第42話 『星崩の大魔宮』 エピローグ②
私生活のバタバタと、単純な難産で遅くなってしまいました。
これで第一章のラストとなります!
「世界……ダンジョンへの……怒り、ですか?」
藤堂さんの口から飛び出した言葉は、俺が想像していたものとはあまりにもかけ離れていた。
その意味を理解しようとするより先に、心臓が大きく跳ねる。
――怒り。
あのアイリーンさんが?
いつも穏やかに微笑み、誰に対しても優しく接している彼女が、世界やダンジョンに対して『怒り』を抱いている。
その事実が、どうしても頭の中で結び付かなかった。
「そ、それは一体、どういう意味なんでしょうか?」
動揺と緊張で、口の中がからからに乾いている。
それでも何とか言葉を絞り出すと、藤堂さんは少し困ったような表情を浮かべた。
「あ……そうね」
ほんの少しだけ視線を落とした後、申し訳なさそうに続ける。
「これ以上、私の口から話すのは……あの子に対して義理が立たないわね。ごめんなさい、ここから先は本人から直接聞いてもらえるかしら?」
「本人から……」
「ええ。でもまあ……」
「でも……何ですか?」
藤堂さんは一瞬だけ言葉を選ぶように考え込むと、苦笑を浮かべた。
「まだそこまでは、絶対に教えてくれないでしょうけどね」
ぴしゃりと言い切られてしまった。
……やっぱり、そうなのか。
先ほどまで感じていた、アイリーンさんとの距離が少し縮まったような感覚。
その距離が、今の一言で一気に遠ざかってしまったような気がした。
そんな俺の表情を見て取ったのか、藤堂さんは小さく笑う。
「あら? 私は今、『まだそこまでは』って言ったのよ?」
「……え?」
「だから、あの子のことを本当に知りたいと思うのなら、決して諦めないことね」
その言葉と共に、藤堂さんの瞳が少しだけ真剣なものになる。
「そうすれば、いつか必ずあの子の気持ちがわかる日が来るでしょうよ……少なくとも、あの子があなたのことを気に入っているのは間違いないんだから」
「……え?」
アイリーンさんが……俺のことを?
気に入っている?
意気消沈していた俺に対する、藤堂さんなりのフォローなのかもしれない。
それでも、その言葉は思っていた以上に俺の心を軽くしてくれた。
胸の奥に沈んでいたものが、ほんの少しだけ浮かび上がる。
……決して、諦めないこと。
その言葉を、心の中でもう一度繰り返す。
俺は配信者として、アイリーンさんの相棒になった。
これまで数々のダンジョンを共に攻略し、命を預け合うような戦いも経験してきた。
それでも、俺は、アイリーンさんのことを何も知らない。
彼女が世界に対して、ダンジョンに対して、どんな思いを抱いているのか。
どうして冒険者になったのか。
どうして、そこまで強くなったのか。
その答えを、俺はまだ何一つ知らない。
だからこそ、もし、彼女が抱えているものをいつか受け止めたいと思うのなら――
俺自身が、もっと強くならなければならない。
今の俺では、まだ足りない。
そう思った、その時だった。
――プルルルル。
応接室に設置されていた内線電話が突然鳴り響いた。
藤堂さんが受話器を取る。
「はい、藤堂です……ええ、わかったわ」
短いやり取りを終え、受話器を置く。
「お迎えの車が来たみたいね」
「そうですか」
「それじゃあ、お話はここまでにしましょうか」
藤堂さんは席を立ちながら、俺へと柔らかな笑みを向ける。
「ハヤト君」
「はい?」
「あの子のこと、これからもよろしく頼むわね?」
「……はい」
今度は迷うことなく答えた。
「わかりました。藤堂さんから色々なお話を聞けて、本当に良かったです」
「ええ、こちらこそ」
そう言ってから、藤堂さんはふと思い出したように人差し指を立てる。
「そうだ。今度からは『藤堂さん』じゃなくて、『かすみさん』って呼んでくれていいからね?」
「はい!」
……ん?
「……って、ええ!?」
思わず声が裏返った。
「か、かすみさん……ですか!?」
「そうよ」
藤堂さん――いや、かすみさんは楽しそうに笑う。
「何だか『藤堂さん』って、他人行儀な感じがして好きじゃないのよね」
「い、いや……でも……」
こんな偉い人を、いきなり『かすみさん』なんて呼んで本当にいいのか?
