表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/28

011100_心の原動力【Driving force of the core】

この連載小説は未完結のまま約3ヶ月以上の間、更新されていません。

というのが出て一か月。ようやく書けました。

体調を崩す方が悪いんでしょうけど。

 三上は瑠璃川に腕を引かれながら階段を下って、二回に繋がるペデストリアンデッキへと降りた。五月末の日はそこそこ高く、西の山に隠れることは無さそうだった。数十メートル四方に広がる歩行者回廊(ペデストリアンデッキ)には一日の作業を終えた生徒、何十人程が歩いている。


 二人は流れに逆らって進んでいった。




「ちょっと! いつまで引っ張るつもりなの。そんなことしなくても逃げないから!」


「だったら、もう少し早く歩きなさいよ」


「むぅぅーー。わかった、分かりましたょ……」




 腕を大きく振って、三上は瑠璃川が掴んでいる手を振り払った。


 そして、大袈裟に腕を振って歩幅を大きくして歩いていった。それでも遅いのか、瑠璃川との間が少しずつ拡がってゆく。


 それは、人混みの中を誰かにぶつかろうと関係なしに最短距離を進んでいる瑠璃川に比べたら、それほど速度はでないだろう。むしろ、衝突や接触無しに進んでいる三上の方が正しいだろう。




「私の隣で人を避けていないで、私の後ろを追ったらどうなの? 本当、鬱陶しいわ」


「……いや、そもそも人が避けてくれるとは……」


「なにか反論でも? このデッキ自体、一定間隔一定速度最短距離で進めば絶対にぶつかることは無いように作られているのよ。そんな計算された設計の意思を無視するなら、このデッキを歩かないで貰えるかしら」




 瑠璃川は早口でそれを言うと、先程の二倍の速度で走り出した。一倍速で追い付くことが出来ないのに、更に速くなった為に三上は完全に置いていかれた。


 どっちにしろ、目的地は同じで三上がいなければ何も始まらない。三上はゆっくり歩き出した。




「失礼しまーす……」




 三上が目的地である倉庫みたいな空き部屋に着くと、二人が物音一つ立てることなくソファに座っていた。もしかすると、固定されていたが正解なのかも知れない。


 ソファに座っている一人はほむらだと解ったが、もう一人が誰だか三上には分からなかった。恐らく、瑠璃川が信じる可能性なのだろう。


 そしてもう一人、瑠璃川は壁に寄り掛かって俯きながら立っていた。腕を組み、早いリズムで指を動かす様はまさに怒っている様だった。




「遅かったわね、三上さん」


「うん。私、早歩きで疲れちゃった……」




 三上は沈黙の空気の中、怒られることを覚悟の上で、わざとらしく大きなため息を吐いて消沈する。


 すると、瑠璃川は三上の右手を、どちらかと言えば右腕を掴んで上に上げる。さながら、武器を取り上げるかのようであった。


 人命が掛かっていると言うのに急がなかった自分も悪い。そう思った三上は瑠璃川から最凶の罵倒を受けるものだと覚悟した。




「ご免なさい。急ぐべきでした」




 謝っても意味がないことは知っていた。


 それに瑠璃川は謝っても許さない。と言うよりは、謝ることも許すことも面倒だと考えている。それほどにまで瑠璃川はせっかちで、それが故にたった二年で世界を支配できるまでの会社を創ったのだ。


 時間を惜しむ瑠璃川がこれ程にまで無駄な時間を過ごすのは、苦痛でしかなかったはずだ。




「そう、分かっているのならいいわ。今はあなたを罵倒する時間さえも惜しいのだから。もっとも、あなたの協力なしにはあの二人は救えないのでしょうから」


「分かったから! 私だって分かってる。嫌みを言う時間さえも惜しく感じるくらいに足りないのは分かってる。でもね瑠璃川さん、私が時間を無駄にしたのってたぶん、分かってたからじゃないかと思うの」




