第21話 突入から開戦まで
あれから必要な検証をすべて終えた俺とアイリーンさんは、ダンジョン統括省の手配によって、無事に沖縄へ上陸した。
空港ではかすみさんたちに見送られながら用意された飛行機へ乗り込み、沖縄へ到着した頃には、すっかり日も暮れていた。
さすがにその日はホテルで宿泊することになった。
まあ、その日はゆっくり休めたよ。
ここまではね。
翌日の朝、俺たちはホテルを出ると、そのまま用意されていた車へ乗り込んだ。
そして、そのままSランクダンジョンへ直行することになった。
いや、本当にもうそのままダンジョン行くんかい!
沖縄のギルドとかダンジョン統括省とかに一度くらい寄るのかなぁ、なんて思っていたんだけど……
うん、何もなかった。
完全にダンジョン直行である。
一応、迎えの車の中ではダンジョン統括省の担当者から、今回のダンジョンについて簡単な説明を受けた。
新たに出現したSランクダンジョンの名前は『海魂の冥穴』。
水系統のモンスターが数多く生息するダンジョンらしい。
出現してから何組かの冒険者が挑戦しているものの、その大半は途中で撤退。
中には全滅してしまったパーティーも存在しているという。
現在は、ダンジョン統括省から依頼を受けたクランが内部の偵察を行っているそうだ。
ちなみに、そのクランの名前は『斬ん人』。
……そういえば、以前どこかで聞いたことがあるような。
かなり特徴的な名前なので、何となく記憶に残っていた。
念のため、『斬ん人』のメンバーが持っている端末にはGPS機能が設定されており、ダンジョン内部での位置や状況を確認できるようになっているらしい。
万が一、何か異常が発生した場合には、こちらにもすぐに連絡が入るということだ。
やがて車はダンジョンの入り口へ到着した。
そこで俺たちは、今回の攻略に必要な支給品を受け取る。
『エリクサー』に『転移の巻物』、さらには『復活の玉』まで用意されていた。
どれも簡単には手に入らない高価なアイテムだ。
『斬ん人』にも同じものが支給されているらしく、万が一の事態にも備えているという。
これだけ準備されているなら、かなり安全な攻略ができそうだ。
……とはいえ、ここはSランクダンジョン。
どれだけ準備を整えていたとしても、油断だけは禁物だろう。
「それでは、準備は良いですか?」
隣を見ると、アイリーンさんもすでに準備を終えていた。
「はい、私はいつでも行けますよ!ハヤトさんも大丈夫ですか?」
「もちろんです!」
思えば、前回のダンジョン攻略ではセイラさんと清十郎さんが一緒だった。
今回はアイリーンさんと二人きりでの挑戦。
そう考えると、自然と気合も入ってくる。
「じゃあ、行きましょうか!」
「はい!」
俺たちは気合を入れ直し、Sランクダンジョン『海魂の冥穴』へと足を踏み入れた。
◆
ダンジョンへ入ってしばらくは、魚や蛸などの水棲生物を思わせるモンスターに襲われながらも、順調に進むことができた。
アイリーンさんの圧倒的な火力に加え、以前とは見違えるほどレベルアップした俺も戦闘に加わっている。
はっきり言って、この程度のモンスターならアイリーンさん抜きでも楽勝だ。
そんなことを考えてしまうくらいには、出現するモンスターのレベルも低く、今のところ脅威に感じるような相手は存在しなかった。
そして、今の俺にはもう一つ大きな武器がある。
〈いやいや!待ってました!〉
〈こんなにすぐにSランクダンジョンに挑戦してるとは……〉
〈しかも『配信王』? 『神速』さん、超級職になっちゃったの?〉
〈それに【七星剣・セプテントリオン】まで持ってるじゃん!〉
〈もう弱かった『神速』さんはどこにもいないんだね……〉
そう、配信だ。
今回は、俺が新たに習得したスキル『真・配信術』を使用している。
これは、俺の目で見た光景を、そのまま配信することができるという、とんでもないスキルだ。
つまり今、この瞬間も俺の視界が世界中へ配信されている。
自分の目を通して見ている光景を、何十万人もの人間が同時に見ている。
改めて考えると、かなり変な感覚だな。
そんなことを考えながら、俺たちはダンジョンの奥へ向かって進んでいた。
ちなみに、同時に習得した『配信中ステータス上昇(極大)』の効果も凄まじい。
今の俺のステータスは、そこらの冒険者とは比較にならないほど高くなっている。
〈さっきから『神速』さん強すぎじゃない?〉
〈いや、それはさすがに超級職だしさ〉
〈今倒したのって、グレイトバラクーダでしょ?〉
〈あんな凶悪なモンスターを一撃で倒しちゃったよ……〉
〈それに『真・配信術』だっけ? 『神速』さんの視界が配信されてるんだよね?〉
〈ああ、そうみたいだな。めちゃくちゃ見やすいんだけど〉
〈同感w それに迫力がヤバいw〉
俺が超級職『配信王』になったことや、それに伴って習得したスキルについては、動画配信の概要欄に記載しておいた。
そのおかげで、視聴者たちは現在の俺がどんな能力を使用しているのか、どんな効果が発生しているのかをリアルタイムで把握できるようになっている。
その影響もあってか、今回の配信は開始直後からかなりの盛り上がりを見せていた。
現在の同時視聴者数は――八十万人。
