表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刹那の風景 第二章  作者: 緑青・薄浅黄
『 杜若 : 音信 』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

111/117

『 風への願い 』

* トゥーリ視点

 セツから貰った手紙を読んで、私はため息を落とす。

その手紙には、胃薬に使う薬草の種類が間違っていたことが書かれてあった。


薬の事に関しては、容赦なく厳しい言葉が手紙に書かれていることが多い。

私の物覚えが悪いという事もあるのだけど……。

さすがに今回は、しばらく立ち直れそうにない。薬草の種類を間違えるなど

あってはいけない事なのだから。


セツからの手紙を読んで、肩を落としている私にクッカが心配そうに

声をかけてくれる。


「トゥーリ様? 何かあったのですか?」


「薬草の種類を間違えて、調合してしまったみたいなの」


「……」


「セツからの、お手紙で怒られてしまったの」


「何を間違えたのですか?」


「ミソラ草とカシエラ草を間違ったの」


「あぁ、あの薬草はそっくりなので間違えやすいのですよ」


「でも、間違ってはいけないわよね。

 薬を飲むたびに、髪の色や目の色が変わったら……大変だもの」


その前に、今回はミソラ草だったからよかったけれど

危険な薬だった場合を想像すると、とても笑っていられない。


だけどクッカは、私の言葉にその様子を想像したのか楽しそうに笑った。


「それはそれで、楽しいのかもしれないのですよ」


「……」


私はこっそりとため息をつき、心の中でセツに謝った。

こんな薬が出回ってしまうと、彼の信用問題になってしまう。

誰かの手に渡らなくてよかったと、心の底から思った。


クッカに、薬草の見分け方を教えてもらいそれをノートに記述して

今まで、何の薬をどれだけ作ったのかを記述してあるノートを取り出し

胃薬と書かれてある横の空欄に、失敗した内容を赤で記述する。


最近は、赤文字が減ってきていたのにともう一度ため息をつき

ノートを閉じた。


セツに薬の駄目だしをもらった、次の日の夕刻あたり

読んでいた本からふと顔をあげると、クッカが手に薬草を持ったまま

俯いて動かない。調子が悪いのかと不安になってクッカを呼んだ。


「クッカ……?」


私の声に、体を揺らしてゆっくりと視線を私とあわせた。

その顔は、いつもの通りのクッカだった。


「はいなのですよ?」


「大丈夫?」


私の問いに首を傾げて私を見る。


「薬草を持ったまま、動かなかったから

 体調が悪いのかと思ったの」


「精霊は、病気にならないのですよ」


「そうだけど……」


「いろいろ薬草が増えてきたのですよ……」


クッカの言葉に、薬草園を見渡す。確かに色々な薬草がわさわさと茂っている。


「隣り同士に、植えてはいけない薬草もあるのですよ」


「そうなの?」


「そうなのですよ。何をどこに植えようか考えているうちに

 頭の中が、混乱してくるのですよ!」


クッカの言葉に私は軽く笑う。


「協力できればいいのだけど……。

 私では、役に立ちそうにないわね」


「これはクッカのお仕事なのですよ!」


そう言って胸を張るクッカ。その姿が可愛くて

クッカが一生懸命、畑をどうするかを話しているのを聞いていた。

その日から、クッカは何かを考えるように難しい表情を作って

いたけれど、薬草の事で大変なのだと思い深く理由を尋ねることはしなかった。


私には手伝うことができないから……。

せめて、邪魔にならないように。


そして数日後、夜中あたりにいきなりクッカが叫び声をあげて起きる。


「ご主人様!!」


その声はあまりにも悲痛で、もしかしたらセツに何かあったんじゃないかと

思わせるような声だった。


「クッカ? クッカ大丈夫?」


「うぅ……トゥーリ……様?」


私は手元にある魔道具を発動させ、明かりをともす。


「どうしたの? セツに何かあったの?」


「ち……ちがうのです……よ。

 怖い……怖い夢を見たのですよ」


クッカの表情は青く、その涙が止まる気配はない。

だけど、セツに何かあったわけではないと知って少し安堵する。


「ご主人様にあいたいのですよ……」


そう言って、しくしくと泣くクッカに私はどうしたものかと考える。

この時間に、セツに会いに行っても寝てるのではないだろうか?

