ダンジョンボスは猫の大好物でした
スマート達とダンジョンを攻略し始め、1週間程が経った。深さとしては、30階層は降りただろうか。さすがに魔物が強くなり、スマートとプルーンも加わりながら倒していく。
プルーンは、倒した魔物のもぐもぐタイムも加わり、物理と魔法防御力アップをドレインで手に入れた。
ただ、スマートが戦闘に加わると、パーティ全員が大変な思いをした。
派手な魔法を使いたいからなのか、威力がただ大きいからなのか、スマートの魔法は、魔物を範囲攻撃で木っ端微塵にする。それだけならまだしも、細い通路や空間だと、必ず周囲の壁や柱も崩してしまい、自分達も通れない事が多々あった。
「お師匠さまぁ〜!」
その度に、リノが悲鳴を上げた。
「こんなせこい仕事するなんて思ってもみなかったからなぁ。細かい仕事用の杖持ってきてへんねん。」
スマートは言う。
この世界の魔法は、本人の魔力に加えて、使用武器で大きく変わる。武器の特徴や増幅具合によって、最終的にアウトプットされる魔法の威力や種類が異なるのだ。それでも、本人の魔力に依存するところが大きいが…
「て言われても、お師匠がその凡用の杖以外持ってる所なんて見たことないですよぉ」
「おっ、バレとった?しゃあないな〜。」
あらぬ方を見ながら、スマートは先を急ごうとする。
「何本も武器を作るのは、金銭的にも時間的にも大変ですよ。僕も、基本はこの剣しか使ってません。」
レオが答える。
「レオの剣も、凡用型なの?」
プルーンは、レオに尋ねる。
「うん、魔力を物理攻撃力に変換するステータスが付いてるね。この前の牛頭のボスで、剣を光に変えたのはスキルだよ。」
「そうなのね。私も、何か武器が欲しいわ。」
「帰ったら、探してみようか。」
「うん、ありがと。」
プルーンは、レオと言葉が通じるようになったばかりの頃は、恥ずかしくて上手く話せなかった。
最近は、慣れてきた勢いに任せて、今まで言えなかったことを照れながら伝える。
「レオ、今更だけど…路地で倒れていたところを助けてくれて有難うね。感謝してるわ。そのあともお世話してくれたり、旅に連れてってくれたり。レオの存在は、私にとってとても心強かった。レオがいてくれたから、今の私があるもの。」
プルーンは話しながら、レオの大事さを自分自身でも再確認した。前世でもイザベラ時代でも、人と深く接する機会がなかったプルーンにとっては、レオに抱く暖かい気持ちは初めて感じるものだった。
「僕こそ、2人で旅ができてとても楽しいよ。妹の魂を探しに出て、気持ちも体力も疲弊してたから。プルーンがこんな小さな体なのに生きようと必死で、僕も一緒に動かされてた。」
そう言って、レオは空中で側を飛ぶプルーンの瞳を覗き込み優しく微笑んだ。
「みぅ!」
プルーンは、小さい心臓がドキドキしてきて、目を逸らしてしまった。
40階層まで着くと、大きな門がある通路に出た。ミノタウロスがいたフロアに似ている。一同は緊張した面持ちだ。
「レオは陽動と前衛、リノは援護と回復、嬢ちゃんはサポートな。俺は、後衛でぶっぱなすわ!」
スマートが指揮を取る。
「さぁ、行くで!」
一同は、門を開ける。
そこには、巨大なムキムキの怪物が立っていた。
右手にメイスを持ち、左手はハサミの様なサイボーグになっている。ボスのオーガだ。取り巻きには、6体のゴブリン。
「行きますね。」
「おう!頼んだで!」
レオが、合図を出し、前に出て敵のヘイトを取りにかかる。
敵は一斉にレオに向かっていく中、レオは軍勢の前に縮地で飛びこんだ。瞬時に魔剣構えながら体を一回転させ生まれた、疾風のかまいたちが、周囲を切り刻む。
そんな中、運良く巻き込まれなかったボスオーガが、俊敏な動きで距離を取り、レオ向けて構えた。レオが、攻撃の動きを取ろうとした時には、ボスオーガがメイスを構え突撃してくる。
(速い!)
レオが避けきれず受け身を取って、衝撃を弱めようとする。事前にプルーンが、物理耐性アップを付与したおかげか、レオは転倒してもすぐ立て直した。
その隙にゴブリンとボスオーガがレオに迫ってくる。そこに、敵全体を包む円形の光の渦が天から降り注ぎ、地面の土が溶ける。スマートによる、魔法攻撃だ。光が消えると、ゴブリンは倒れ、ボスオーガは肩から背中が焼け焦げている。ただ、ボスオーガは、レオに向けハサミとメイスで俊敏に攻撃を始めた。体力がまだあるようだ。メイスの攻撃範囲は7、8mもあるが、レオは素早くバックステップで避ける。何度か避けた際に、攻撃を仕掛けようとしたレオ目掛けて、ボスオーガのハサミ状の腕がレオの腰を掠めた。
「うっ…」
レオの顔色が悪くなり動きが鈍り始めた。ボスオーガは突撃の構えを取り、猛スピードでレオ目掛けて飛んでくる。レオは、初見でないため避けれたが、2度3度くる突撃に転倒することも増え、負傷を重ね始めた。
「レオさん!毒回復します!」
リノが、猛毒解除と体力回復を行う。どうやらかなり強い毒系の攻撃だったようだ。
回復したレオは、その後はボスオーガのヘイトを取り続け、スマートからの遠距離魔法の追撃で、ボスオーガを倒すことができた。
と、とどめを刺されたボスオーガに、プルーンが近づく。
(んん、なんか良い匂いにゃ〜…)
ハサミの部分に囓りついた。
「あむあむ、ゴックン!」
そのまま転がったり、走り回ったりしている。
(なんか酔ってる感じだわ〜)
「あれは、猫にとってマタタビの様な効果がありそうやな。レオ、プルーン回収したって。」
(プルーーンは、眠いだけなのー。べつに酔ってないれすよー…あれ?…地面がぐるぐる回ってるよ?なんれ?)
プルーンは、レオに抱かれて回収される。
(レオの顔がふにゃふにゃれすね。カッコ良かったれすよぉ…お礼のちゅーれすよ)
ボンッ…
その瞬間、煙に包まれると、レオは腕の中の重みが変わり違和感を覚える。
煙が晴れると、レオの腕に、銀髪の女性が抱かれていた。
「えっ?!プルーン??!」
レオが、女性を抱いたまま固まった。
プルーンの姿はなく、代わりに銀髪、瑠璃色の目をした、美しい女性がレオに抱かれていた。
レオとその女性の視線が交差する。
レオは、瑠璃色の瞳に射抜かれたかのように動けなくなってしまった。
「にゃ〜むにゃむにゃ。おやすみなさいぃ。」
ぼーっと、まだ酔ってるかの様な表情をした彼女は、レオの胸にその小さな頭を預けると、眠ってしまった。
女性を見ると、首には金細工がついた緑のチョーカー、白基調で薄紫のラインが入り肩を出したワンピースを着ている。このチョーカーは、プルーンにあげた物で間違いない。人間の姿になってしまったようだ。
ボンッ
全員が呆気にとられている間に、レオの腕の中にはもう彼女はおらず、灰色の子猫が戻ってきていた。
(今のは…?プルーン、君はもしかして人間だったの?でもなぜ…)
レオは、眠るプルーンを見ながら心の中で考えるのだった。




