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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
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第11話 暴風と轟雷

 『村雲ミズキ』――


 日本国内に存在する冒険者の中でも、彼女ほど異質な存在はそう多くない。


 戦闘能力だけを見れば、Sランク冒険者にも匹敵すると評されるほどの実力者。


 しかし、彼女自身の人間性。


 そして、彼女が率いる『闇鍋騎士団』の素行や世間からの評判。


 それらが大きなマイナスポイントとなっているため、現在の彼女は――


 極めてSランクに近いAランク冒険者。


 それが『村雲ミズキ』という冒険者に対する、世間一般の評価だった。


 もっとも、冒険者ギルドとダンジョン統括省の内部には、一般には知られていないSランク昇格の条件がもう一つ存在している。


 そしてミズキは、未だその条件を満たしていない。


 とはいえ、それを差し引いたとしても、彼女に対する世間の評価が芳しくないことに変わりはない。


 何しろ、本人に悪意がないのが、余計に性質が悪い。


 彼女の行動が原因となって発生したトラブルや事故は数知れず。


 その度に『闇鍋騎士団』が炎上し、いつしか世間からは『迷惑系クラン』などと呼ばれるようになってしまった。


 戦闘中、周囲への被害を一切考えずに暴れ回る『紅蓮の魔女』ことアイリーン・スカーレット。


 彼女もまた、無自覚に周囲を焼き尽くしてしまうことがある。


 だが、そのアイリーンですら、ミズキと比べれば常識人に見えてしまう。


 それほどまでに、村雲ミズキという少女は非常識な冒険者として、その名を知られていた。


 そんな彼女が、『黄牙団』によるダンジョン統括省本部襲撃の際に何をしていたのか。


 答えは、ダンジョン攻略である。


 ただし、攻略そのものが目的だったわけではない。


 目的は、最近手に入れた新しい剣の試し斬り。


 その剣こそ、Sランク神器、『惨殺剣・礫死』。


 特殊能力こそ持ち合わせていないものの、純粋な攻撃力だけならば並の剣とは比較にならない。


 ただ斬るだけでどんな敵をも両断するほどの威力を誇る、まさに必殺剣だった。


 ミズキは、とあるAランクダンジョンへ潜ると――目についたモンスターを、斬って斬って斬りまくっていた。


 もちろん、一人ではなく配信担当のメイを引き連れ、『ダンジョンのモンスター相手に新兵器の試し斬りをしてみた』などという、いかにも彼女らしいタイトルで生配信まで行っていた。


