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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第一章 誕生『神速の配信者』
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第1話 そのスキルの名は『神速』

 世の中には、数多のダンジョンが溢れている。


 大多数のダンジョンは冒険者により攻略済みとなっているが、中には未だに未攻略となっている高難度のダンジョンも存在している。


 その中の一つが、この『深淵の回廊』だ。

 

 全部で地下100階層からなるこのダンジョンは、出現するモンスターの強さや仕掛けられたトラップの難解さも合わさって、数々の冒険者を葬ってきた難攻不落のダンジョンだ。


 そして、俺は今、その『深淵の回廊』の……



 地下100階にいた。



 「……何でこうなるんだよ!?」


 俺の名前は草薙ハヤト、一応冒険者の資格は持っている。

 とはいえ、初心者中の初心者だが……


 俺は今日が記念すべきダンジョン探索初日だった。

 当然、レベルは1、ステータスも初期値で、装備も初心者用のお手軽装備だ。

 軽く1階でスライムでも倒してみようと思ってダンジョンに入ってみたのだが……


 最悪のトラップ「転移トラップ」を踏んでしまい、気付いたらここに飛ばされていた。


 もちろん、帰りの「転移トラップ」なんてものは無い。

 ダンジョンデビューの日に「転移トラップ」を踏んでダンジョン最深部まで飛ばされる奴なんて他にいないだろう。

 今日のために購入したダンジョン用の端末には現在地が表示されている。

 何回確認しても表示は地下100階だった。



 「いやぁ、どうしてこうなった?」



 ……まあジタバタしても仕方がない。

 周囲を見渡してみると、何やら青白い光を放つ魔法陣の様なものが見える。

 あれは、確か研修でも習った「セーブポイント」ってやつだな。

 ダンジョンのボス戦の直前には大体あるらしい。

 セーブポイントでセーブを行えば、何回死んでもセーブポイントで復活できるらしい。

 どんな原理でそうなっているかは、現代技術でも解明されていないらしいが。


 ……ということは、やはり今俺がいるのは『深淵の回廊』のボスの直前のフロアってことか、このまま進めばこのダンジョンのラスボスに出会えるってわけだな。


 ……行ってたまるか!


 初期装備でレベル1でラスボスに挑むとかどこのRTA走者だ。



 かといって、上の階に戻れば、深淵階層の強力なモンスターたちが待ち受けているだろう。

 もちろん、こっちも瞬殺確定ルートだ。


 幸い、セーブポイントの周囲は安全地帯で魔物は出現しないらしく、ここにいる限りは俺は安全らしい。


 ……でもこのままじゃ餓死確定だよなぁ。


 元々1階を探索してすぐ戻るつもりだったので、食料も最低限しか持ってきていない。

 助けを呼ぶにもここは地下100階。

 しかも未攻略のダンジョンのため、冒険者が助けにきてくれることはまず無いだろう。



 ……何とか助かる方法はないものか?



 しばらく考え込んでいた俺の頭に一つの案が浮かんだ。


 「……配信してみるかぁ」


 実は俺は「配信者」志望だ。

 実力でダンジョンを攻略する冒険者よりも、その様子を世間に配信して収入を得る配信者の方が性に合っていると思う。

 

 早速、アイテムボックスから配信セットを取り出す。

 まずは、配信用のドローンを飛ばす。

 このドローンで撮影した映像が世界中に配信されるってわけだ。

 最近の配信技術の進歩は凄まじく、このドローンもそこまで高価ではないが、配信を行うには十分すぎるくらいの性能を持ち合わせている。


 そして、音声配信用のヘッドセットを装着してと……


 これで準備はOKだ。

 

 幾分、緊張しながら端末を操作し配信をスタートさせる。


 ちなみにタイトルは「ダンジョンデビュー記念配信!『深淵の回廊』の地下100階へ飛ばされて絶体絶命だぜ!」にしてみた。


 「ええと……これで良いのかな?どうも、初めましてハヤトと言います。誰か聞いてますか?僕は今日晴れてダンジョンデビューをした新米冒険者なんですが、転移トラップを踏んじゃって気が付けば地下100階まで飛ばされちゃいました!」


