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第九十一話 怨嗟の声

「精霊使い殿!」 


 その声にハッとする。


「魅入られておりますぞ! 気をしっかり持ってくだされ!」


(ダレフさん!)


 声の主が分かったとき、音の世界が甦る。

 耳を防ぎたくなる思わず身を引くような、強烈な音が響き渡っていた。


 ひっ!


 ひときわ大きな衝撃を感じさせる音が響く。

 それはリュトのナイフが騎士の鎧をとらえたものだった。

 グールの騎士の身体がグラリと揺れる。

 そうだリュトは倒れていない。

 まだ戦っている。

 まだ戦えているんだ。

 まだ、何か方法があるかもしれない。


「ありがとう、ダレフさーー!!」


 ダレフさんの声で正気に戻れたことに、感謝の言葉をかけようと顔を向けたとき。

 私は絶句してしまう。

 ダレフさんの立っている場所に大量のグールが横たわっており、数体はまだ地面で蠢いている。

 ダレフさんは疲労困ぱいした様子で息も荒い。

 そして、そんなダレフさんにさらに多くのグールが迫ってきていた。


「うおおぉぉっ!」


 ダレフさんの咆哮とともに放たれるアックスの一撃は、一振りで4、5体のグールが吹き飛ばし、岩壁に叩きつけていく。

 凄い!

 力が強いと言われているドワーフだけど、これ程とは思わなかった。


 ーーけど数が多すぎる!

 倒したと思ったのも束の間、別のグールがまた近づいて来る。

 そんな状況でダレフさんは私に顔を向けることなく叫ぶようにして言った。


「大丈夫じゃあ! こやつらなら数の内に入りはせぬ! さあ精霊使い殿! 今のうちに手立てを!」


 て、手立てといっても私も何をどうしたら良いのか………

 精霊使いって言われても、魔術を使うにも半人前の私に何が出来るというの?

 そっ、そうだ精霊さんはいまは!?

 辺りを見渡し精霊さんを探す。


 そのとき周りとは異なる事象が目に飛び込んできた。

 1人の大人が入るくらいの大きな水球がグールの群れの中に紛れている。

 よく見ると実際、一体のグールがその水球の中に取り込まれている。

 この水球は間違いなく精霊さんのものだ。

 中のグールは動きもせず、静かにしている。

 

 まるで水の中で眠っているかのようだ。

 そのグールは小柄でスカートを身に付けている。


 このグー……… いや、この人がリュトの………


 そのとき、近くにザアッという音と共に、土煙が舞い上がる。

 その土煙の中からゆるりと、人影が立ち上がってきた。 

 リュト……… 酷い………

 土煙から現れたリュトの姿は目を背けたくなるほど酷いものだった。

 着ている皮の服は所々破れ、そこから血が滲んでいる。

 左の腕はダランとしていて、曲がるべき方向とは逆に腕が伸びている。

 普通なら激痛で気を失ってもおかしくは無い。

 怒りで我を忘れているんだ。


 数体のグールがリュトに群がっていく。

 その内の一体がリュトの肩にボロボロのアゴで

 噛みつこうとしたとき、一瞬にしてグールたちはバラバラになり吹き飛ばされていく。

 凄い! 

 だけど……… もう限界だ。

 呼吸は荒く、方膝がガクガクと笑っている。

 もう立っているのも、やっとという感じだ。


「たいしたものだ………」


 その声を聞いただけで嫌悪感が身体中に走る。

 体中の至るところから冷たい汗が噴き出てくる。

 これは怨嗟の声。

 グールたちの怨嗟の声だ。

 ビルツの口から出て来るのはグールたちの叫びなんだ。

 だからこんなにも、おぞましいんだ。


 もうこれ以上聞きたくない! 


 ビルツ!


 あなたは口を開かないで!

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