第16話 検証
「あああああアアアアアアアア!!!!! イライラする!!!! 糞が糞が糞が糞が糞がぁあああアアア!!!!」
ここは、とあるダンジョンの内部。
幾つもの廃墟が連なる巨大都市。その最奥部に聳え立つ、一際巨大な城のような建造物――その内部にある玉座の間。
朽ち果てた玉座にもたれ掛かりながら、巨大なモンスターが先ほどから延々と苛立ちの声を上げ続けていた。
大柄な体躯に、額から伸びる巨大な一本角。
その姿は、まさしく屈強な鬼そのものだった。
そして、その玉座の傍らにはもう一体のモンスターが控えている。
こちらは一見すると、どこか気弱そうな美少年にも見える。
ただし、その頭部にはこちらにも一本の角が生えている。
いわば、玉座に座る大鬼と、その傍らに控える小鬼。
そんな二体の主従関係だった。
小鬼は、先ほどからヒステリックに騒ぎ続けている大鬼を眺めながら、深々とため息を吐く。
「……あの、さっきから一体何をそんなに苛ついているんです? 我らが王たるあなたが、そんなにイライラを周囲にぶつけて……見ていられませんよ、全く」
「うるせえんだよぉおおお!!!! 糞が糞が糞が糞がぁあああアアアアアア!!!!」
「ああああ!!! うっさいなぁ、もう!!!! ったくよぉ!!!! 不満があるなら言ってくださいよ! 訳も分からず隣でギャアギャア騒がれたら、うるさくて仕方がない! 本当にあんたは迷惑な王ですよね!?」
「だってよぉ! こんなに暇で暇でよぉ! せっかくやっと出番が回ってきたと思ったのに、戦えるのはまだまだ先だときやがった! これが苛々せずにいられるかよぉ! 糞がぁああああ!!!!」
小鬼は再び、深いため息を吐いた。
主君の苛立ちは収まるどころか、時間が経つほど酷くなっている。
その様子を眺める小鬼の視線は、もはや完全に冷めきっていた。
「はぁ……超めんどくさいんですけど……こんな分からず屋に無理やり付き合わされるなんて、本当についてないや……」
自らの不幸を存分に嘆いた後、小鬼は一転して真面目な表情を浮かべる。
「あなたは、曲がりなりにも我らの一族の王なんですから……もう少ししっかりしてもらわなければ困りますよ、『修羅皇・大凶丸』様」
「……うるせぇ! じゃあ、さっさと相手を連れてきやがれ! ったくよぉ……」
「心配せずとも、そのうち存分に戦えますよ。だってあなたは、世界中の敵――『統率者』なのですから」
「……ふん!」
「ああ、また拗ねた! 本当に面倒くさい王だなぁ……」
大凶丸は不機嫌そうに鼻を鳴らすと、玉座へドカッと座り直した。
そして、まだ見ぬ強敵を待ちわびるように、虚空を見つめる。
「……ああ、早く来やがれ……ウズウズして溜まんねぇなぁ!」
『統率者』の一柱。
世界に敵対する、屈強な大鬼。
その存在が冒険者たちの前に姿を現すのは――もう少し先の話となる。
◆
そして舞台は、冒険者ギルド第二支部の応接室へと戻る。
「……というわけで、Sランクダンジョンへ乗り込むのは明日の朝になるわ。疲れているところ申し訳ないんだけど、あなたたちには今日中にダンジョンが出現した沖縄へ向かってもらう必要があるの」
たった今、無事に超級職『配信王』となった俺は、今後の予定についてのブリーフィングを受けていた。
現在この場にいるのは、俺とアイリーンさん、そしてかすみさんと陸奥さんの四人。
鏑木支部長は、先ほどの騒動の後、何やら怒りを滲ませながら応接室を出て行ってしまったため、残ったメンバーで今後の予定を確認しているところだ。
かすみさんの説明によれば、俺とアイリーンさんは明日の朝から、沖縄に新たに出現したSランクダンジョンへ挑戦することになるらしい。
本当なら今日は一日ゆっくり休んで、明日になってから沖縄へ向かう予定だった。
それが、色々とイレギュラーが重なったことで予定が前倒しになったらしい。
……さすがに、もう少しくらい休みたかったんだけどなぁ。
雇われ冒険者はつらいぜ、全く。
ちなみに、隣に座るアイリーンさんは、見るからに不機嫌そうに頬を膨らませている。
先ほどのブチギレ騒動に加えて、貴重な休暇まで削られてしまったのだ。
怒るのも無理はない。
……まあ、頬を膨らませながら怒っているアイリーンさんは、正直かなり可愛いんだけど。
