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032.Character Name:フランシスカ●

 僕の目の前に、重騎士が立っている。

 いや、僕の目の前に見覚えのあるキャラクターが立っていた。


 全身重装備で身を固め、頭にも兜をかぶっている。

 その外見から得られる情報は、圧倒的な重圧感と強さくらいだ。

 それ以外の情報は、普通の人なら知り得ない。


 だが、僕にはその先の情報が分かる。

 鎧の下、性格、何が好きか嫌いか、弱点、武器の詳細。

 何もかもが分かる。


 だって、この鎧の騎士は僕が作ったフランシスカそのものだから。


 試験が終わったときに名前を聞いて、いつ会えるんだろうかと楽しみにしていたけど、まさかこんなにすぐ会えるなんて思っていなかった。


 でも、何はともあれ僕は今、軽く感動。いや、物凄く感動している!


「どうした? さっきからずっと動かないで顔の方ばかり見て。そんなにこの兜が珍しいのか?」


 鎧の少女、フランシスカが自慢げに兜をコンコンと叩いた。


「まあこれは神の加護を受けている防具達だからな。物珍しく思う人は多いけど、そんなにじっと顔を見つめられたのは初めてだな」


 神の加護を受けている防具。


 フランシスカの身に着けている防具は僕がリアルマネーを出して買った課金パーツだ。デフォルトのパーツよりも作りこみが凄く、お金を出して買う価値があるエディットパーツだった。


 そこに僕が付けた設定が加わって、神の加護になっているのかもしれない。


 フランシスカの鎧は、どんな攻撃に対しても威力を抑える加護が付いていると設定をしていた。そして兜は鎧と同じ効果を持っているかつ、加護のおかげで本来なら狭まるはずの視野がなくなる。


 こういう強い武器、防具の設定も考えるのが好きだった僕がフランシスカと一緒に付けた設定。フランシスカの言っている加護というものが本当なら、そっくりそのまま反映されているはずだ。


「う~ん? さっきから動かないな。お~い、生きているか?」


 ガシャン、ガシャンと重い鎧の音が僕の方へ近づいてきた。

 って何をしているんだろう。フランシスカは?


「もしかして立ったまま気絶してしまったのか?」


 僕の顔の前で手を上下に振っている。


 僕は気絶していない。そんな事しなくても大丈夫だ。

 いきなりフランシスカが目の前に現れたから、驚いていただけ。

 

「えいっ」


 突然、僕の頬に銀色の鉄の塊ともいえる物が伸びて来た。

 それはフランシスカの手だった。

 その手は僕の頬をぐっと力強くつまみ、引っ張った。


「いだだだだだ! そこはさっきビンタされた場所だから勘弁してくれー!」

「お? やっと私に反応してくれたか。動かないからどうしたものかと」


 僕が呆気にとられていた所にフランシスカの頬つねりが炸裂した。


 アーニャさんにビンタされた場所をつねられてかなり痛かったけど、フランシスカの事ばかりを考えて、目の前の事が兜の視野より狭くなって見えていなかった僕の目を覚まさせてくれた。


「よし、今度はボケーっとしていないっぽいな」

「ええ、おかげさまで。目を覚ましてくれてありがとうございます」

 

 多少手荒だったけど、それがフランシスカっぽさを際立てているから最高だ。


 ……でも、浮かれてばかりはいられない。

 僕の行動次第では、初対面なのに詳しい人物像とかを知っているとなると、変に詮索をされてしまう。だからここからは、慎重に行動をしなければ。


 まずはシラユキやエルドリックと会った時の事をいかして、丁寧に接しないと。

 うっかり名前を呼んだりしたら、後がかなり大変だからな。


「さっきは突然申し訳ない。君がリリーシェに勝ったという報告を審査官の人たちから聞いてな。その実力がどんな物かと、少しだけ試すような真似をしてしまった」


 僕がリリーシェを倒してAランクになる予定だという事をフランシスカが口にすると、周りがザワ付き始めた。「あいつが? マジかよ!」と。僕に怒鳴り散らかしていたあの男の人も大変驚いている様子。


「じゃあ あなたが ふらんしすか さんですかー?」


「おい、なぜ急にすべての感情を失ったような喋り方になるんだ」


 しまった。露骨に知らないふりをしようとして、棒読みになってしまった。


「それにきさ……、君はもしかしなくても、この私の事を知らないのか?」


 この言い方、フランシスカの性格的に自分の存在が知られていないのが気に食わないって感じだな。やっぱり僕の設定した性格通りだ。


 って待て待て。まずはフランシスカの質問に答えなければ。


 軽く頭を悩ませる。


 う~む、ここはどう出るのが正解だろうか。

 フランシスカは立場上、Sランク冒険者として名が通っている。

 なら、名前を知らない事はおかしな事になるのだろうか?


