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001111_沈黙【Silence】

 一方、神楽坂と瑠璃川に置いていかれた、ほむらと月見里は先程までいた空き教室(溜まり場)の扉に寄り掛かって、話し込んでいた内容も忘れ、しばしの沈黙を作った。


 十メートル程の幅がある廊下には両側に教室がある。勿論、空き教室や特別教室に使われていて、通常教室は学科ごと、違う棟に設けられている。


 因みにほむらは普通科だ。


 神楽坂達が教室に向かって、数分間が経ったところで沈黙が――




「「あのっ!」」




 ――二人同時の声で破られた。




「あ、ごめん、ごめんね。月見里つきみさとちゃんからで良いよ」


「……で、でも私は大したことじゃないから、その……」




 まだ出会ってから1時間経たずにこうした譲り合いが起きると、何となくギクシャクするのが一般的。が

しかし当の本人、特にほむらはそんな事など考えずに、譲られたから自分から言う。




「えーっと、あおいくんが制服の方が良いって言ってたじゃん。確かお部屋に行ったら着替えがあるかもだから、いこ?」




 ほむらは寄り掛かっていたドアから離れ、月見里の手を取って言う。月見里の着ている黒を基調にした、お人形のような服とは対称的で、白く透き通った華奢な手をほむらはしっかりと握っている。対して月見里は若干の動揺を隠せず、背後のドアにピッタリ

と密着した。




「……お部屋? 寮で暮らしてるの?」


「ううん、違うよ。今はね、小田工祭の準備と当日も忙しいから二週間くらい泊まってるんだよ。去年は持ってくるの忘れちゃったけど、今年はちゃんと着替え、持ってきたんだ」




 ほむらは月見里の質問に淡々と答える。




「三年生は勉強で来たり来なかったりするし、先生達は全員が外部研修だし、二年生は終わったら直ぐに世界一周の修学旅行に行っちゃうし……とにかく、一年生の今が一番楽しめるんだよ!」


「……へ、へぇえ。……あ、あのっ、さ」


黄泉(よみ)ちゃんも言いたいことあったんだよね! ごめんね、長くって」


「……う、ううん」




 そのとき、二人の間に『ぐぎゅるるる』と大きい音が響いた。音の主は月見里の腹の虫だった。


 月見里は恥ずかしさのあまりその場に座り込んだ。大きく腹の虫が鳴いた空きっ腹を、慌てて押さえるがもう遅かった。




「……わ、私は、その……」


「ねぇ! ごはん、食べいこっか」


「……ん、うん」




 月見里は頷いて、ほむらの後をついて行った。








 一番近かった北側の食堂に二人が着くと、ある程度の人がいた。


 普段は決まった時間に全校生徒が利用するが、今は違う。朝から一日中、小田工祭の準備の為に時間を使えるので、生徒が来る時間はバラバラ。


 今は正午過ぎだが、食堂の客はまばらだった。




「月見里ちゃん、なに食べる?」




 二人は空いてる席に腰かけ、メニューを広げて覗く。目移りするほど品数は多くないが、それでも十分に楽しめるだけあった。




「……おすすめは何かある?」


「ん、おすすめ? 私はこのカマボコののり弁とか小田原丼とか、あと、まさカリーライスもおいしいよ。あ! あんパンも」


「……そ、そうなの? おいし、そうだね」




 結局、ほむらは小田原丼とあんパンを頼んで、月見里はあんパンだけを頼んだ。




「ねぇねぇ、その洋服はどこかに売ってる? それとも自分で作った!?」


「……その、それが、わからないの」




 月見里はあんパンを小さな鳥が口で啄むように、両手でもって少しずつ食べている。しかし、ほむらは片手で持ってリスが頬に食べ物を溜め込むように、一気に頬張って、口の中を埋めた。




ほころれ(ところで)はっきふぁ(さっきは)、ん……なんであおいくんの所にいたの?」


「……なんかね、助けてくれた……みたい」


「助けてくれた?」




 ほむらはあんパンを食べ終えると、小田原丼を食べ始める。常連のほむらのために作られたそれは色々な具材が乗っていて、どれがメインの物か分からないほどだった。


 小さな、ほむらの小顔を隠すほどの器に、器の高さの倍は盛られたシラスやアジ、足柄牛の霜降りの数々。


 ほむらは目を輝かせて食べ出した。




「……私、今日より前の記憶がない……みたいなの」


「ぇ、記憶が、ない? どゆこと?」




 ほむらは一瞬箸を止めたが、また食べ出した。




「……正確には、最初は暗闇で、熱くて、苦しかった。怖かった。私……死ぬのかなって思った。そしたら……そしたらね、急に眩しくなって、気が付いたらあの倉庫の火の中に……」


「よみちゃん! な、泣かないで、もう大丈夫でしょ?」


「……う、うん」




 月見里が突然泣き出し、驚いたほむらは食べるのを忘れて、慰めた。




「……あ、ありがとう。さっきあの部屋にいたのは、その……神楽坂さんに助けられて、それで……」


「へぇ、そっか。よみちゃんはあおいくんの事、どう思うの?」




 月見里は少し俯いた。




「……わ、私は……あの人が私の事を知らないのに、死んじゃうかもしれないのに……それでも助けてくれた。だから、いい人……だと思う」




 月見里はあんパンをテーブルに置いて言った。少し赤くなった目を擦りながら、自分の恩人への気持ちを語った。




「そっかぁ~。助けてくれたんだね。じゃ、私と同じだね!」


「……ぇ、同じ?」


「私、あおいくんと同じ学校に行きたくてね、勉強、頑張ったんだ。でも試験の時にあおいくん、来れなかったの。何があったか分からないんだけど、私のために知らないところでボロボロになって……」




 ほむらは箸ですら手から放し、膝の上に置いて握っていた。




「結局、私は受かって、あおいくんは落ちちゃった。でもね、あれが最後って、もう安全だって言ってた。だから今度は私があおいくんを守るの」




 再び二人の間に長い沈黙が流れる。


 先程とは違い、ギクシャクはしていない。二人とも言い出すことを躊躇うように、口をかたく結んでいる。


 ほむらの小田原丼は未だに底が見えず、月見里のあんパンは未だに中身が顔を出していない。


 先程の二倍の時間がかかってから、空気が再び振動を始めた。




「「ね、ねぇ!」」




 また、二人の声が重なった。




「今度はよみちゃんからね」


「……うん、ありがと」




 ほむらは前屈みになり、目を輝かせて、月見里の方を見つめる。




「……ほむらさんは合格したけど、神楽坂さんは……ダメ、だったんだよね?」


「うん? そうだよ」


「……じゃあ、どうして学年が……一緒なの?」




 すると、ほむらはパァァっと笑って




「それはね! 私が留年したからだよ!」

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