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ALMA -とある魔女のお話-  作者: ROBO
第三章 アウシュラの戦い

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第39話:脱出

「あなたは……」


驚きと焦りと衝撃で私たちは

それ以上の言葉を発することが

出来なかった。


「今晩ショーを見てくれていたでしょう?

 屋根の上からなんて素敵ね!」


まず彼女が私たちを視認していたことに

感激したが、今はそれどころではない。


「……あの、私たちはもう行かないと」

「子どもだけでこんな夜中に?

 さっきから町も騒がしいし、危険だわ」

「でも……みんなが危ないんです。

 私たちの大切な人が……」


私は彼女と会話しながら、

思わず涙をこぼしてしまった。

様々な感情が追い付かず、

急に溢れて出てしまったようだ。

一粒、二粒、でもそこで止めた。


「……どこへ行きたいの?」

「アウシュラです」

「え! それなら大丈夫よ」


ルルが私たちに近付き、

ポンポンと両の肩を叩いた。


「私たちの次の巡業先はアウシュラ。

 今晩出発するわ。一緒に来る?」

「良いんですか!?」

「馬車にはまだ空きがあるし、

 うちには風の魔法使いがいるからね。

 普通の馬車よりうんと早いの」


途方に暮れていた私たちに突如訪れた朗報。

大きな声は出せないが、思わずメロディと

その場で抱き合ってしまった。


「私はルルよ。あなたたちは?」

「アルマです」

「メロディよ」

「ふふ、何だか個性的な子たちね!

 ついて来て。みんなに事情を話すわ」


ルルに連れられ、私たちは馬車の裏へとまわり、

キャラバンのメンバー三人に挨拶をした。


リーダーの“バロ”は背が高くて逞しく、

重いハープなどの楽器の運搬もすべて

一人で行ってしまうという屈強な男。

主に打楽器を担当し、私たちと同じ言語も

片言であれば話せるようだ。


副リーダーの“ルパ”は弦楽器の奏者で

銃やナイフの扱いにも長けており、料理上手らしい。

すらっと長く美しい指を持った若い男だ。


もう一人は“ルサ”と呼ばれる小柄の女性で

真っ白な肌も相まって幼く見えるが、

実際は30歳を過ぎた大人。

常に冷静で頼れる、キャラバンの

肝っ玉母さんのような存在だという。


彼らは突然現れた私たちに対して

全く怪しむ素振りもなく、まるで

旧知の仲のように馬車の後部座席へと

招き入れてくれた。


「シンパイシナイデダイジョウブ。

 メガミサマガツイテルカラ」


バロがルルを指さしながら

にっこり笑顔で私たちに笑いかけた。

馬車の中は思った以上に広く、

天井も高くてちょっとした家の様だった。


実際に遠方へ向かう際はこの中に

寝泊まりするようで、床に敷かれた長い絨毯や

端に積まれた楽器類にもエキゾチックな

香水の匂いが染みついていた。


「バロ、そろそろ出発しましょう。

 あなたたちはこの下に隠れて。

 声を出しちゃダメよ」

「あの、私たちのこと何も聞かないんですか?」


あまりにも話の流れが早かったため、

私はルルに質問した。


「だってあなたたちからは

 悪いものを感じないもの。

 私たちロマは風に生きる民族だから、

 なんとなくわかるの。さ、早く」


ルルは屈んだ私たちの背中に

幾重にも重ねたキルト生地を被せた。

重くて暑い……でも我慢。間もなくして

馬車がゆっくりと動き出す。床越しに

心地良い蹄と車輪の音が聞こえてきた。

一定のリズムで流れる音……王都を無事に

出られるまでの少しの辛抱だ。


なんてもどかしいのだろう。

ヴァーノンの言葉が真実だとすれば

一刻も早くアウシュラへ

行かなければならないのに……。


人を魔物に変えてしまう魔法とはなんだろう?

カミラやヘレナは無事だろうか?

胸が詰まって苦しい……今になって

恐怖で身体が震えてくる。


馬車の動きが止まった。

おそらく関門に着いたのだろう。

誰かの話し声が聞こえてくる。


「先ほど宿屋で騒ぎがあってね。

 怪しい人物を見なかったか?」

「コンナヨルニ? イナイヨソンナヒト」

「失礼だが馬車の中を拝見しても?」

「ナカデミンナネテルヨ。カワイソウ」

「見せられないならここを通すことは出来ない」


まずい、生地の下を調べられたらおしまいだ。

もし見つかったらこの人たちにも

迷惑が掛かってしまう……。


「バロ、どうしたの?」


ルルの声が聞こえる。


「まぁ! 衛兵の方ね。

 こんな遅くにどうされたの?」

「いや……詳しくは話せないが

 人が襲われる事件があってね」


衛兵の声は先ほどの会話のときよりも柔らかい。


「そんなことが……だから皆さんは

 こんな夜更けまで。ご苦労様です。

 そうだ! ホットワインをご馳走しますわ」


ガサガサとルルが何かを探す音がする。


「いえ、我々は仕事中ですので……。

 酒をいただくわけには……」

「そんな、なんて高尚な方なんでしょう。

 ほら、手もこんなに冷たくなって……」

「いや、そんなことは……いつものことですから」


衛兵らしき男の声にはもうすっかり締まりがない。


「王都の平和はあなた方のおかげですわ。

 本当にありがとう。私たちは今日でしばらく

 ここを離れますが、またきっと……。

 そのときは私の踊りを観に来てくださる?」

「いや、それはもちろん……」

「まぁ嬉しい! ありがとう!

 ああ、そうだわ。馬車の中を確認されますか?

 ふふ、ごめんなさいね。着替えたばかりだから

 散らかっているかも……」

「いえ、もう結構。無事ならば良いのです。

 道中お気を付けて」

「そう……わかりました。衛兵さん、

 お名前をお伺いしても?」

「わ、私の名前を?」

「ええ、せっかくこうして出会えたんだもの。

 旅の最中にあなたを思い出させて欲しいの」

「……カルロと申します」

「カルロ、いい名前ね。またいつか

 お会いしましょう。きっとね」

「ええ、ルル殿もどうかお元気で……。

 おい! 道を開けろ!」


カルロの一声と同時に馬車が再び動き出す。


「まぁ! 私の名前を知ってらしたの?」

「実は私も踊り子ルルのファンでして……。

 お会い出来て幸せでした。それでは」


何故だろう、二人の会話を聞いていると

顔から火が出る思いだ……。ルルの声は

終始トーンが高く、まるで劇の登場人物のように

大袈裟で上品だった。


でもあのルルに真っ直ぐ見つめられて

手を握られたら、きっと大体の男たちは

骨抜きにされてしまうだろう。


隣ではメロディが身体を震わせながら

笑い声を押し殺している。

何はともあれ、ルルの機転のおかげで

私たちは助かった……。

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