騎士様...?
大きくため息をつく。きっと今の私は近寄り難いくらいには暗いオーラを纏っているのだろう。
あの後、ノアの部屋へ行こうとしていたのだけど……侍女が数人通りかかり、赤くなった目と鼻頭と首筋の真っ赤な跡に何かを察知したのかすぐさま部屋へ連れ戻されてしまった。
振り切って自室まで行ったはいいものの「少しの間お休みになるそうです」と言われてしまい、会えずじまい。
朝食で顔を合わせたものの、全く目を合わせられなかった。
「大きいため息だね、エラさん」
「……今はその名前で呼ばないでください」
落ち込んでいても、仕事は仕事。ヨシュアの護衛をしないといけないことに変わりはない。
とりあえず、気まずすぎる今はエレナとしてすごそう。
相変わらず、ノエルはやってこない。少しぐらい顔を出してくれたっていいじゃない、とやるせなさを内心ノエルにぶつけてしまう。
「それと、近いです。少し離れて……」
「嫌だ」
椅子を少しずらしたけれど、すぐさま椅子ごとひっついてくる。そもそも護衛している身なのだから私は立てばいいんだ、と思い立って立ち上がる。しかしヨシュアも立ち上がってしまい、結局2人して並んで立つことになってしまう。
ヨシュアは、なんだか少し変だ。
聖女に異様に興味を示すから、他国の不思議な存在に興味があるひとなのだと勝手に思っていたけれど、騎士には全くで。
それに、もう一つ、おかしいと思う点がある――
「聖女様、ベイリー様。何かお飲み物をお持ちしましょうか」
「そうね、紅茶を――」
「紅茶2つ。いいよね、それで。もう行って」
私が言い切る前にヨシュアはそう言って召使いを睨みつける。親切心でこうやってきた召使いたちも、これには申し訳なさそうに帰るほかない。
隣国の宰相に注意するわけにもいかず……私はおろおろすることしかできない。とりあえず紅茶を持ってきてくれた召使いには後で丁重にお礼を言おう。
……という具合に、私以外の人物全てにどうやら獅子のような目を向けている。
女性も男性も例外なくなので、人間不信……とかなのだろうかと心配してしまう。もしや、ご家族に何か問題があるのだろうか。
「…………ヨシュア様のご家族のお話が聞きたいです」
「え!? 僕の家族に興味を持ってくれるの?」
「え? そ、そうですけれど……」
今の会話のどこにそんな歓喜する場面があったか分からないが、ヨシュアは嬉々として胸ポケットから写真を取り出す。
家族写真には、ご両親とヨシュアが並んで映っている。優しそうな幸せそうな家族に見える。
「あら、ご両親はどちらも黒髪なんですね」
「……そうなんだ。祖母に似たみたいでね、僕だけ金髪なんだよ」
そうか、髪の色は必ずしも両親に似るわけではないんだ。私の両親はどちらも明るい茶色系統の髪色だから気にしたことがなかった。
「金髪、好きでしょ?」
「え?」
覗き込むように尋ねられて、首を傾げる。私は今まで一度も髪色の好みについて言及したことはないはずだけど。
「まあ、好きなのはと聞かれたら金色かなー、とは思いますけれど」
「そうだよね、よかったよ」
「そうだよね」? どうしてそんな言い方になるんだろう。妙に引っかかる感じはするけれど私は金髪好きの顔に見えるのかもしれない。
なんだか、ヨシュアと過ごすのは妙に息苦しい。早く誰か部屋に戻ってきてほしい。召使いも部屋から追い出されてしまって、部屋には私2人なのだ。
ノアにもこっぴどく怒られたせいか、エレナの姿だといえど気まずい。
「……というか、ヨシュア様は今男性の皆さまが話し合っている経済についてのお話に参加しなくていいんですか?」
「なんで? そんな話はいつだってできるしどうせお世辞の言い合いだ。つまらないだろう?」
「そうですけれど……」
必要なことでは、という言葉を飲み込む。たしかにハゲおじさんを筆頭にお堅いひとたちしかいないことは認める。私はあそこに放り込まれると思うだけでゾッとするけれど。
そんな中でも、ノアはきっとその場をまとめているのだと思うと、改めて尊敬してしまう。
「……でも、聖女様に婚約者がいたなんて計画外だったな」
「え?」
「そのやたら隠してる首元もそうだろう? いつもはスカーフなんて巻いていないもんね」
咄嗟に首元を庇ってしまった。仮面は魔法の力でできているものなので取られることはないが、スカーフは私が巻いたものだ。
そのため、あえなくスカーフは解かれてしまう。
あらわになった赤い跡に、沸騰するように熱くなる。
ヨシュアはその跡に触れてきて、私は思わずその手を掴んだ。
「……ノアさんにやられたの? ひどいなあ、僕というものがありながら」
「何言って……私はノア様の婚約者で……!」
あまりの言い草に思わず私も声を荒らげてしまう。
宰相といえど、限界はある。
精一杯睨みつける私に、ヨシュアはため息まじりに「全くエレナは困った女性だね」と口角を上げる。
「僕は、ノエルなんだ」




