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ALMA -とある魔女のお話-  作者: 廃墟のロボット


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第1話:私の居場所

挿絵(By みてみん)

(アルマ:AI生成)



私の住む村には、

代々続く魔法使いの家系が二つある。

一つは自然と一体となることで、

天候や災害を予知できる

“ナチュラル”と呼ばれる家系。


もう一つは様々な呪いの技を使い、

動植物から生気を吸い取る

“ドレイン”と呼ばれる家系。


魔法使いは全てが血筋によって成り立っており、

両親共に魔法使いの血を受け継いでいなければ、

その身に魔力を宿すことはできない。


魔法使いでない者が数十年を掛けて

魔法の知識を学び、真似事の鍛錬を積んだとしても、

僅かな煙の一つすら起こせないのが現実だ。


それゆえに魔法使いの家系に生まれた者は

強大な権力を持ち、ときに信仰の対象となる。


私がドレインの家系に生まれたときも

村は大いに沸き、誰もが優しく私に接してくれた。

事実、10歳になるまで愛情に飢えるようなことは

一切なく、ときに鬱陶しく思うほどの

干渉を受けてきた。


何の苦労もなく育つことができたのも

私の中に流れる魔法使いの血のおかげ

だったのだろう。


しかし、ある日突然母が私に告白した。

それは何かの記念日だったり、

村の祭りがある日だったり……

そんな特別なタイミングではない。

本当に“ある日”としか言えなかった。


「あなたの本当のお父さんは、魔法使いじゃない」


木苺のジャムを作っている最中だったが、

母はその手を休めるどころか、

かまどの火を強めながら

テキパキと作業のスピードを早めた。


「え?」


聞き逃したわけじゃない。

でももう一度確認したかった。

大好きだった甘酸っぱい香り……

この時だけは鈍く、不快でしかなかった。


「あなたは今夜、村を出て。

 ここにはもう戻ってきてはダメ」


母はそう言いながら私に向き直り、

慣れた手つきで引き出しから何かが入った布袋と

畳まれた羊皮紙を取り出し、私に歩み寄った。


説明するのも面倒だと言わんばかりに

母は布袋を乱暴に開いてみせて、

中に入った数枚の銀貨をチラつかせた。


すぐに袋を閉じると今度は羊皮紙を

私の目の前で広げ、そこに書かれた地図と

家の印を順番に指さして見せた。

この時の母はすっきりした表情だった。


「ここに私の姉が住んでるわ。あなたはこれから

 叔母さんと暮らすの。良い人だから大丈夫よ」


母は呆気にとられたまま受け取ろうとしない私を見て

呆れたようにため息をつくと、身をかがめて

大きくて温かい手で私を引き寄せ、抱きしめた。


なんだ、全部嘘だったんだ。

私を驚かせようとしたんでしょ?