 もしそうだとしたら、棒読みでいかにも初対面の人にあったかのような反応をしたのは「ふざけていた」という説明をする事で、なかった事に出来る。


 だけど、僕は不慮の事故でここに転移してきて、クレアール大陸や世界の常識をしらない世間知らずっていう設定で通ってきているはずだ。だから、フランシスカの事をピンポイントで知っていると、シラユキやリリーシェ、アーニャさんに余計な疑いをもたれてしまう。


 だったら、いつも通り初対面って事を貫き通すまで。

 慎重に行動するって決めたばかりだからな。


「は、はい。お初にお目にかかります」


 少しだけ緊張しながらも、フランシスカの問いかけに答えた。


 ……つくづく思うけど、こう自分の作ったキャラクターに会うと、シラユキみたいに気軽に話せない。そもそも立場の違いというのが大きい。

 

 エルドリックとも初めて会った時はこんな感じだったな。


「……腑に落ちない。この最強である私を知らないなんて……。どうして知らないんだ! こんなにも強い私だぞ! ありえないだろ、そんなの!」


 と鎧が少しだけ震えるくらいに、静かに怒っていた。


 誰にも聞こえないような小声で言ったであろうその発言は、今の僕の耳には、はっきりと聞こえて来ていた。


 まあ、怒るのは性格上あたりまえか。


「では、改めて。あなたが審査官の方々がいっていたフランシスカさんですか?」


 今度は先ほどとは打って変わって、しっかり感情を込めて声を出した。


「君、少しだけ変わっているな……」


 フランシスカは僕の声にビクっと体を震わせ、我を取り戻していた。

 僕の二転三転する態度に少しだけ困惑している様子だけど。


「じゃあ私も改めて」


 フランシスカが重い鎧を動かし、姿勢を正す。


 さすが【動く要塞】。こんな重々しい鎧を装備しているのに、その重さを怖いくらいに感じさせていない。僕が設定したとはいえ、実際に見るとその凄さに驚いてしまう。


「そう、私がSランク冒険者のフランシスカだ。そして君の試験官でもある。だが、先ほどの君の動きや判断能力を見て、私の勝利が確定した為、君はAランク止まりになると先に宣言しておこう。すまないな、私が強すぎるあまり、君をSランクにさせてやれなくて」


 これでもかと言わんばかりに自分の強さをアピールしながら、フランシスカは手に持っていた戦斧を地面に突き立て、高らかに宣言する。


 この発言から分かるように、フランシスカは結構な傲慢キャラだ。

 この世で私が一番強いと豪語しているほどに。


 フランシスカの宣言に、周りに居合わせていた冒険者たちから歓声があがる。

 周りの歓声とも相極まって、僕も感情が高ぶってきた。


「う~ん、ナイス傲慢! 自分の強さに自信があるが故の発言。いいねいいね!【武器が斧】というのも、この場面に最っ高にあっているよ! 実際にフランシスカがこんな事を僕に言ってくれて興奮して来た!」


 思わず僕はフランシスカに向けて、腕を伸ばし親指を立てた。


「君、いきなり馴れ馴れしくなったな。さっきはあんなに(かしこ)まって話していたのに、急にどうしたんだ?」


「あ~、えっと~……」


「それに私の事を知ったような口の利き方。きさ……、君は私とは初対面だったはずだがやけに詳しいな。どういう訳か説明してもらおうか」


 まずーい!

 思っていた事が口に出ていたみたいだ……。

 

 あんなに慎重に行動しろとかいっておいて、すぐこんな失態をするなんて。

 でも、自分が作ったキャラクターが目の前にいるのに落ち着いていられるかってんだ!


 落ち着いていられたら、それは愛が足りない証拠!


 とは言うものの、結構やらかしてしまったかも。


 く、くそ!

 僕の馬鹿野郎! これはとんでもないやらかしだぞ!

 どう払拭するべきだ。言い訳が考えられない!


 そう思っていたけど、人間と言うのは不思議なものだ。

 窮地に立つほど頭の回転が物凄く速くなる。


 僕も例に漏れず、この瞬間に頭がフル回転。

 この状況を打開する行動を思いついた。


 その行動とは至ってシンプル。


 ……傲慢には傲慢で対応だ!

