異世界税関と試練の日4
北の国御一行様の入国が終われば出国までゆっくりできる、そう思っていた。
「まさか先方への寄贈品も事前に税関検査を通すことになるとは……」
「黙って手ぇ動かせ」
扇さんからの冷たい指示に泣きたい気分になりながら、私は大陸標準語での資料作成に挑む。とは言っても手作業でやっても到底追いつかないので秘策がある。
「あ、フォントのダウンロード終わった」
「フォント?」
「先月イギリスの大手印刷会社が大陸標準語の文字フォントを作って無料公開してくれたんで、こっちのPCにも入れようと思いまして」
これにより慣れない文字を大量に手書きする手間を省き、綺麗な文字による文章作りを爆速で出来る。
ちなみに自宅PCには導入済みだから使い勝手は把握済だ。
「そげなもんあるなら使ってもいいかもな」
「キーボードと画面表示で文字が違うから脳みそバグりそうになりますけど、専用カバー作れば解決しますしね」
「たまには役に立つんだな」
「常時役に立ってますが?」
毒に毒を返しつつ、まずは書類制作開始だ。
日本政府から提出された持ち込み品目リストをコピペして、それらの品目にどんな検査・手続きをしたかを説明する資料を作り上げる。
(説明用のイラストは全部いらすとやでいいか)
いらすとやはいったいいつだれが使うのかも分からないようなものが無料配布されてるので本当にすごい、たぶん日本の挿絵の7割ぐらいはいらすとやが担ってる。
時々単語の綴りや意味を単語表などでチェックし、今回の手土産となる30品目の説明を書き終えた頃には夜だった。
「もう定時なので帰ります」
「明日、贈与品証明書の写し作るからよろしく」
「そこまでする必要あります?」
密輸品ではない事を証明するとか日本との友好を示す裏付けとして渡しておくとか色々考えがあるのだろうが、いまはただめんどくさい。
というか帰ろうという時に明日の仕事の話しないで欲しい。
「必要なものだから作るってだけだ、それに明日でいいって言ったろう」
「いやそうですけど……まあいいや、帰ります」
*****
そうして諸々の手続きが終わるのに4日、荷物を日本から異世界へ持ち出すのに半日、想定外の仕事がぶち込まれないことを祈りながら3日間が過ぎた。
「今日が北の国の御一行様帰国の日なんやねえ」
三角さんがお昼のニュースを見つつサンドイッチをつまむ。
一口サイズのサンドイッチ、ちょっと美味しそうで羨ましい。
「穏やかに終わってくれそうで良かったですけどね」
「せやねえ、大きいトラブルも無さそうやし……サンドイッチ気になるん?」
持っていたサンドイッチを少しだけこちらにずらしてくれる。
照り焼きたまごサンドにハムレタスサンド、チーズハンバーグサンドがぎっしりと詰まってる。
「ちょっとだけ、」
「一個だけならええよ」
「……頂きます」
照り焼きたまごサンドを頬張ると照り焼きの甘辛いたれにクリーミーなたまごサンドがよく合う。
家だと父親の趣味で和食に偏りがちなので、こういう洋な食い物を食べるとちょっとテンションが上がるのだ。
「美味しいですね、これ」
「うちの子らのお弁当の残りと作り置きを適当に挟んだだけやけどね」
「いや、十分美味いと思いますよ」
多忙な母親がパパっと作るお弁当の味としては十分だろう。
暇を持て余し気味なうちの母親が作っていた弁当に比べれば味のクオリティは落ちるが、手作りでチャチャっと作ってくれたのなら十二分に美味しいと思う。
「朝から何食べてますの?」
「サンドイッチお裾分けしただけよ?」
「そういう事ですか……丸山莉乃への甘やかしはほどほどにしてくださいまし?」
「別に甘やかしてへんけどなあ、菱刈さんも食べる?」
「わたくし先ほどアサイーボウルを買ってきましたの、ですからこれで十分ですわ」
「お昼にしては少なくない?若いんやからしっかり食べな?」
わいわいとしょうもない話をしながらお昼を過ごす。
たぶんこのまま平穏に終わるだろうという予測が外れる事など、まだ誰も知らなかった。