「アルマ、聞いて。お母さん妊娠したの。

 正真正銘お父さんの子よ。きっと立派な

 魔法使いになるわ。

 アルマはお姉ちゃんなんだから、

 協力してくれるよね?」


母の心から嬉しそうな声を聞き、

私はようやく自分が見捨てられたことを理解した。

涙は不思議と流れなかったが、

これまで大好きだった母の体から身を焦がすような

殺意を感じ、ただ腕の中で震えていた。


「お父さんは?」


喉の奥からなんとか捻り出した言葉。

それが母の耳に届くや否や、

私を抱く腕が硬直する。


「お父さんは今夜戻らないわ。

 アルマは修行に出たと伝えておくから」


私をゆっくり身体から離した母の顔には、

黒く塗りつぶされたように影が落ちていた。


「あの人が、アルマが自分の子じゃないと知ったら

 すべて終わり。こうするほかないのよ」


母は突然立ち上がり、自分の袂から鋭くとがった杖を

取り出すと私の喉元に突き立てた。

銀貨の袋と羊皮紙が乱暴に床に転がる。


「それを拾って行きなさい。

 行かなければ殺す!」


母の杖は最初こそ僅かに震えていたものの、

それはすぐに収まりピタリと私の喉に狙いを定めた。


嫌だ、と泣き叫びたかった。

死んでも良いから今すぐ母の胸に飛び込んで、

ぎゅっと抱きつきたかった。


この頃になってやっと涙が流れ出たが、

最初こそあった僅かな寂しさは

すぐにただの恐怖の感情に塗りつくされた。


「もしかしたらと今まで育ててきたけど、

 やっぱり駄目ね。行きずりの男の

 濁った血が入っているんだもの」


私が以前村の外に一人で抜け出したとき、

たどり着いた森の中には小さな沼があった。

好奇心で近付いた途端、ブクブクと水面から

泡が吹き出し、奥底から現れた魔物。


その無機質な丸くて赤い瞳に、

私はとてつもない恐怖を感じて家へと逃げ帰った。

スグに母に泣きついて

頭を撫でてもらった想い出……。

しかし、今目の前にいる母の瞳は

あのときの魔物にそっくりだった。


全身が粟立(あわだ)つ感覚を覚えた私は、

床に転がった銀貨の袋と地図をつかみ取ると

真後ろにある扉から弾けるように家を飛び出した。


松明に照らされた村の路地を、

息をするのも忘れて走り抜ける。

途中何人かの村人がこちらを

不思議そうに眺めていた。

声を掛けてくれた人も居ただろう。


ただその光景すらも今の私には怖かった。

私が魔法を使えなかった理由は

魔法使い以外の血が混じっていたからだ。


彼らが私に優しくしていたのは

崇拝の対象だからであり、“人として”

私を愛してくれた人などきっと居ないだろう。


家と家の間を駆け抜けてものの数分で

私は暗い夜の闇に溶け込んだ。


どれぐらい走っただろう……。

気付けば周りには植物が生い茂り、

闇は一層深くなっていた。


月が大きな夜だったのがせめてもの救いだ。

荒れた呼吸を落ち着かせるために、

今度はゆっくり歩きだす。


服は薄いリネンのローブ一枚だったが、

汗と体温で暑いぐらいだ。

呼吸が静かになると共に、虫や動物の声が

耳に届くようになってきた。

靴を履いていなかったので足の裏が痛み、

頭が段々と冴えてくる。


もう二度とあの家に戻ることはできない。

頭の中では整理できない感情が渦巻き、

とめどなく涙が流れた。


「お母さん……」


両親との楽しい想い出も、

村の人々から向けられた愛情も、

すべてに価値がなくなった。


これまでの出来事が走馬灯のように

頭の中を駆け巡る。


10歳になっても一向に魔力が芽生えない私を

両親や周囲の人はいつも励ましてくれた。


「きっといつか魔法が使えるようになる」

「長い歴史の中では12歳まで魔力が

 目覚めなかった子どももいる」


そう楽観的で居られたのは自分自身が魔女だと

信じて疑わなかったからだ。

母は私が魔力を持たずに成長するにつれ、

不安と後悔に襲われていたのだろう。


奇跡を願った日もあったのかもしれない。

でも私はただの人間だった。

幸せな日々は唐突に、あっさりと終わりを告げ、

私は今一人で森の中をさまよっている。


「誰か助けて」


声はもうほとんど出なかった。

逃げ出した時の身体の軽さは嘘のように

一歩一歩が重く、地面に沈み込むような感覚。

あっと声を上げる間もなく、

気付くと私は崖から足を踏み外していた。


運よく下には川が流れており、

地面に叩きつけられることはなかったが

全身が痺れるほどの衝撃を受けるには十分だった。


流されながらなんとか呼吸のために

水面に顔を出したものの、

まともに泳ぐことはできず、

激しい水の音に気が遠くなる。


私はこの流れの先に滝があることを知っていた。

以前両親と一緒にピクニックで

訪れたことがあったからだ。


こんなことになるなんて思いもしなかった。

まどろむ意識の中であの日見た夕焼けを思い出す。

死の恐怖よりもこの現実から今すぐ逃れられる幸福に

私は喜んでさえいた。


「みんなさようなら」


耳にはもう何の音も届かない。

意識がプツリと途切れて、

私は夜の森よりもさらに深い闇に沈んでいった。

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