 もうこうなれば、フランシスカの傲慢ノリについていくしかない。


 それしかないと思った。


 フランシスカとは初対面という設定だったのに、知っているような口を叩いた以上は、初見の反応をした事実をなかった事にしないと、この状況は打破できない。


 フランシスカからは、あの時ふざけていた奴。

 シラユキからは、フランシスカの真似事をしている。

 こういう感じで僕が映るだろう。


 フランシスカとシラユキの双方に変な疑いを持たせない為には、これしかない。


 後の事はノリで何とかしよう。


「ふん、随分と思いあがっているみたいじゃないか。知らないふりをしたら弱い自分を強く見せるために主張しがって、この天狗め。Sランク? そんな物を強さの指標にしている時点でお前は二流。だから僕が自称最強のお前を完膚なきまでに叩き潰して本当のSランクとして、このギルドに君臨する」


 僕は剣を抜き取り、フランシスカの方に刃の先を向けた。

 漫画とかでみた決闘シーンが始まる前のように。


 …。

 ……。

 ………。


 やべええええええええ!

 傲慢キャラとか創作物でしか見たことないから知らねええええ!

 でもめちゃくちゃ口がスラスラと動いてしまった!

 こんな発言、フランシスカの怒りを買っているようなもんだぞ!

 決して安くない! というかクソ高い怒りだ!

 セール中にしか買ってはいけないような物なんだぞ!


 あぁ……。どんな仕打ちされるかわかったもんじゃない!

 ノリで何とかならないって!

 誰か助けて!


「貴様、言ってくれるじゃないか。どこの馬の骨とも知らないやつが調子に乗るんじゃないぞ。リリーシェに勝ったからと言って貴様も思いあがっているんじゃないのか? 確かにあいつはこの私の次の次の次の次くらいに強い。だが、それに勝ったという事実だけで私に勝てると思っている貴様の考えは浅はかだ!!!」


 フランシスカは手に持っている斧を渾身の力をこめて叩きつけた。

 振りかざした斧は僕の顔の前をスレスレで通り、床に大きなヒビを入れた。


「ふん。反応できていないじゃないか。この程度のレベルで私に勝つなど言語道断。貴様の舐め腐った態度は気に入らん。白黒はっきりさせるまでもないが、売られた勝負だ。買わない事もないが、どうだ。今すぐに私の強さを認めれば許してやらん事もない」


 段々とヒートアップしていく。


 さっきまでどうしようかと考えていた僕も、自分の発言でフランシスカがここまで反応してくれたのを見て、感情が高ぶっていた。


 正直、この状況を撤回できる方法はいくつもあった。

 

 悪ノリでフランシスカの真似をしてしまったといって、全力で謝れば許してもらえると思った。でも、結局はSランク試験を受ける流れになっているんだ。

 

 だったら、とことん今の状況を楽しもう!

 

 こうして自分の作ったキャラクターと、本気で掛け合いが出来る機会だ。こういうの、僕は大好物だからとことん行くぜ!


「ふん。この僕が怖気ついて許しを請うとでも思っていたのか? だが残念だな。僕はお前の発言には逃げも隠れもしない。むしろお前の方が逃げたいから、『許してやらん事もない』と言ったんじゃないのか?」


 フランシスカは振り下ろしていた戦斧を軽々と肩に担ぎ上げ、僕に背を向けた。


「……決定。お前はこの【神器バリアブルス】の錆にしてくれる。ついて来い、今からSランクの試験を行う。この期に及んで逃げようなんて考えはしていないだろな?」


「……」


「どうした?」


 い……、今からだって!?

 僕はちょっとしたプロレスを楽しみたかっただけなんだ!

 互いの傲慢をぶつけ合って楽しみたかっただけなのに……。


 流石に、ストロングオーガ、アルディウス、エルドリック、リリーシェと連戦続きで今はもう戦闘はしたくない。まさかこんな急展開になるとは思っていもいなかった。


 ……どうしよう、行きたくない。

【あれが例の男か】


 なにやらギルドの方が騒がしい。


 鎧に身を包む少女フランシスカは、最近各地で頻繁に出没するストロング系モンスターの討伐依頼からの帰りだった。倒しても倒してもとめどなく現れるこの個体は、各国が全勢力をあげて掃討作戦を行うまでに危険視されている。だがいつまで経っても出所が掴めていない。