 部屋にいる四人が固まった。何が分かっているかが明確でなくとも、簡単に理解出来てしまったからだろう。 


 それは考えたくないことだった。もちろん、絶望的だとは分かっていただろうが、それでもなお、努力をし足掻き続けていた瑠璃川を前にしては、誰も口にしなかった。


 誰も動かないでいると、壁に寄りかかっていた瑠璃川が壁を離れて三上の前に近寄った。俯いていた顔は真っ直ぐ三上に向かっていて、瞳はしっかりと見開かれた三上の眼孔を捉えていた。




「何が分かっていたなんて言えるのよ! こんなことは言いたくないけど、そうと決まるまで、観測的に決定的となるまで分からないじゃない。だったら私は、一体何のために戦っていると言うのよ」


「分かってるじゃない、瑠璃川さん。最初から分かっていたのでしょ? 分からない、ってね」




 睨まれても動じない三上は全く理解できない言葉を発した。明言したくないと言う想いから、逆に理解を遠ざけてしまった。




「三上さん。あなた、自分が何を言っているのか分かっているの? はっきり言って意味不明よ 」


「分かったわよ! 私しか知らない、重要なことを教えればいいんでしょ。別に秘密にする大したことじゃないしね」




 三上は瑠璃川の肩を掴んで距離を取ると、ソファに座った。応接室の様に配置されいていて、ほむらと月見里が座っている方とは逆に座った。


 本来の目的は三上から助かる可能性を聞くことだった。先程から無駄に時間をロスしていることに気がついた瑠璃川は、再び壁に寄りかかった。




「まずは……。自由意思……感情、いや、心がどう言うものか、知ってる? 人の心は脳波を観測すれば大体分かるの。でもね、どうして脳波が発生するのか、それは未だに不明なの」


「つまり、心の原動力は観測出来ない。……だから分かっているなんて決めつけたのね。でも、まだ私は理解できないわ 」




 何が理解できないのだろう。三上にはそのことはまったく知ることは無かった。




「ねえ! まったくわからないんですけど!」


「ちょっと、ほむら……さん。だめだって」




 ソファに座っていたほむらが急に大声で分からないと言い出した。恐らく、いままでずっと理解できるところが無かったからだろう。


 しかし、三上が知っていることを、簡単にいう事も出来なかった。




「ほむらさん、あなたは知らなくていいの。そうね、知ってしまう、理解してしまったらもう神楽坂に会えないと思ったほうがいいわね」


「え、そうなの? じゃあ、私は部屋から出た方がいい?」


「理解できないのでしょう? だったら居ても居なくても大して変わらないわ」




 別に理解したところで神楽坂に会えなくなる訳ではないのだが、瑠璃川の嘘には助けられた。




「たすかったわ、瑠璃川さん。ありがと」


「別に。私だって面倒なことは嫌いよ。文明のマイナスなんて」




 瑠璃川は諦観の表情で遠くを眺めているような様子だった。


 その様子はひどくショックを受けているようでもあった。理解してしまったら会えないというよりは、会えないという事を理解してしまうと言いたかったのかもしれない。


 もし、そうだったらひどく誤解をしている。そんなことは無いのに。




 そう思っていると瑠璃川が月見里に向かって何かを言った。




「ところで……。月見里さんはどうなの? 理解、出来た?」


「えっと、あんまり……かな? 三上さんがあんまり喋ってくれないから、どっちか……」




 すると、瑠璃川が三上のそばに寄って、声をかける。




「だそうよ、三上さん。もったいぶらないで早く教えなさいよ。 私たちはなにもすべてを、1から10までを教えろとは言ってない。10だけ知るとこが出来ればそれでいいのよ」


「そんなことを言われても……私だってすべてを知っている訳じゃないし、先生だって人類だって10まで理解できた訳じゃないのよ?」


「そうやって言葉を濁して、最後まで言わないつもりなの? あの二人が助かるのか、そうでないのか、一体全体どっちなのよ!」




 そんな事は無い、と三上は思った。私だってあの二人を助けたいと。


 三上は決心した。自分だけ秘密を守るのは止めようと。世界の人間すべてが秘密を共有すればそれは秘密ではなくなるし、誰も困る事は無いつまらない秘密だ。




「分かったわ、言うわよ。結論はどちらでもなく、どちらでもある。たったそれだけよ」

ええ、もちろんこれは『ふぃくしょん』です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