だけど……クッカが落ち着くには、セツが必要なのかもしれない。


「クッカ、クッカはセツの元へ転移できるでしょう?」


「できる……のです……よ」


「なら、今からセツのところへ行ってくるといいわ」


涙を落としながら私を見るクッカ。


「だけ……ど……。

 クッカは呼ばれて……いないのですよ」


「大丈夫。いきなり行ったとしても

 セツは怒らないわ。もし寝ていたら、セツのベッドで

 一緒に寝てくればいいわ。そしたら、もう怖い夢は見ないから」


「……」


視線を彷徨わせ、何かを考えるクッカ。

その涙は未だ止まらない……。どんな夢を見たのだろうか。


「ごめんなさいなのですよ。

 クッカは、ご主人様のところへ行きたいのですよ。

 あいたいのですよ」


クッカの正直な気持ちに笑って頷く。


「クッカ、行ってらっしゃい」


クッカは、私に頷きすぐに魔法を発動し消えた。

その余裕のない姿に、数日前からクッカの様子がおかしかったのは

セツに会いたかったからじゃないだろうかと考える。


会いたいのに、その気持ちを私に伝えることができずに我慢していたから

今日、クッカに嫌な夢を見せたのかもしれない。


今頃、セツの横で安心して眠っているかしら。

そんなことを考えながら、クッカが優しい夢を見れるように心の中で祈り

目を閉じた。


次の日、クッカが嬉しそうに笑って帰ってくる。

その笑顔に安堵して、セツといい時間が過ごせたのだと私は疑わなかった。


「セツは元気だった?」


「少し疲れていたのですよ」


「どうして?」


「お仕事だったのですよ~」


「まぁ……」


「寝ればすぐに元気になるのですよ」


「そう……それならいいけれど。

 アルトは?」


「アルト様は、食べてはいけない花を食べて

 起こしても起きなかったのですよ……」


死にそうな女性を助けるために、薬の材料になる

薬草の採取を朝早く手伝ってきたようだ。


クッカが持ち帰ってきた、ノシェの花というのを見せてもらい

クッカがその効能を教えてくれる。花には睡眠効果があり食べると

寝てしまうらしい。最後の蜜を口に入れることができなくて

八つ当たりで花を食べてしまったようだ。


クスクスと私が笑うと、クッカは笑い事じゃないのですよ

と頬を膨らませた。その様子がとても可愛い。


起こそうとしても起きないアルトの話や

精霊の契約者が居て、その精霊と仲良くなった話を教えてくれる。

セツにとりついている? 幽霊の迷子の話を聞いた時は

少し驚いてしまったけれど……。幽霊でも迷子になることがあるんだなと。


そして最後に、精霊の契約者と精霊の関係がとても羨ましかったのだと

ぽつりと私に零した。クッカの寂しそうに笑う表情を見て胸が痛む。


「クッカも、セツの傍に行く?」


「駄目なのですよ。

 ご主人様の願いは、トゥーリ様を1人にしない事なのですよ。

 それに、クッカもトゥーリ様を1人にしたくはないのですよ」


本当は、セツの傍に居たいはずなのに……。

なぜもっと早く、クッカの気持ちを考えてあげなかったんだろう。

考えれば、何かいい方法が出てきたかもしれないのに。

それなのに、クッカは私の傍にずっといてくれた……。


なにか……何かいい方法はないかと考える。

クッカが気にせず、セツの傍に行ける方法はないかしら……。


「なら、時々セツのところに遊びに行くのはどうかな?」


「遊びに?」


「そう。クッカがセツのところへ遊びに行って

 色々な話を教えてくれると嬉しいわ」


「……」


「クッカは、セツのところへ行くのも

 この場所に戻ってくるのも、簡単にできるでしょう?」


「はいなのですよ」


「だから、クッカがセツに会いたいと思ったら

 すぐに会いに行けばいいと思うの」


「だけど……」


クッカはそこで俯いてしまう。

セツの願いと、私をここに残す事に対する

罪悪感が、クッカの中にあるのかもしれない……。


私がどう伝えても、クッカにとって大切なのは

契約者である、セツの言葉なのだろう。

なら、セツからクッカに伝えてもらったほうがいいかも知れない。


「セツには、私からお手紙を書くわ」


「ご主人様は……」


しょんぼりと肩を落として、顔をあげようとしない。


「大丈夫。セツはクッカが大好きだわ。

 クッカが遊びに行くと、絶対に喜んでくれるから……」


小さく頷いたクッカに、私は安心させるように笑い

セツに手紙を書いた。


クッカが寂しがっていること。

毎日、私に良くしてくれること。

薬草も、一生懸命育てていること。


クッカにも、息抜きが必要だということ。


数日間1人になったとしても、私は大丈夫だということ。

だから、クッカが自由にセツ(先生)の元へ遊びに行けるように

クッカに声をかけてあげてほしいと……。


セツからの返事は、それから3日後クッカ宛に届くことになる。

その手紙を、クッカは飛び跳ねながら私に見せてくれた。


”クッカ、この前は薬草採取を手伝ってくれてありがとう。

 とても助かったよ。トゥーリから、手紙をもらいました。

 遊びに来たかったら、いつでも遊びにおいで。

 アルトもフィーもいるしね。


 一応、来る前に連絡は入れてくれるかな?

 仕事の最中という事もあるから。 セツナ”


「いつでも、ご主人様とあえるのですよ!」


「よかったね」


「トゥーリ様、ありがとうなのですよ!」


手紙を胸に抱き、本当に幸せそうに笑う。


こんなに喜ぶクッカを、見ることができるのなら

もっと早く、セツに手紙を送ればよかったと少し後悔したけれど。


セツから、私にも手紙が届いた。


”トゥーリへ、クッカの事を心配してくれてありがとう。

 トゥーリに、寂しい思いをさせることもあるかもしれないけれど

 何かあったら、すぐ僕に連絡をくれると嬉しい。


 それと、色の違う紙に書かれた薬の調合を

 これからトゥーリに任せます。薬の内容は胃薬ですが

 定期的に、欲しいと頼まれました。

 トゥーリの初めての顧客になるのかな。

 先方にも、僕が作るのではなく弟子が作ると伝えておきます。

 薬の調合方法のほかに、胃痛の症状を書いたメモも入れておきますから

 目を通しておいてください。 セツナ”


セツからの手紙の内容に、心が震えた。


私の初めての仕事。

私の初めての顧客……。


何かが胸の中に湧き上がってくるのを感じた。

私の作ったものが、誰かの助けになるのなら……こんなに嬉しいことはない。


私はセツの手紙を机の上に置き、調合方法が書かれた紙と

胃痛の症状が書かれたメモを見る。この人の胃がこれ以上悪くならないように

少しでも良くなるように、頑張ろうと心に誓ったのだった。



読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



html>

X(旧Twitter)にも、情報をUpしています。
『緑青・薄浅黄 X』
よろしくお願いいたします。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