第八十話 不穏
ダレフさんがアックスを構え、ゆっくりと近づいて行く。
「なにをしておる。精霊など放っておくがよい」
ダレフさんが敵に向かい始めたころ、精霊さんはランスを構えた騎士の周りを、あちらこちらへと飛び回り、哀れな騎士を翻弄し続けていた。
そして手に取ったランスを振り回し、一振りするごとに硬い地盤を砕き割るグールの騎士。
だけどビルツの言葉で精霊さんを追うのをやめ、思い出したかのようにダレフさんの方を向く。
騎士はランスをぶらりとだらしなく持っていたが、少し手を後ろに引いたかと思うと、次の瞬間にはとてつもない速度でランスを打ち出してきた。
瞬時に土煙が沸き起こり、金属がぶつかり合う音が坑道に響く。
ランスは大きく跳ね上がり、天井の光苔を削り取った。
「ふん! 死人となっても大したものじゃ」
土煙の中からダレフさんの姿が現れる。
その姿にホッとするも、状況は良くない。
ダレフさんの立ち位置が戻されていることにギョッとする。
「ハッ!」
シェランさんの声と共にファイアボールの一つが騎士に向かい飛んでいく。
ジャイアントスパイダーの時ほど大きくない、その代わりに速度が速い。
ファイアボールは一直線にグール騎士へと向かい頭部に直撃した……… かに見えた。
グール騎士に当たった炎がはだけていく、グール騎士は肩と腕でむき出しの頭部を守り、その肩と腕は鎧で覆われている、ダメージにはなっていないだろう。
はだけ落ちた炎が小さく地面上で燃えるなか、グール騎士は再びトロッコからランスを取り出した。
「無駄だ。騎士が騎士たる所以は知っておろう、そのような魔の術では傷つきはせぬ」
ビルツが勝ち誇る言葉を投げかけてくる。
「兜が脱げてなかったら説得力あったろうな」
だけどコッチのシェランさんも負けていない。
少なくとも言葉だけでは絶対に勝っている。
「それに………」
そしてシェランさんは言葉と共に、再びファイアボールを打ち出した。
「こちらも魔術が不得意なのは自覚してるんだよ!」
でもこれは先程よりも威力はありそうだけど、速度はなく敵である2人の足元に到達するのがやっとな感じだった。
光苔を巻き込み地面が燃え上がる。
「コホッ、魔の術も祿に扱えぬ下等な者よ。劣等なドワーフなどを連れ回るわけだ」
光苔が火の粉となり、巻き上がるなかで敵は揺めきながら毒を吐く。
そしてその毒は不穏を運んで来た。
「魔というものを見せてやろう」
今のところ、話に矛盾ってないよね?(ドキドキ)