頭の中で盛大に混乱する俺をよそに、彼女はにこやかに手を振った。
「じゃあ、これからよろしくね」
「は、はい……」
こうして俺は、とんでもなく偉い人を『かすみさん』と呼ぶことになってしまった。
……大丈夫なのか、これ。
そんなことを考えながら案内された先には、既に迎えの車が到着していた。
そして、その車内には――
「アイリーンさん! 先に乗ってたんですね」
「ええ、お先に失礼しています」
既にアイリーンさんが乗り込んでいた。
いつもと変わらない、柔らかな笑顔。
その姿を見た瞬間、先ほどかすみさんから聞いた『怒り』という言葉が頭をよぎる。
目の前にいる彼女と、世界やダンジョンに対して怒りを抱く彼女。
どうしても結び付かない。
……かすみさんから聞いた話を、もう少し詳しく聞ければ。
そんな思いが頭をよぎった。
けれど、今の俺には、それを本人へ切り込む勇気がなかった。
「……いつか」
いつか、そんな話も普通にできるようになれればいい。
そう思いながら、俺も車へと乗り込んだ。
そして、しばらく車に揺られていると、宿泊先のホテルへと到着した。
「……うん、めちゃくちゃ豪華ですやん……」
目の前にそびえ立つホテルは、俺がこれまで縁もゆかりもなかったような超高級ホテルだった。
建物そのものが別世界。
ロビーに足を踏み入れただけで、場違いな場所へ来てしまったような気分になる。
「これは……すごいホテルですね……」
「そうですか?」
隣のアイリーンさんは、さほど驚いた様子もない。
「ダンジョン統括省関連の泊まりの依頼の時は、大体こんな感じのホテルですけどね」
「そ……そうなんですね」
……俺、今までどんな生活してたんだろう。
「それじゃあ、今日はこれで。明日、またよろしくお願いしますね」
「は、はい! おやすみなさい!」
「はい、おやすみなさい」
夜もかなり遅い。
ホテルへ到着すると、俺たちはそのまま解散することになった。
本当なら、もう少しアイリーンさんと話したかった。
けれど、今日聞いた話について踏み込む勇気は、最後まで持てなかった。
結果として、どこか不完全燃焼のまま別れることになってしまった。
その後、案内された自分の部屋へ入る。
「……はあ」
思わずため息が漏れた。
部屋もまた、とんでもなく豪華だった。
広々とした室内に高級そうな家具。
そして、俺が今まで一度も見たことのないような巨大なベッド。
「はあ……すごいなぁ」
その豪華さに圧倒される。
普通なら、テンションが上がって仕方がないはずなのに――
なぜか、そんな気分にはなれなかった。
原因は、わかっている。
「……もう、寝るしかないよな」
モヤモヤしたものを抱えたまま、ベッドへ倒れ込む。
――ふわっ。
「……おお」
今まで経験したことがないほどの柔らかさ。
身体全体が包み込まれるような感覚に、さすが高級ホテルだと感心してしまう。
これなら、すぐに眠れそうだ。
今日は死ぬほど疲れた。
だから――
「……寝よう」
目を閉じる。
…………
…………
…………
「………………寝れるわけがねええ!!!」
無理だった。
全然眠れない。
身体はとてつもなく疲れているはずなのに、頭だけは妙に冴えている。
目を閉じるたびに、今日聞いた言葉が蘇ってくる。
――ダンジョンへの怒り。
――アイリーンさんの過去。
――そして、彼女が抱えている何か。
考えれば考えるほど、思考が堂々巡りを始める。
「……はあ」
しばらく天井を見つめた後、俺は身体を起こした。
「せっかくだし、散策でもするか」
眠れないなら、眠れないで仕方がない。
せっかくこんな豪華なホテルに泊まっているんだ。
少しくらい探検してみても罰は当たらないだろう。
もう夜も遅いが、これだけ大きなホテルだ。
ウロウロしていれば、少しくらい気分転換になるかもしれない。
◇
そうしてホテル内を右往左往した結果――
俺が最後に辿り着いたのは、ホテルの高層階に設けられたバルコニーだった。
「へえ……こんなところがあるんだなぁ」
そこから見える景色は、まさに絶景だった。
眼下に広がる街並み。
無数に輝く街灯。
遠くまで続く建物の明かり。
昼間とは全く違う顔を見せる街の姿に、思わず見入ってしまう。