 これが俺にとっての初配信でもある。

 少したどたどしいながらも出来る限り声を張って元気よく話せたように思う。


 最初は無反応だったが、少しずつ人が集まり始めたみたいだ。


 〈ダンジョン初日で『深淵の回廊』の地下100階って本当か?〉

 〈まさか、ネタに決まってるでしょ〉

 〈いや、でも移ってる背景は意外と本当っぽいぞ〉

 〈そんなことってあるのか?転移トラップにでも引っかかったとか?〉

 〈地下100階まで飛ばされるとか聞いたことないけど……〉


 

 

 何か物凄く疑われてるみたいだけども……


 もう少し周囲の映像を見せてみるか。

 俺はドローンを操作し、セーブポイントやラスボス戦へ向かうための大扉を映し出す。


 〈おいおい、まじっぽくないか?〉

 〈そんなことってあるんだな……〉

 〈そんな深い所、人類で初めて到達してるんじゃない?〉

 〈ていうか本当にダンジョンデビューなのか?〉

 〈実は、熟練の冒険者とか?〉


 結構信じてくれる人も出てきたが、まだ疑っている人も少なくない。

 ギャラリーたちの意見は実は俺が熟練の冒険者ではないか?っていう意見が多い。

 まあ仕方がない。

 それじゃあ最後の手段を使うか。


 「えー、僕のことを疑問に思っている方も多いと思うので、証拠をお見せしようと思います」


 俺はカメラに向けて自分の端末のステータス欄を映し出す。

 ついでに今の自分の現在地が表示されているところも配信しておいた。


 〈まじでレベル1だ……〉

 〈装備も初期装備だし〉

 〈本当に『深淵の回廊』の地下100階じゃねーか!〉

 〈うちのパーティーでも地下30階で全滅したぞ!〉


 この頃には、騒ぎを聞きつけてか、同時接続者数が千人を超えていた。

 ……ちょっと怖くなってきたな。


 「これで信じてもらえたかな?ご覧の通り、僕は初期装備でレベルも1のままの超初心者です。つまり、絶対絶命のピンチですね、どうやったら生還できるんでしょうか?」


 〈主さん、復活の玉とか持ってないの?〉

 〈転移の巻物とかも?〉

 〈まさか、そんなところで丸腰とか?〉

 〈だとしたら終わったね〉


 復活の玉は、死んでしまった時にダンジョンの入り口で復活できる、転移の巻物は即座にダンジョンから脱出できるという、両方とも冒険者の必需品として有名なアイテムである。


 「いやぁ、両方とも持ってないんですよね、配信セットを買ったらそこまで買う余裕が無くなっちゃって……」


 〈はい詰んだー〉

 〈そのどちらかを持たずにダンジョンに入るのは自殺行為だとあれだけ言われているのにね〉

 〈これはちょっと助かる術がないな〉

 〈かわいそうだけど、そこでゆっくりと餓死するしか……〉

 〈もしくは潔くラスボスに突撃するか!〉

 〈それ良いな!『深淵の回廊』のラスボス見てみたい!〉


 

 ……やっぱり俺はここで死ぬのか。

 有効な意見も全く無く、挙句の果てには玉砕まで要求される始末。


 「頼むから、どうにか生還できる手段を教えて欲しいです!こうなったら何でもやりますので!」


 無我夢中で助けを求める。

 そろそろ腹も減ってきた。

 どうにかしないとマジで死んでしまう……


 〈そうは言ってもなぁ……〉

 〈とりあえずセーブしておけば?〉

 〈セーブしておけば、ボスで死んでも復活できるだろう〉

 

 なるほど、セーブした上でダメ元でボスに挑むと……

 いやいや、無理ゲーすぎるだろう。


 〈そういえばダンジョン毎のラスボス前のセーブポイントってレアドロップ確定の宝箱とか無かった?〉


 ……何ですと?


 〈それだ!〉

 〈確かにあったはずだね〉

 〈それにワンチャン掛けるしかない!〉


 レアドロップ確定宝箱だって?

 急いでセーブポイントの周辺を探してみると……


 あった!