前回のグランドダンジョン攻略時に迫る勢いだ。
まあ、世界で初めてグランドダンジョンを踏破する瞬間を生中継してしまったんだから、当然といえば当然なのかもしれない。
俺も有名になったもんだな……
そんなことを考えていた時だった。
突然、端末からアラーム音が鳴り響いた。
「……ん?」
慌てて端末を確認すると、追跡しているGPSから危険信号が送られてきていた。
持ち主に生命の危険が迫っているということだろう。
「ハヤトさん、これは……」
「はい! 急がないとマズいですね。えーと、距離は……」
端末で現在の位置関係を確認する。
『斬ん人』の三人がいる場所までは、まだ少し距離があった。
「このままだと、間に合わないかもしれないな……」
今のペースで進んでいたら、到着する前に三人が危険な状態になる可能性が高い。
まあ、彼らには『復活の玉』が支給されている。
仮に間に合わなかったとしても、最悪の事態だけは避けられるかもしれない。
とはいえ、あれは高価で希少なアイテムだ。
できることなら、使わずに済ませたい。
「ハヤトさん、とりあえず先に行ってください。『神速』なら間に合うかもしれません」
「……はい。それが一番ですね」
「私も出来る限り早く追い付きますから、気を付けてくださいね」
「わかりました。それじゃあ、行きます!」
俺は『神速』を発動した。
一気に加速し、最短距離を選びながら走り続ける。
道中には激流や大きな湖など、さまざまな障害が待ち構えていた。
それでも速度を緩めることなく、激流は飛び越え、湖も一気に駆け抜ける。
モンスターが何度か襲い掛かってきたが、すべて無視した。
今の俺が目指しているのは一つだけ。
『斬ん人』のいる場所だ。
そこへ向かって、ひたすら一直線に走り続ける。
数分後。
俺はようやく、目的地点のすぐ近くまで辿り着いた。
端末を確認すると、まだ生命反応が残っている。
「……間に合ったのか?」
位置情報によれば、三人は少し開けた場所にいるようだ。
俺はその場所へ向かって走り、視界が開けたところで足を止めた。
目に飛び込んできたのは、力なく倒れ伏している三人の姿。
そして、その前に立っている半魚人のようなモンスターだった。
そいつは三人のうち一人に狙いを定め、手にした銛を突き立てようとしている。
「……危ない!」
俺は一気に『神速』で駆け出した。
同時に、【七星剣・セプテントリオン】へ意識を集中させる。
使用するのは、セプテントリオン・メラクの能力。
メラクは、自らの眷属である小型の蜘蛛の命と引き換えに、その蜘蛛が存在する場所へ瞬間移動する『蜘蛛転生』という能力を使っていた。
さすがに俺には、小型の蜘蛛を生み出す能力なんてない。
その代わり、【七星剣・セプテントリオン】では、俺が望んだ場所に蜘蛛の形をした紋章を出現させることができる。
その紋章が存在する場所へ、俺自身が瞬間移動するというわけだ。
紋章を出現させられるのは、俺の視界に入っている場所だけ。
それでも『神速』と組み合わせれば、恐ろしいほどの機動力を発揮できる。
俺は倒れている男性の背中に蜘蛛の紋章を出現させた。
「メラク!」
銛が男性へ突き立てられる、その直前。
俺の身体が一瞬でその場所へ移動した。
目の前に現れた俺は、【七星剣・セプテントリオン】を構え、銛を受け止める。
ガキィィン!
激しい金属音がダンジョン内に響き渡った。
「っしゃぁ! 間に合ったぁ!」
突然目の前に現れた俺に、半魚人のモンスターが驚いたように目を見開く。
俺はその隙を利用して、続けて別の能力を発動した。
「ミザール!」
俺の背後の空間が歪み始める。
セプテントリオン・ミザールの能力。
空間を自在に操作することができた彼女の力は、転送にも応用することができる。
空間の歪みが倒れている三人を包み込み、そのまま三人の姿が消えていった。
少し離れた場所へ転送したのだ。
これで三人は、ひとまず安全な場所へ移動させることができた。
「よし……後はお前を倒すだけだな!」
目の前の半魚人は、突然現れた俺に戸惑っているようだった。
しかも、さっきまで仕留める寸前だった獲物まで奪われている。
怒りを露わにした半魚人が、こちらへ向かって身構えた。
さっきの三人は、ほとんど虫の息だった。
少しでも早くこいつを倒して、治療に向かわなければならない。
俺は【七星剣・セプテントリオン】を握り直した。
「さっさとやるぞ! アリオト!」
七星の一つ、アリオトの力を発動する。
俺の全身から鮮やかな光が放たれ、それが瞬く間に炎へと変わっていく。
輝く炎が全身を包み込み、俺の身体を覆っていった。
「ギャァア!? ウギャギャギャギャ!!!!」
半魚人は、俺が纏った炎を見た途端に大声を上げ始めた。
どうやら炎が苦手らしい。
「うるせぇよ! さあ、行くぞコラァ!」
残された時間は少ない。
『斬ん人』の団員たちを救うため、俺は炎を纏ったまま半魚人へ向かって駆け出した。
Sランクダンジョン『海魂の冥穴』。
その深部で、俺と半魚人――サハギン・ロードとの戦いが始まった。
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