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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
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第2話 『黄牙団』の恐怖

新年あけましておめでとうございます!

昨年はたくさんの応援、ブクマ、評価、感想ありがとうございました!


今年も皆様に楽しい小説をお届けできる様に精進させて頂きますので、お手柔らかによろしくお願いします!

 「ふん、一先ず陽動は成功と言ったところか……」


 上空から地上を見下ろしながら、男は小さく呟いた。


 彼の名は、呉 凌峰。


 Sランククラン『黄牙団』に所属するAランク冒険者であり、クラン内序列は第三位。クランオーナーである劉愛蕾の側近として、その左腕とも呼ばれている男だ。


 現在、彼は自らの神器――『天凱翼』を装備し、数十メートル上空を悠々と飛翔していた。


 背中に展開された巨大な翼が風を捉え、彼の身体を空中に留めている。


 その手には大型のライフル銃。


 銃口は眼下に集まった冒険者たちへ向けられているが、今のところ引き金を引く必要はなさそうだった。


 「あーあ、あいつらも終わりだな。劉様の相手をさせられるとは可哀想に……」


 呉李静は、どこか同情するような声を漏らした。


 視線の先では、劉愛蕾がゆっくりと冒険者たちへ歩み寄っている。


 その姿を見ただけで、相手側の冒険者たちが明らかに動揺しているのがわかる。


 「あー……一、二……大体十人くらいか。三分も持たないだろうな」


 念のためライフルの照準を中央の男へ合わせる。


 薙刀を構えているところを見る限り、あの男が集団の中では最も実力が高いのだろう。


 だが、呉李静にとっては、それすら大した問題には思えなかった。


 劉愛蕾が本気になれば、あの程度の人数など相手にならない。


 これから眼下で繰り広げられるのは、戦闘というより一方的な蹂躙になる。


 そう確信していた。


 ◇


 その怪物と真正面から対峙している金剛寺は、全身から冷たい汗を流していた。


 (対峙して、ようやくわかった……)


 目の前に立つ女を見据えながら、金剛寺は奥歯を噛み締める。


 (こいつ……噂以上の化け物だ)


 これまで幾度となく死線を潜り抜けてきた。


 自分自身もAランクまで上り詰めた冒険者だ。


 多少の強敵を前にしたところで、簡単に動揺するような経験しか積んでいないわけではない。


 だが、目の前にいる劉愛蕾から感じる威圧感は、これまで知っているどんな強者とも比較にならなかった。


 肌が警告している。


 戦えば死ぬ。


 しかも、自分だけではない。


 ここにいる仲間全員が、まともに戦うことすらできずに倒される。


 (間違いなく全員殺される……しかも、一方的にだ)


 これまで積み重ねてきた経験が、そう告げていた。


 象と蟻。


 そんな言葉ですら生ぬるい。


 目の前の存在とは、それほどまでに隔絶した力の差がある。


 それでも、この場で最も実力のある人間として、仲間を守る責任がある。


 金剛寺は乾ききった喉から、必死に声を絞り出した。


 「と、止まれ! お前たち、一体……どういうつもりなんだ!?」


 声が震えている。


 自分でも情けないと思うほどだった。


 だが、今できることは限られている。


 少しでも会話を引き延ばす。


 その間に状況を把握し、仲間たちを生き残らせる方法を探す。


 それしかなかった。


 「ふうん? 見たところ、あんたがここのリーダーかい?」


 劉愛蕾が興味深そうに問い掛ける。


 「……ああ、そうだが」


 金剛寺は慎重に答えた。


 一言間違えれば、その瞬間に命を奪われる。


 そんな恐怖が常に付きまとっているせいで、精神がじわじわと削られていく。


 そんな金剛寺の様子を見て、劉愛蕾は意外そうに眉を上げた。


 「まあ、そんなに恐縮しなくてもいいさ。そっちが先に手でも出してこない限り、こっちは何もしないからさ……今のところはね」


 意外にも穏やかな口調だった。


 何人かの冒険者が、わずかに安堵した表情を浮かべる。


 しかし、金剛寺だけは違った。


 (何もしない……だと?)


