第9話 『蒼氷の聖女』と『龍殺の守護者』
青羅・バーンシュタイン。
この国に所属しているもう一人のSランク冒険者。
いや、冒険者としての登録がたまたまこの国なだけで基本的にフリーで行動しているアイリーンさんとは違い、日本政府と正式に契約を交わし専属の冒険者として活動しているSランク冒険者としては、唯一無二と言っても良い存在かもしれない。
そのあまりの強さと正義的な立ち振る舞いから付けられた二つ名が『蒼氷の聖女』だ。
ダンジョンで彼女に危機を救われた者は数知れず、その救援を受けた者たちがいつの日か彼女を『聖女』と呼び始めたことに起因しているらしい。
アイリーンさんの二つ名は『紅蓮の魔女』、これは所かまわず範囲攻撃で周囲の冒険者ごと吹き飛ばしてしまうため、その被害者たちが彼女のことを『魔女』と呼び始めたことに起因している。
うん、正反対だなぁ。
これってひょっとして……
「あらあら、セイラさん、急に出てきてグランドダンジョン攻略に同行するだなんて、呼んでもいないのに一体どうしたんですか?」
「いえいえ、実はこの鏑木支部長から依頼を頂きましたの。厳密に管理すべきグランドダンジョンに道理を弁えない野良冒険者が挑もうとしているからサポートしてくれってね、だからわたくしも仕方なく同行して差し上げようかと思いまして……ね?」
「へー、道理を弁えない野良冒険者ですかぁ……鏑木支部長がそんなことを……」
アイリーンさんが表情に笑顔を張り付けたまま鏑木支部長の方向へ顔を向ける。
「な!?私はそんなことを言ってはいないぞ!」
セイラさんはクスクスと笑いながらアイリーンさんに睨まれている鏑木支部長の様子を見ている。
……間違いない。
この二人は仲が良くない、ていうか悪い!
「お嬢様、おふざけはその辺りにしておきませんと、アイリーン様とはこれからグランドダンジョンへ一緒に挑戦するのですから……」
その時、隣にいたもう一人の男性が口を開く。
この人は確かセイラさんの執事の……
「ああ、申し遅れました、私の名は轟清十郎、こちらの青羅・バーンシュタイン様の執事兼護衛を務めさせて頂いております」
その男性は深くお辞儀をしながら自らの名を名乗った。
何だろう、たった今聞いた轟清十郎という名前に何となく聞き覚えがあるような気がするんだが……
「ちなみに清十郎は冒険者としても活動してますの、ランクはA、『龍殺の守護者』と言えば聞いたことがあるのではないでしょうか?」
「り、龍殺!?ってあの有名な!?そう言われればそうだ!あ、あの俺、ファンなんです!」
「あらあら、清十郎、この方あなたのファンなんですって、後でサインでもして差し上げたらいかがかしら?」
「はっ、承知しました」
「本当ですか!?お、俺、感動です!」
そうだ、この人は『龍殺』と呼ばれる超有名人じゃないか。
再生回数1000万回を越えた伝説の動画、『ダンジョンから這い出てきた地龍を退治する守護者』は、俺が配信者を志す原因となったと言っても過言ではないだろう。
俺もあんなに衝撃的な映像を世の中に届けてみたいと強く思わせてくれた動画の一つなのだ。
その動画の中で地龍を退治し『龍殺』の二つ名と名声を獲得した張本人が目の前にいることに興奮を隠せなかった。
「そういう君は、最近有名な『神速の配信者』だね?名前は確か……」
「はい、草薙ハヤトって言います!よろしくお願いします!」
「うん、よろしく」
「草薙さんですわね?こちらこそよろしくお願いしますわ」
改めて二人と挨拶を交わす。
「よし、これで四人とも挨拶は終わったかな?色々と意見はあるかもしれないが、今回はこの四人でグランドダンジョン攻略に挑んでもらいたい」
四人の挨拶が終わった時点で鏑木支部長が場をまとめる。
アイリーンさんがやや不服そうにしているのが気にはなるが……
一体、アイリーンさんとセイラさんの間にはどんな因縁があるのだろうか?
何かの機会に聞くことが出来れば良いんだけど。
……結局その場は解散となった。
詳細は【ダンジョン統括省】の方から後日届くらしい。
各自、グランドダンジョン攻略の準備をそれまでに実施しておくということだけは指示をもらったが、何故この四名で挑戦することになったか、という理由は教えてはもらえなかった。
まあ、多分アイリーンさんの暴走を止める役目なんだろうなぁ。
そこまでする必要があるグランドダンジョンとは、一体どんな場所なんだろうか?
ダンジョンデビューしてまだほんのわずかな時間しか経っていない俺にとっては、目まぐるしく動き始める最近の周囲に少し付いて行けないのも事実だ。
……でも、頑張ろう、行けるところまでは行くぞ、アイリーンさんと一緒に!
俺は心の中で強い決意を抱く。
後日、【ダンジョン統括省】から記者会見が開かれ、グランドダンジョン【星崩の大魔宮】の攻略には、【『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』】のコンビと、【『蒼氷の聖女』と『龍殺の守護者』】の四名で挑むことが発表された。
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