【異界】ではないここで、これほどまでに強力なモンスターが現れるのは、正直いって異常事態なのだ。このままストロング系モンスターが数を減らす事がなければ、既存の生態系を破壊しつくしかねない。だから原因が分かるまでの間は、腕に自信のある者たちがともに協力し、数を減らしていっている。


 フランシスカはその腕利きの中でも上位の実力者だ。

 これまでに討伐したストロング系のモンスターは星の数ほどだと本人が言うので間違いないだろう。


 それにしても、何の騒ぎだ。

 ギルドの中から、騒がしくドタバタと走り回る音が聞こえてくる。何かの催しでもやっているのだろうか? とりあえず物凄く気になる。


 フランシスカは、お世辞にも軽いとはいえない鎧を身に着けながらも、軽い身のこなしで風に用に移動し、道行く人にそよ風を浴びせながらギルドの方へ向かっていった。


 ギルドの入り口に入り、フランシスカは肩に乗せている鳥型の使い魔に、くちばしで突かれた。これは、審査官がフランシスカに伝えるべき情報をあらかじめ使い魔に伝え、使い魔がその情報をフランシスカに知らせるための合図だった。


「なるほど、あの男がリリーシェを倒したって言うソウタなんだな?」


 審査官が送り付けた使い魔が、頷くように肩をくちばしで突く。


「お勤めご苦労。もう戻っていいぞ」


 フランシスカの言葉に、使い魔はさっそうとこの場から立ち去った。


 ……さて、あいつが例のソウタというやつだというが、ふむ。

 筋骨隆々というわけでもないが、無駄のない体つきだ。

 私と同じくらいだろうか?


 フランシスカはそんな事を考えつつ、しばらくギルドの様子を眺めていた。

 詳しくいうと、忙しなくあちらこちらに移動しながら頭をさげて、何かを謝っているソウタの姿を興味深く眺めていた。


 というのも、ソウタはフランシスカから見ても結構なスピードで次へ次へと、人と人との間を移動していたからだ。


 エルドリック程のスピードではないが、それに匹敵するくらいはあるかもしれない。フランシスカはそう思っていた。


 なかなか興味深い。

 この私ほどではないが、良いスピードを持っている。

 私ほどではないが、私の次に強いリリーシェを倒した冒険者だ。

 暇つぶしには丁度良い相手。

 いや、私と戦うにふさわしい相手だ。


 フランシスカは強い奴が大好きなのだ。

 そして自分より強い奴を見つけると、闘争心を搔き立てられ、勝負を挑む。そして完膚なきまでに勝利をおさめ、上に立つ。


 フランシスカはそれの繰り返しで、純粋なる強さでSランクまで上り詰めた。


 そんなフランシスカの心を少しだけ躍らせたソウタ。

 これは期待できる。


 フランシスカは一歩。また一歩と足を進め、ソウタに近づいた。


 そして挨拶がてらにソウタの後ろに回り込み、目を手で覆った。


 こいつ、無駄に背が高い。

 フランシスカは軽く背伸びをしていた。


 目を覆われたソウタは、この状況が理解できていないのか、はたまた焦っているのか、驚いた様子でジタバタとしていたので、フランシスカがそれを抑えるように制止した。


「おい、そう暴れるな。Aランクの冒険者になる予定の男なんだから、いかなる時も常に冷静に状況を判断しろ」


 視界をほんの少しだけ奪っただけなのにこの暴れよう。私ならこんな事には動じずに冷静でいられるというのに、このソウタという男はそれが出来ていないじゃないか。


 あ~あ、期待外れも良いとこだ。


 そう思っていると、フランシスカの言葉を聞いたソウタがさっきまで取り乱していたのが嘘のように、一瞬で落ち着きを取り戻した。


 なんだ、やればできるじゃないか。

 それでこそ、私が少しだけとはいえ期待した男。

 Aランクと呼ぶにはふさわしい姿だ。


 ふさわしい姿にはふさわしい姿なのだけど、疑問点があるとすれば本当にリリーシェを倒せたのかという事だ。


 正直にいうと、この男からは強さという物が感じられない。

 覇気がないというべきだろうか?

 いや、もっというと戦闘経験がないようにみえる。

 幾多の戦闘をしてきた私がそう感じているんだ。この感覚は間違っていないだろう。


 ではなぜ、こんな奴がリリーシェに勝てたのか。


 それも興味深い。

 ますます期待が出て来た。

 それでこそ私が倒しがいのある相手だという物だ。


 フランシスカはソウタに対して、最初の頃より、わずかにだが興味をしめしていた。

 

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