第六十話 教え
ダレフさんは言った。
山を削り過ぎると『山ケガレ』が起きると。
そしてこの鉱山ではすでに起こっていると。
人間は加減を知らない、とダレフさんは言った。
「じゃあこの鉱山からドワーフたちが消えた理由は………」
私の疑問に答えたのはシェランさんだった。
「ああ、領主の計画さ、その計画を進めたらドワーフたちには山ケガレが起こることがわかっていたから、去ったのさ」
「計画は止められなかったんですか?」
「それまでの領主の行いで、街はかなり潤っていたからな。文句は言えるはずないし、言うヤツなんかいなかった」
それはそうだろう。
暮らしを豊かにした、いや、してくれた貴族に対して文句など出ようはずがない。
だけど………
「ワシには分からん………」
うつ向いて歩くダレフさんは、独り言のように言った。
「ワシらは自然の恩恵を受けて生きておる。山に川に風に大地に、ワシらは生きた自然の中でしか生きていられないんじゃ。なぜ人は山を川を殺す。なぜ人は自然を殺すのだ。それでは生きていけんのじゃ。なぜ、それを人間はわからぬのだ」
ダレフさんの言葉が坑道に消えていく。
私はどう答えていいかわからなかった。
だけど、ダレフさんの言葉は私の胸に染み入ったように感じた。
懐かしく感じた。
これは……… 私のお爺さんの言葉だ。
私はお爺さんと暮らしていた頃を思い出していた。
新緑もまだ小さな春先で、私はお爺さんと山に山菜や薬草を取りにきていた。
「じいちゃん! これでいいの?」
「ほう、メテルは薬草を取るのがうまいのぅ」
いま思えば、取った薬草の大きさもまばらで上手に摘んだとは思えないが、お爺さんはそれを褒めてくれた。
私はそれが嬉しかった。
「へへ! そんなにうまい?」
「ああ、本当に上手じゃ。じゃがの………」
そう言ってお爺さんは私の摘んだ薬草の中から一つ取り上げて言った。
「このように今年に生えた新芽でも、ひとつの株でふたつに分かれた新芽は、片方だけ摘むのがええ。そうすれば間違いなく来年は、その残した芽から新芽が出る」
「ふーん、わかった! じいちゃん!」
覗き込むように、お爺さんの話を聞いていた私は、返事とともに薬草摘みに戻ったけど、その時のお爺さんの顔が忘れられない。
お爺さんも私に教えてくれてたんだ………