手摺に肘を置き、夜風を身体に受ける。
ひんやりとした風が頬を撫でていく。
「……気持ちいいな」
しばらく何も考えず、街の景色を眺めていた。
――その時、背後から、足音が聞こえた。
コツ、コツ、とゆっくり近づいてくる。
そして――
「あれ? ハヤトさんじゃないですか。こんなところでどうしたんですか?」
「えええ?」
その声を聞いた瞬間、心臓が跳ね上がった。
振り返るとそこに立っていたのは――
「アイリーンさん……?」
今、もっとも聞きたかった声の主だった。
「ああ、やっぱりここにいたんですね」
「え?」
「私、ここから見える景色が好きなので、たまに来ちゃうんですよね」
そう言って、アイリーンさんは街の景色へ視線を向ける。
「そ、そうなんですね」
「はい。確かに、ここからの景色ってすごく綺麗で癒やされますよね」
「ふふ、そうなんですよ」
アイリーンさんが小さく笑う。
「そうしたらハヤトさんがいるから、びっくりしちゃいました」
「は、はい。俺もちょっと眠れなくて……ブラブラしてたら、ここに辿り着きまして……」
戸惑いを隠せない俺を見て、アイリーンさんがくすくすと笑う。
そして――
「隣、いいですか?」
「は、はい! もちろんです!」
首を勢いよく縦に振る。
全力で肯定してしまった。
「ありがとうございます」
アイリーンさんが隣へ歩いてきて、手摺にもたれかかる。
「さっきも言いましたけど、私、ここからの景色が好きなんですよね」
そう言いながら、彼女は夜景へ視線を向ける。
その横顔を見ていると、また鼓動が少しだけ速くなる。
……やっぱり、綺麗だな。
あまりジロジロ見るのも悪い。
俺は慌てて正面へ視線を戻した。
――すると。
「……かすみさんから、私のことを何か聞いちゃいましたか?」
「ぶふっ!!?」
唐突な直球に、盛大に噴き出した。
「ゴホッ、ゴホッ!」
必死に咳き込みながら隣を見る。
アイリーンさんは、くすくすと笑っていた。
その顔には、どこかいたずらっぽい笑みが浮かんでいる。
「……どこからそれを?」
「いえいえ」
アイリーンさんは楽しそうに答える。
「かすみさんがハヤトさんを呼び出した時点で、そんな話をしてるんだろうなーって思っただけです」
……なるほど、カマを掛けられたわけだ。
そして、まんまと引っ掛かった間抜けが俺。
とはいえ、こうなってしまった以上、隠し通すのも無理だろう。
「え、ええと……確かに、少し聞いちゃいましたかねぇ……」
「そうですか」
アイリーンさんがこちらを見る。
「例えば、どんなことを?」
そう言いながら、少しだけこちらへ顔を向ける。
大きな瞳が真っ直ぐに俺を捉えた。
「いや……あの、それは……その……」
言葉が詰まる。
「例えば……私の昔話とかですか?」
「……!」
またしても心臓が跳ねた。
まるで、かすみさんとの会話を全部聞かれていたかのような鋭さだ。
俺は観念した。
ここで誤魔化すのは、たぶん違う。
「ええ……まあ、その辺りも色々と……」
「へえ……聞かれちゃいましたか」
「いや、でも具体的なことは何も!」
慌てて付け加える。
「本当にざっくりとしか聞いてませんので! ご安心を!」
すると、アイリーンさんは再びくすくすと笑った。
「ええ、わかってますよ」
「……?」
「かすみさんは、人のことを無断でベラベラと話すような人じゃありませんから」
「はい。僕もそう思います」
少しだけ安心した俺は、ふと思い出したことを口にする。
「何でも昔、一緒に暮らしていたとか聞きましたけど」
「そうなんです」
アイリーンさんは懐かしそうに夜空を見上げる。
「私が駆け出しだった頃に拾ってもらいまして、色々なことを教えてもらいました」
「へえ……」
「言うなれば――『恩人』ですね」
「恩人……」
その言葉を聞いた後、アイリーンさんは昔のことをいくつも話してくれた。
かすみさんに教えてもらったこと。
初めて一緒に冒険した時のこと。
駆け出しだった頃の失敗談。
どれも今のアイリーンさんからは想像できないような話ばかりだった。
俺は時折相槌を打ちながら、その一つ一つを聞き続けた。
やがて、どうしても我慢できなくなってしまった。
「……あの」
「はい?」