 そもそも、先程この女は正門を吹き飛ばしたばかりだ。


 それで「何もしない」と言われても、到底信用できるものではない。


 (こいつ……やっぱり普通じゃない)


 しかも、最後に付け加えた言葉。


 『今のところは』


 それが何を意味するのか。


 何を企んでいるのか。


 金剛寺にはまるで理解できなかった。


 よく考えてみれば、『黄牙団』の行動には不自然な点が多すぎる。


 わざわざ地面を爆破して冒険者たちを正門へ誘導し、そのうえで正門そのものを破壊した。


 単なる侵入が目的なら、もっと効率のいい方法はいくらでもある。


 「んー? どうしたんだい? 完全に固まっちゃってるねぇ」


 劉愛蕾がニヤニヤと笑いながら近づいてくる。


 「目の前に侵入者がいるんだよ? それでいいのかーい? ほれほれ、どうした?」


 「くっ……!」


 (誰のせいでこんな状態になってると思ってやがる……!)


 怒りが込み上げる。


 だが、そんな感情に流されている場合ではない。


 金剛寺は必死に思考を巡らせる。


 こいつらの目的は何だ?


 何故、わざわざ自分たちをここへ集めた?


 劉愛蕾の目的は?


 上空にいる男は何のために攻撃を繰り返している?


 そこまで考えたところで、ふと違和感が形になった。


 (……待て)


 金剛寺の視線が、上空へ向けられる。


 (上空のあいつと、目の前の劉愛蕾……たった二人でここまで来たわけじゃないだろ)


 『黄牙団』は世界有数の武闘派クランだ。


 劉愛蕾一人だけならともかく、これほど大規模な襲撃を二人だけで行う理由などない。


 ならば、他のメンバーはどこにいる?


 その答えに辿り着いた瞬間、金剛寺の血の気が引いた。


 (まさか……)


 最悪の可能性が脳裏を過る。


 (俺たちをここへおびき寄せるための……陽動か!)


 「全員、すぐに戻るんだ! 本部が……危ない!」


 金剛寺が叫ぶ。


 もしこれが陽動なら、他の『黄牙団』のメンバーはすでに別の場所へ向かっているはずだ。


 今回、ダンジョン統括省が集めた冒険者は、ほぼ全員が正門へ駆け付けている。


 つまり、本部は現在ほとんど無防備。


 そこを襲われれば、致命的な被害が出る。


 金剛寺は即座に踵を返した。


 だが――


 「『麒麟』……」


 その声が聞こえた瞬間、金剛寺は足を止めた。


 振り返る。


 さっきまで目の前にいたはずの劉愛蕾が、いつの間にか背後に立っていた。


 「なっ……!?」


 音もない。


 気配すら感じなかった。


 何らかのスキルを使ったことだけは理解できるが、移動の過程がまるで見えない。


 「いやぁ、あんたらさぁ。せっかく来たんだし、もうちょっとゆっくりしていきなよ」


 「瞬間移動……だと!?」


 「いや、瞬間移動じゃないんだけどね。まあ、似たようなもんかな?」


 劉愛蕾は楽しそうに笑っている。


 能力の正体はわからない。


 ただ一つだけ確かなことがある。


 退路は完全に断たれた。


 (最悪だ……)


 このままでは本部が危ない。


 今すぐ戻らなければならない。


 だが、そのためには目の前の女をどうにかしなければならない。


 勝てるのか?


 答えは決まっている。


 勝てない。


 それでも、他に方法がない。


 そんな金剛寺たちの表情を見て、劉愛蕾が何かを思いついたように手を叩いた。


 「ふうん……そうだねぇ。そんなに縮こまられちゃ面白くないしね」


 そして、口元を吊り上げる。


 「そうだ! こうしよう!」


 嫌な予感しかしない。


 「アンタらの中で一番強い奴の攻撃を、一撃だけハンデとして喰らってやるよ!」


 「……は?」


 あまりにも突拍子のない提案に、金剛寺は思考が止まった。


 目の前の女は、本気で言っている。


 (……狂ってやがる)


 Sランク冒険者。


 世界でも数えるほどしか存在しない、人類最高峰の戦闘能力を持つ者たち。


 だが、こいつらは強いだけではない。


 どこか感覚そのものが常人とは違っている。


 そんな相手から与えられた、一撃だけの攻撃機会。


 金剛寺の手に力が入った。


 (……ひょっとして、千載一遇のチャンスなんじゃないか?)


