うよ」
このゲームがバグっているのは明らかだった。いくら考えても説明のつかないことがいくつかあったが……
「待って……」
またあの名前を聞いた……聞くだけで吐き気を催すほど嫌悪感を抱く、あの名前を。
俺はゆっくりと頭をヒカくんの方へ向け直した。
「今、俺を何て呼んだ?」
「君の名前で呼んだよ、『ハンク 藤本』」
最初は情報をうまく処理できなかった。頭の中が混乱していて、ヒカくんの言葉を無視していたのだ。
「いや……その……」
絶望に陥りたくなかった。単に幻覚を見ているだけかもしれないし、ヒカくんが名前を間違えただけかもしれない。何しろ、ハンクはごくありふれた名前だ。
「ハハ、俺はハンクじゃないよ。勘違いしてるんじゃない? 俺の名前をそんなに簡単に忘れるなんて驚きだね、ハハ。次は紙に書いてあげるから……」
「自分じゃない誰かになりすますのはやめて。ハンクくんはそんなふうには振る舞わないよ」
「お願い……単に名前を間違えたって言ってよ。そんな名前、ありえないんだから……」
「ハンクくんは実在するし、目の前にいる。ハンクくんは今、僕と向かい合っているんだから、キャラクターのロールプレイはやめたほうがいいよ。君はカイトなんかじゃない…………君はハンクだ…………」
彼の言う通りではないと確信していた。説明するのは難しいが、ヒカくんの言葉には納得がいかなかった。これはすべて、ただのクソみたいな冗談に違いない。
「冗談はやめて……じゃあ、名前を交換するゲームをするなら、君のことを…… カズマ」
少し不安げに微笑んだ。気まずさを紛らわすために、それしかできなかった。
「いや、違うよ。これはゲームじゃない……最初は目の前の光景を信じられなかったけど、君と出会って……君が『僕の親友』だと分かったんだ」
「君の親友……? そんなことを覚えていないなんてありえないのに……」
「僕は吉田剣道だ」
その名前を聞いた。前世で、忘れないようにと繰り返し口にしていた唯一の名前だった。
「違う……ここには剣道という名前の人がたくさんいる。ただ……これは本当に悪趣味な冗談だと言ってくれ」
遠くの山々で鳥たちが鳴き始めた。午後5時29分、さっきまで穏やかだった川が、激しく渦を巻き始めた。
「違う……これが、君が知るべき唯一の真実なんだ……」
……
…………
………………
……………………
『僕は吉田剣道、君の親友だ』