「アイリーンさんは、どうして冒険者になったんですか!?」
「……ああ」
アイリーンさんの笑顔が、ほんの少しだけ止まった。
「やっぱり、その辺りを聞いちゃいましたか」
「かすみさんからは、アイリーンさんが強くなった要因は『ダンジョンに対する怒り』だとしか聞いていません」
少しだけ言葉を選びながら続ける。
「でも……やっぱり気になっちゃって」
さっきまで楽しそうに昔話をしていたアイリーンさんの表情に、わずかな陰りが差した。
やはり、聞かれたくない話なのだろう。
俺もそれを察し、これ以上踏み込むべきではないのかもしれないと思った。
しばしの沈黙の後――
「今はまだ……詳しく話すのは勘弁してもらってもいいですか?」
「……はい」
やっぱり、そうか。
予想していた答えだった。
わかっていたはずなのに――
実際に言葉にされると、胸の奥が少しだけ痛んだ。
そんな俺の表情を見て、アイリーンさんはすぐに言葉を続ける。
「でも、ハヤトさんには……私が冒険者を続ける目的は伝えるべきだと思っています」
「目的……ですか?」
「はい」
アイリーンさんは夜景へ視線を戻した。
そして、静かに告げる。
「その目的は――『全てのダンジョンを、この世界から消滅させること』です」
「……え?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
「し、消滅……?」
「はい」
「ダンジョンを……全部?」
「はい」
あまりにも突拍子のない言葉に、頭が追い付かない。
「そんなこと……出来るんですか!?」
「できます」
アイリーンさんは、はっきりと答えた。
「全てのグランドダンジョンを踏破した際に出現する、ファイナルダンジョン」
「……」
「そこを踏破すれば――」
アイリーンさんは静かに言葉を続けた。
「この世界に存在する、全てのダンジョンが消滅するんです」
「……!」
言葉を失った。
全てのダンジョンが――消滅する?
今の世界にとって、ダンジョンは無くてはならない存在だ。
そこから採取される資源。
魔石。
特殊鉱物。
様々な素材。
それらが現代社会にどれだけの恩恵をもたらしているのか、冒険者になったばかりの俺ですら理解している。
それが――全部、消える。
「私は、それを達成するために冒険者を続けているんです」
アイリーンさんの声は穏やかだった。
だからこそ、その言葉が余計に重く感じられる。
他の冒険者は、この事実を知っているのか?
そもそも、どうしてアイリーンさんは、そんなことを知っている?
疑問が次々と頭の中へ浮かんでくる。
しかし、それを尋ねることはできなかった。
「まあ……今話せるのは、これくらいですかね」
アイリーンさんが申し訳なさそうに笑う。
「本当にごめんなさい」
そう言って、小さく頭を下げた。
「い、いえ!」
俺は慌てて首を横に振る。
「あの……話してくれてありがとうございます!」
「……え?」
「そこまででも話してくれたことが、嬉しいです!」
それは紛れもない本心だった。
もっと知りたい。
もっと教えてほしい。
そう思っている。
でも、彼女が今、話せる範囲で話してくれた。
それだけで十分だった。
「はい」
俺は苦笑しながら続ける。
「厚かましいことばかり言って申し訳ないんですけど……いつか、もっと色んなことを話してもらえたら……もっと嬉しいと思います!」
自分でも何を言っているのかわからない。
ただ、必死に自分の気持ちを伝える。
そんな俺を見て、アイリーンさんは三度、くすくすと笑い始めた。
「ええ……いつか、そんな日が来るといいですね」
そして――
「でも、ハヤトさんならいつか本当に……」
「え?」
そこまで言ったところで、アイリーンさんはいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「……いや、これを言うのはやっぱりやめておきますね」
「えええ……」
……蛇の生殺しじゃないか。
気になる。
めちゃくちゃ気になる。
でも――
「……まあ、いいか」
不思議だった。
ついさっきまで、胸の奥にずっしりと覆い被さっていたモヤモヤが、いつの間にか消えている。
全部を知ることはできなかった。