「はい、それじゃあ時間になったら迎えをよこすから、それまでは自由時間にするわね。飛行機はおおよそ五時間後に出発するから、迎えが来るまで四時間くらいはあるわ。二人が休むための部屋も用意しておいたから、ゆっくり過ごしてくれるかしら」
今後の予定を簡潔に説明すると、かすみさんは立ち上がり、応接室を出ようとする。
「ちょっと待ってください!」
俺は慌てて呼び止めた。
「ん? ハヤト君、一体何かしら?」
「あの、それだけ時間があるんだったら、冒険者ギルドの訓練場を貸してもらいたいんですが……『配信王』の能力とか、グランドダンジョンの報酬なんかの検証をしておきたくて……」
正直、疲れは残っている。
それでも、新たに手に入れた能力や装備の確認くらいなら問題ないだろう。
何より、超級職『配信王』。
そして『星崩の大魔宮』踏破によって獲得した報酬。
これらを試さずに沖縄へ向かうなんて、俺には到底できなかった。
「いいわよ。陸奥君、案内してあげて」
「はい、もちろんです!」
かすみさんは少し嬉しそうに微笑むと、俺たちを訓練場へ案内してくれた。
◆
「はい、ここがこのギルドの訓練場よ。今は誰もいないから、好きに使っていいからね」
かすみさんと陸奥さんに案内されてやって来たのは、だだっ広い野原のような場所だった。
なるほど。
これなら、多少派手なことをしても問題なさそうだ。
さまざまな検証をするには、まさにうってつけの場所だった。
よし。
ここで『配信王』の能力と、『星崩の大魔宮』踏破で獲得した神器を一通り確認してみよう。
ちなみに、アイリーンさんも付いて来てくれている。
かなり眠そうではあるものの、どうやら新たな超級職と最高位神器への興味が勝ったらしい。
まあ、俺としても自分の新しい力をアイリーンさんに見てもらいたい気持ちは大きかった。
ちょうどいい。
「さてと……まずは『配信王』の能力を見てみるか」
自分が就いているジョブのスキルや能力は、端末から確認することができる。
俺は端末を操作し、自分のステータス画面を開いた。
――――
草薙ハヤト
ジョブ:配信王(超級職) レベル:18
スキル:配信精度補正(極大)
配信中ステータス上昇(極大)
ドローン精製
真・配信術
????
????
????
――――
「おお……何か色々と尋常じゃないスキルが並んでるな……」
表示されたスキルを、一つずつ確認していく。
まずは――
【配信精度補正(極大)】
配信時の映像のブレ、ラグ、音声のムラ等が一切なくなる。
「……うん、これぞまさに『配信王』」
ある意味、俺からすれば最高の能力だ。
これなら視聴者のみんなも、ストレスなく俺の配信を楽しめるだろう。
「……うん、分かってたさ! だって俺は『配信王』だもの! こういう能力もあるさ!」
次だ、次!
気を取り直して、次のスキルを確認する。
【配信中ステータス上昇(極大)】
配信を行っている間、自らの全ステータスが超大幅に上昇する。
「……おおおお!!!!」
来た!
こういうのを待ってたんだよ、俺は!
「やればできるやんけ!」
これなら戦闘面でも、配信面でも絶大な効果を発揮できる。
配信しているだけで全ステータスが大幅に上昇するなら、俺の戦闘能力はこれまでとは比較にならないほど高くなるはずだ。
「いやぁ……これぞ超級職だな」
俄然、テンションが上がってきた。
そして次。
【ドローン精製】
自らの魔力を使用して、配信用ドローンを精製することが可能になる。
ドローンの性能は使用者の魔力量に比例する。
「おお……」
これは配信者としてかなり嬉しい。
そして、もう一つ。
【真・配信術】
配信用の機器を使用せず、自らの視界を利用して配信することが可能となる。
なお、『ドローン精製』によって作成したドローンに限り、配信映像の切り替えが可能。
「ふええ……」
この二つは、配信者としてはもはや神の領域に達したと言ってもいいんじゃないだろうか。
『ドローン精製』があれば、もう高価なドローンを購入する必要もない。
破損や紛失の心配もなくなる。
現在は『神式配信セット』なる最高級配信機器を使用しているので少々もったいない気もするが、将来的には間違いなくこのスキルに頼ることになるだろう。
そして『真・配信術』に至っては、もはや原理が分からない。
自分の視界を通じて、そのまま配信が可能になるとか……。
まさに、人間配信マシン。
略して『配信王』ってことか!