 金剛寺のジョブは【金剛戦士】。


 一撃の破壊力に特化した上級職だ。


 しかもレベルはカンストしている。


 純粋な一撃の威力だけなら、Sランク冒険者にも通用する。


 そう信じてきた。


 ならば、これに賭けるしかない。


 「その申し出……有難くもらっておく!」


 金剛寺は薙刀を構える。


 「だが、後悔するなよぉ! 唸れ……『ヴァジュラ』ァ!!」


 瞬間、薙刀が黄金の輝きを放った。


 Aランク神器――『金剛刃・ヴァジュラ』。


 その能力は、所持者のHPを攻撃力へ変換すること。


 金剛寺は自らのHPを残り一まで削り、その全てを神器へと注ぎ込んだ。


 結果、『金剛刃・ヴァジュラ』の攻撃力は通常時のおよそ五倍へと跳ね上がる。


 「まだまだぁ! 『金剛力』発動!」


 続けて【金剛戦士】固有スキル『金剛力』を発動。


 次に放つ攻撃の威力を倍加させるスキルだ。


 五倍になった攻撃力が、さらに二倍。


 合計十倍。


 単純な攻撃力だけなら、Sランクダンジョンのボスすら一撃で倒せる可能性がある。


 これが金剛寺に残された、最大最強の一撃だった。


 (どうせ、ここで失敗すれば死ぬだけだ)


 現在のHPは一。


 かすり傷を受けただけでも命を落とす。


 ここはダンジョンではない。


 セーブポイントも存在しない。


 死ねば復活できない。


 それでも――ではなく、だからこそ。


 「やるしかないんだよぉぉぉ!!」


 金剛寺は雄叫びを上げ、全力で踏み込んだ。


 黄金の光を纏った『ヴァジュラ』が、劉愛蕾へ向かって振り下ろされる。


 「へえ……これはなかなかだねぇ」


 「言ってろ……死ねぇぇぇ!!」


 大地が震えた。


 凄まじい衝撃が周囲へと広がり、劉愛蕾の足元の地面が爆ぜる。


 土煙が一気に舞い上がり、視界を覆い尽くした。


 金剛寺は荒い息を吐きながら、その光景を見つめる。


 「……やったか?」


 手応えはあった。


 間違いなく、渾身の一撃を叩き込んだ。


 これなら――


 「うーん、筋は悪くないんだけどねぇ」


 土煙の向こうから、声が聞こえた。


 「……な」


 金剛寺の顔から血の気が引く。


 煙が晴れていく。


 そこに立っていたのは、劉愛蕾だった。


 無傷。


 傷一つない。


 服にすら乱れがない。


 「そんな……馬鹿な……」


 金剛寺の手から力が抜ける。


 「俺の……全力の一撃でも……無傷だと?」


 理解できない。


 力の差があることは最初からわかっていた。


 だが、自分が最も得意とする一撃の威力ですら、傷一つ付けられない。


 ここまでの差があるとは思っていなかった。


 「くそ……ゲームセットかよ……」


 完全に心が折れた。


 そんな金剛寺を見て、劉愛蕾は肩をすくめる。


 「まあ、これでお終いだねぇ。あたしが強すぎるだけだから、そんなに気を落とさなくてもいいさ」


 そして、にっこりと笑った。


 「来世では、もっと努力しなよ」


 冒険者たちには、もう戦う気力すら残っていない。


 劉愛蕾はゆっくりと彼らへ歩み寄っていく。


 その瞬間だった。


 「そこまでですわ!」


 凛とした声が周囲へ響き渡った。


 劉愛蕾の足が止まる。


 声のした方向へ視線を向ける。


 先程、吹き飛ばされた正門。


 その瓦礫の向こう側に、一人の女性が立っていた。


 その姿を確認した瞬間、劉愛蕾の口元がゆっくりと吊り上がる。


 「へえ……あんたは確か……」


 女性は堂々と歩み出る。


 その表情には、一切の怯えがない。


 「度重なる狼藉……この青羅・バーンシュタインが許しませんわよ!」


 『蒼氷の聖女』――青羅・バーンシュタイン。


 ダンジョン統括省の要請を受けたSランク冒険者が、窮地に陥った冒険者たちを救うため、ついに戦場へ姿を現した。

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