 何の脈絡もなくモンスターを斬り続けるだけ。


 そんな悪趣味極まりない配信内容だったため、当然ながら『ミズキ親衛隊』以外の視聴者からは大不評。


 それでも当の本人は、鼻歌交じりに楽しそうに配信を続けていた。


 ――しかし、三十分も斬り続ければ、さすがのミズキも飽きてくる。


 そろそろ終わりにしようか、そう考え始めた、その時だった。


 ダンジョン統括省から緊急の連絡が入った。


 内容は――『黄牙団』によるダンジョン統括省本部への襲撃。


 それを聞いた瞬間、ミズキの目が輝いた。


 「絶対にこっちの方が面白そう! 急ぐよメイ! 『スチーム・イカロス』発動!」


 緊急事態を聞いて最初に出てきた感想が、それだった。


 念のため、クランメンバーには先に現場へ向かうよう連絡。


 そしてミズキ自身は、転移の巻物を使ってダンジョンを脱出する。


 転移によってダンジョン入口へ戻った瞬間――背中に機械仕掛けの翼が展開された。


 「えーと……私はどうしたら良いんですか?」


 「もう全速力で現場に向かって! 遅れちゃダメだからね!」


 「いや、私は飛べない……」


 「とにかく私は先に行ってるから! メイも時間厳守でよろしく! はぁっ!」


 「ええええ……」


 メイの抗議など一切聞かない。


 次の瞬間には、轟音と共に凄まじい勢いで空気を切り裂きながら、ミズキの身体が空へと飛び出した。


 まるでジェット機並みの速度だった。


 「…………」


 その場に取り残されたメイは、遠ざかっていくクランオーナーの背中を見つめる。


 相変わらず、自分の意見を全く聞いてくれない。


 そして、自分を置き去りにして飛んでいった本人から、なぜか『時間厳守』を要求されている。


 「……もう、何なんですかぁ……」


 絶望の溜息を吐きながら、メイは必死に後を追うのだった。


 彼女がようやくミズキに追いつくのは、もう少し後の話である。


 ◆


 そして現在、ダンジョン統括省本部前。


 二つの異なる力が、凄まじい勢いで激突していた。


 村雲ミズキと劉愛蕾。


 二人の戦いは、既に佳境へと突入していた。


 ミズキは本気を出し始め、荒れ狂う風を全身に纏っている。


 対する劉愛蕾もまた、先程までとは比較にならないほどの轟雷を全身から迸らせていた。


 「『スチーム・イカロス』発動!」


 ミズキの背後に、再び機械仕掛けの翼が展開される。


 かなりの至近距離でも、彼女は迷わない。


 『スチーム・イカロス』の推進力を最大限に利用し、攻撃そのものの威力を極限まで引き上げるつもりなのだ。


 「もう、どうなっても知らないからなぁ! ……『応龍』!」


 対する劉愛蕾も、新たな力を解放した。


 その名は――『応龍』


 最高位神器(グランドレガリア)『霊獣輪・天之四瑞』が有する四つの能力。


 その最後の一つを発動した瞬間、劉愛蕾の全身から黄金色の光が噴き上がった。


 ――否、それは光ではなく、あまりにも膨大な雷撃だった。


 無尽蔵に放出される黄金の雷光が、あまりの密度ゆえに光そのものへと見えているのだ。


 その姿は、まさしく――


 『黄雷の戦妃』


 その二つ名に相応しい、圧倒的な存在感だった。


 「ははっ……さすがにヤバいかもー!」


 それでもミズキは笑っていた。


 「それでも私は負けません! 皆さん、応援してくださいねー!」


 そう叫ぶと、ミズキは自らの剣へ纏わせていた風を一気に収束させ始める。


 ミズキのジョブは、超級職『風刃王』


 風魔法を操る魔剣士系統、その最上位に位置するジョブだ。


 『風刃王』の力によって、自らの剣に風の力を付与し、その威力を何倍にも増幅することができる。


 暴風を剣へと集約することが出来る『風刃王』の能力によって、それをさらに増幅し、『スチーム・イカロス』による超高速の突進力を乗せる。


 それこそが、村雲ミズキが持つ最大必殺だった。


 〈おい……ミズキたんの本気だぞ……〉


 〈ああ、あれを見るのは久しぶりだな〉


 〈でも、あの攻撃って周囲への被害がヤバかったよな?〉


 〈俺もそう思う。あんな場所でぶっ放したら……〉


 〈うん。ヤバい。間違いなくヤバい〉


 配信を見守る『ミズキ親衛隊』の面々も、ようやく事態の危険性に気付き始めていた。


 もはや二人の力は、単なる冒険者同士の戦闘という領域を超え、災害と表現しても、決して大袈裟ではない規模にまで拡大している。


 「お嬢様! さすがにあれは危険です!」


 「わかってますわ! あんな馬鹿みたいなパワーが、こんな場所で衝突したら……最悪、全てが吹き飛びます!」


 そこへ、先程『黄牙団』の二人を制圧したセイラと清十郎が駆け戻ってきた。


 だが、二人の目に映った光景は、想像以上に危険なものだった。


 このまま二人を衝突させれば、ダンジョン統括省本部そのものが無事では済まない。


 最悪の場合――この周辺一帯が消し飛ぶ。


 「もうこうなったら……ダメ元で『最終階層(ジュデッカ)』を使って、全て凍らせるしか……」


 「お嬢様! しかし、それでは――!」


 「清十郎!」


 セイラは即座に言葉を遮った。


 「もう、それしか手段はありませんわ! 腹を括りなさい!」


 そして、自らの最高位神器(グランドレガリア)『極天衣・アークセラフィエル』を発動させる。


 「『氷結地獄(コキュートス)・最終階層(ジュデッカ)』!」


 刹那、セイラの背中から黄金の翼が展開され、それと同時にミズキが動いた。


 「はぁああアアアアアッ!」


 『スチーム・イカロス』が唸りを上げると、機械仕掛けの翼から凄まじい推進力が生まれ、その身体が一瞬で最高速度へと到達する。


 「『テンペスト・ブレイク』ッ!!!」


 それは、村雲ミズキが持つ最大必殺。


 自らが持つ全ての能力を一つに集約した、最強の一撃だった。


 対する劉愛蕾も笑う。


 「はっはぁ! 面白いじゃないかぁ!」


 全身から放たれる雷光が、さらに激しさを増していく。


 「――『轟雷牙』ァアアアアアア!!!」


 『応龍』


 それは自らの属性――雷を最大限に増幅し、放出する攻撃特化の能力。


 その効果によって生み出された無尽蔵の雷撃を全身に纏い、そのまま敵へ叩き込む。


 雷属性において比類なき破壊力を誇る、劉愛蕾の必殺技。


 『風刃王』と『轟雷王』


 二人の最大必殺が、真正面から激突する――その瞬間だった。


 「間に合いなさいなぁああああ!」


 そこへ、セイラが飛び込んだ。


 全身から青白い凍気を放出し、黄金の翼を羽ばたかせながら、二人の間へと突入する。


 その意図は明白だった。


 ミズキと劉愛蕾。


 二人ともまとめて凍結させる。


 『テンペスト・ブレイク』と『轟雷牙』


 そして――『最終階層(ジュデッカ)』


 三つの異なる力が、たった一点へ集中する。


 暴風、轟雷、絶対零度の凍気。


 それぞれが互いを喰らい合うように膨張し、周囲の空間そのものを震わせていく。


 目も眩むほどの雷光。


 全てを吹き飛ばす暴風。


 そして、触れたもの全てを凍てつかせる青白い光。


 そこに広がっていたのは、まるで、この世の終わりそのものだった。


 誰もが動けず、誰もが息を呑む。


 そして――この場にいる全員が、自らの死を覚悟した。


 ――その時だった。


 『……さすがに、やり過ぎですね。そろそろ、終幕にしましょう……』


 静かな声が響いた。


 誰も聞いたことのない声。


 男なのか、女なのか。


 それすら判然としない。


 ただ、静かで、荘厳で。


 それでいて、異様なほどの重圧を孕んだ声だった。


 「……!?」


 「な、何……?」


 「誰だ……?」


 その場にいた全員が、一斉に周囲を見回す。


 しかし、誰も、その声の主を見つけることができない。


 何が起きているのか。


 誰一人として理解できなかった。


 ただ一つ、全員が同時に気付いたものがあった。


 ――巨大な魔法陣。


 いつの間にか、この戦場を取り囲むように無数の魔法陣が出現していた。


 そして、その中心から。


 紫色の光が放たれる。


 それは瞬く間に広がり、暴風も、轟雷も、凍気も飲み込むように周囲一帯を包み込んでいく。


 まるで、これまでの戦いそのものを、全て無かったことにするかのように。


 誰もが、その光景を呆然と見つめていた。


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