 青白く光る魔法陣の奥の方に、金色に光る宝箱が置いてある。


 魔法陣のせいで今まで気付かなかったよ。


 ……よし、これで状況を打開できるアイテムが手に入れば。


 一縷の望みを託して宝箱を開ける。

 ガチャリと音を立てて宝箱が開いた。


 中にあったのは一つの腕輪だった。


 「何だこれ?」


 腕輪を拾い上げてカメラの前に見せる。


 〈まさかの腕輪とは……〉

 〈これじゃあちょっと厳しいかな?〉

 〈いや、ちょっと待て、これって神器なんじゃないの?〉

 〈神器ってあの装備するとスキルを入手できるあの神器?〉

 〈ちょっと、端末の鑑定機能で鑑定してみたら?〉


 なるほど、これが神器ならひょっとして助かるかもしれない。

 わずかな可能性に掛けて、端末の鑑定機能で腕輪を鑑定する。


 『神速の腕輪』……Sランク神器、装備時スキル『神速』取得


 〈Sランク神器……初めて見たわ!〉

 〈すげえな!これなら助かるかもしれない!〉

 〈ていうか『神速』ってどんなスキル?〉

 〈何となくすごい速そうなんだけど!〉


 『神速』……常時使用タイプのスキル、所有者は神の如きスピードで動くことが可能となる。その代わり、攻撃力が十分の一になる。


 ……これはどうなんだ?

 神の如きスピードってことはめちゃくちゃ速く動けるってことだよな?

 攻撃力が十分の一になるってのは微妙だと思うが……


 〈うはぁ……これまた微妙なスキルだな〉

 〈攻撃力十分の一とか……〉

 〈ボス戦でほとんど役に立たないんじゃない?〉

 〈主さんの命運もここまでか……〉


 『神速』ってそんなに微妙なスキルなのか。

 ちくしょう、少しは助かる可能性が出てきたと思ったのに!


 とりあえず『神速の腕輪』を装備してみた。


 ステータスに『神速』のスキルが表示されるようになる。

 これで神の如きスピードで動けるようになったのかな?


 ……一回試してみるか。


 俺は安全地帯の一番端まで歩いて行き、端まで着いたら反対側へ向き直る。


 おもむろにクラウチングスタートの態勢を取り……

 全力でスタートを切った。


 瞬間、周囲の景色が一瞬で変わり、俺はボスへの入り口である大扉へ盛大にぶつかってしまった。


 ……あれ?今とんでもない速さで走れたよな。


 〈いや、速すぎでしょ!〉

 〈『神速』すげえええ!!!!〉

 〈あれならボスの攻撃も完璧に避けられるんじゃない〉

 〈ワンチャン、生還の可能性が出て来たか!?〉


 ギャラリーたちも盛り上がっている。

 どうやら本当に神の如き速さで移動できたらしい。


 ……これなら、いけるんじゃないか?


 俺はしばし考え込んだ後に、セーブポイントへ向かう。


 〈おお?ラスボスへ挑戦するのか?〉

 〈さすがにスピードだけでは難しいと思うけど……〉

 〈まあ、セーブしたし死んでも舞い戻れる!〉

 〈一回当たって砕けてくれば良いんだよ!!!〉


 そう、ギャラリーたちの言う通り、俺はラスボスへ挑んでみることにした。

 どうせこのままだと餓死決定だ。


 それなら元気があるうちに可能性がある方へ賭けてみる方が良いに決まっている。


 「えー、それでは今から『深淵の回廊』のボスフロアに突撃します!」


 〈おおおおおおお!!!!!〉

 〈主よ!お前は男だ!〉

 〈初見のスキルと、初見のダンジョンボスの対決か、何気に神回じゃないか!〉

 〈ちょっと予定あったけど、キャンセルしてこっち見るわ!〉


 おお、めちゃくちゃ盛り上がっている。

 これはひょっとして初配信としてはかなり上出来なんじゃないだろうか?


 「皆さん!出来る限り頑張りますので応援お願いします!!!」


 〈任せろ!〉

 〈お前の生き様見せてみろ!〉

 〈ハヤトやるじゃん!かっこいいよ!〉

 〈『深淵の回廊』のラスボス、初見だな。普通に楽しみだわ〉


 いつの間にかこの配信のギャラリー数が凄いことになっている。

 端末に表示されている同時接続者数は、なんと三千人を超えている。


 嬉しいことには変わりないが、自分はこれからダメ元でボス戦に挑まなければならない。

 しかもレベル1の状態でた。


 唯一の勝算はさっき入手したスキル『神速』のみ。


 このスキルを使用し、ボスの攻撃をとことん交わして何とか倒す手段を模索していくしかないだろう。


 「じゃあ、行きますよぉ!!!」


 俺は配信先のギャラリーたちに呼びかけ、大扉に手を掛ける。


 こうして、俺はボスエリアに足を踏み入れた。

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