……いや、略せてないな。
駄目だ。
神スキルがてんこ盛りで、テンションがおかしくなってきている。
一度、深呼吸して落ち着こう。
すぅ……はぁ……。
よし。
落ち着いた。
ここまでのスキルには文句のつけようがない。
戦闘面でも、配信面でも、間違いなく大幅なパワーアップだ。
しかし――問題は残りの三つ。
画面には、いまだに『????』と表示されている。
「これ……何なんだろうな?」
恐らく、何らかの条件を満たすことで解放されるスキルなのだろう。
問題は、その解放条件だ。
レベルなのか。
配信時間なのか。
あるいは、何か別の条件があるのか。
これは、かすみさんやアイリーンさんに聞いてみてもいいかもしれない。
まあ、とりあえず現時点で確認できる『配信王』の能力は一通り把握できた。
謎の三つが残っているとはいえ、それを差し引いても十分すぎるほどの強化だ。
大満足と言っていいだろう。
俺は端末に表示された内容を、アイリーンさんたちにも説明した。
「へえ、凄いじゃないですか! これでハヤトさんの配信も、さらにパワーアップしますね!」
「『配信王』なんかになって、一時はどうなることかと思ったけど……そこまで悪くはないじゃない。ちょっと安心したわ」
二人からも概ね好評だった。
よし。
これで『配信王』の検証は一旦終了。
次は、『星崩の大魔宮』で獲得した報酬の確認に移ろう。
……と、そこでふと思った。
そういえば、俺はアイリーンさんのジョブを知らない。
超級職なのは間違いない。
それなのに、今まで一度も聞いたことがなかった。
別に知らなくても困ることはなかったし、今まで確認する必要もなかった。
でも、気になってしまったものは仕方がない。
ちょうどいい機会だ。
「あの、アイリーンさん。一つ聞いていいですか?」
「はい? 何でしょうか?」
「アイリーンさんのジョブって……何なのか聞いてもいいですか?」
「…………」
俺の問いかけに対して、アイリーンさんは笑顔のまま沈黙した。
……しまった。
ひょっとして、これ地雷だったか?
そんなことを考えていると――
「うーん、全然教えてもいいんですけどね……そうだ! ハヤトさんは、私のジョブは何だと思います?」
「え!? 俺が当てるんですか?」
「はい! その方が面白いと思って!」
まさかのクイズ方式。
えーと……。
俺が抱いているアイリーンさんのイメージから考えると……。
『爆殺王』とか『焼死王』とか……。
「……何か凄いひどいこと考えてません?」
「い、いやいやいやいや! そんなことないですよ!」
危ない。
もう少しで心を読まれるところだった。
この方向は危険だ。
もっと真面目に考えよう。
「……えーと、『紅蓮の魔女』だから……『紅蓮王』とかですかね?」
「うーん、違いますね」
「違うかぁ……」
参った。
となると、本当に分からない。
しばらく頭を捻ってみるものの、これといった答えは浮かんでこない。
「やっぱり難しかったですかね?」
そんな俺の様子を見かねたのか、アイリーンさんは少し困ったように笑った。
「すいません……正直、分からないです」
「『大賢者』……」
「え?」
「だから、私のジョブは『大賢者』です! ハヤトさんがお手上げみたいなので、もう答えを言っちゃいました!」
「…………大賢者?」
アイリーンさんの口から告げられたそのジョブ名は、俺の予想を遥かに超えていた。
……え?
大賢者?
あの『紅蓮の魔女』が?
目の前で眠そうにしているこの人が?
俺は思わず、アイリーンさんの姿をまじまじと見つめてしまった。
????に関しては、また追々と情報を出していきますね。
次回はアイリーンの『大賢者』について!
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