それでも、アイリーンさんは、ほんの少しだけ自分のことを話してくれた。
それだけで十分だった。
いつか、アイリーンさんと本当のことを語り合える日が来ればいい。
そのためにも、もっと強くなろう。
彼女の隣に立つことを恥ずかしく思わないくらいに。
ただ守られるだけの相棒ではなく――
堂々と肩を並べられる存在になるために。
やるべきことは、いくらでもある。
俺は新たな決意を胸に刻み、もう一度、前を向いた。
◆◆◆◆
――その頃。
『ダンジョン統括省第三支部』では、翌日に控えたグランドダンジョン踏破に関する記者会見の準備が慌ただしく進められていた。
「全く、手が掛かる……! さあ、もっとペースを上げないと明日の会見に間に合わんぞ!」
鏑木支部長が手を叩きながら、周囲の職員たちを鼓舞する。
グランドダンジョン踏破。
それだけでも大事件だ。
ましてや、今回の踏破は国内初。
当然、記者会見も大規模なものになる。
その責任者である鏑木支部長も、険しい表情を崩すことなく準備を進めていた。
――その時。
「か、鏑木支部長!」
慌てた様子の職員が駆け込んでくる。
「本部から報告です!」
「こんな時間に本部からの報告だと!?」
鏑木支部長の眉間に深い皺が刻まれる。
「……一体、何があったのだ?」
こんな夜中に本部から連絡が来る。
それだけで、ろくでもない知らせであることは容易に想像できた。
悪い出来事というものは、どうしてこうも重なるのか。
そんな思いを抱えながら、鏑木支部長は報告を促す。
「はっ!」
職員が敬礼する。
「本部からの報告によりますと――」
一瞬、言葉を詰まらせる。
「我が国に、新たなSランクダンジョンが出現しました!」
「……なっ!?」
鏑木支部長の目が大きく見開かれた。
「何だと!?」
現在、日本国内に存在するSランクダンジョンは三つ。
そして、それらは既に全て踏破されている。
さらに、その踏破によって出現したグランドダンジョンも、それぞれ攻略済みだ。
つまり、日本国内に、四つ目となるSランクダンジョンが出現したことになる。
「我が国だけ……多すぎるだろう」
鏑木支部長の脳裏に、先ほどのグランドダンジョン踏破時に流れたアナウンスが蘇る。
Sランクダンジョンとグランドダンジョン。
その総数は――おそらく十二。
もしその推測が正しいのであれば。
世界に存在する十二のSランクダンジョンのうち、四つが日本に集中していることになる。
そして、それは単なる数字の問題ではない。
「これは……他の国が黙っていないぞ」
鏑木支部長が低く呟く。
グランドダンジョン踏破によって得られる、最高位神器――『グランドレガリア』。
その存在は、世界各国にとって喉から手が出るほど欲しいものだ。
そして、その総数も十二。
仮に日本国内に四つのグランドダンジョンが存在し、それらを日本人が全て踏破したとすれば――
十二個しか存在しない最高位神器のうち、四個が日本に集中することになる。
それは、国際的なパワーバランスを大きく揺るがしかねない。
場合によっては――紛争の火種にすらなり得る。
「場所は……?」
鏑木支部長が問い詰める。
「場所は一体どこなんだ!?」
「は、はい!」
職員が答える。
「場所は……沖縄です!」
「沖縄……?」
「はい! 沖縄県の最南端です!」
「また……厄介な場所に出たものだな!」
鏑木支部長は頭を抱えた。
よりにもよって、そんな場所に。
そして、すぐさま指示を飛ばす。
「至急、アイリーンとセイラに連絡だ!」
「はっ!」
「すぐにでも現地へ向かわせろ!」
「承知しました!」
支部長室に、鏑木支部長の怒号にも似た声が響き渡る。
その瞬間、第三支部の職員たちが一斉に動き始めた。
――新たなSランクダンジョン。
それは、日本だけの問題ではない。
世界中の冒険者。
そして、各国の思惑をも巻き込むことになる。
グランドダンジョン『星崩の大魔宮』を踏破した、その翌日。
世界はまたしても、新たなダンジョンを巡る、大きな渦へと飲み込まれようとしていた。
事態は、さらに風雲急を告げていた。
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