第九十二話 血の雫
「驚いたぞ………」
なんの感情を出すことなくビルツは言った。
その声を聞いただけで嫌悪感が身体中を走る。
ビルツ、あなたはもう口を開かないで!
私は身体中から噴き出る冷たい汗を感じつつ、ビルツを睨みつける。
「騎士の剣をこれほどまでに凌ぐとは……… ああ、そうか彼奴も元は騎士だったな。彼奴からの騎士の剣を受けたのか? 凶暴化したとても騎士の剣を受け続けれるものではない。少々力が上がったにしろ普通であるなら、冷静さを失った時点で騎士の剣の前に倒されておろうに、だが此奴はたいしたものだ。鍛錬により騎士の剣を身体に染み込ませておるわ」
「お前が……… お前なんかが騎士を………… 騎士の剣を語るな!」
シェランさんが叫ぶ、声を震わせて。
そんなシェランさんをビルツは一瞥しただけで、興味を示さず。
再びリュトに何を考えているかわからない蛇のような視線を送る。
そして、今度はそのままグールの騎士に顔を向けると独り言のように言葉を開く。
「刃は立てずにしておいたのだが、それが仇となりおったか、損傷が酷くなりすぎておる。もう良い、必要なくなった。首をはねよ」
あまりに当たり前のように言うので、言った内容が初めは理解出来なかった。
なにそれ………
それに今まで、あのグールの騎士に手加減させていたって言うの………
それに………
「アンタら貴族はいつもそうだ! 自分の都合でコロコロと言葉を変え! 態度を変え! 人の命を玩ぶ! ふざけるな!」
シェランさんの言葉の通りだ。
あまりにも酷い!
あの人って、貴族って、いったい何だと言うの!
「ふざけるようなことなどしておらん。安心するが良い。この者も我が有効に使ってやろう」
シェランさんに向かい、蛇のような視線と共に、そう言うとビルツはグール騎士に近づき、おもむろに剣を取る。
そして、それを掲げ、見上げた。
「美しい……… そう思わんかね」
騎士の剣は血を帯び、リュトの血で紅く飾られていた。
グール騎士のその剣は全く錆びておらず、暗い坑道の中でも刃の部分は白く輝いて見える。
血は刃を伝い、鍔の部分で膨らみ、赤い雫を作ると、それは静かに落ちていった………
ビルツの口の中へ………
ビルツを取り巻く瘴気が膨れ上がる。
私は思い違いをしていた、ビルツは剣を美しいと言ったわけではなかった。
大きな勘違いをしていた。
だけど、それ以上の勘違いを認識させられる事に気付かされる。
彼は……… 人間ではなかった。
「吸血鬼………」
ちょっとの間、お休みします。




