協力する少女と情報
ローグの決断を聞いたルドガーとミーラは、その後も必死に説得を続けた。
「事の重大さを理解しろよ! 相手は国そのものになるんだぞ!」
「危ない橋をわざわざ渡るようなものよ!」
「そう言われてもな……」
しかし、ローグの意志は折れることはなかった。遂に二人は渋々ながら諦めたが、ミーラはある条件を出した。
「ロー、どうしてもというのなら私にも協力させて!」
「な、何を言うんだ!? 嬢ちゃんまで!?」
「……ミーラ」
ミーラの言葉にルドガーは度肝を抜かれた。ローだけなら仕方がないが、ミーラが協力するのはおかしい。彼女は今、魔法なしなのだ。
「今の私でも、頭のいいローなら何かに利用できるでしょ! ローは魔法なしから魔法持ちになったんだから!」
「お、おい、嬢ちゃんよ! それとこれとは話が別だろ!」
「もちろん、最初から協力してもらうぞ」
「「ええ!?」」
今度は二人そろって驚いた。ミーラは最初は断られると思っていたために、いきなり受け入れられるとは驚くほかない。ルドガーもローグが受け入れるとは思わなかったのだ。
「え? え? いいの? 本当に?」
「自分で言ったんだろ? それにお前には俺を手伝う理由があるだろ? 償いたいのは嘘だったのか?」
「あ、うん、そうだよね! な、なら私は……」
「冗談じゃねえぞ! 何言ってんだ! お前正気か!? この嬢ちゃんに何をさせるってんだよ!?」
ルドガーは怒鳴る。それもそのはず、ミーラは魔法なしというだけじゃなく、左半身を大火傷している。そんな彼女まで加担させるなど、ルドガーの正義感が許せない。
「魔法なしと容姿のことを気にしてるのか? それなら対策がある」
「なんだ!? 対策ってのは!? どっちの問題も解決するってのか!?」
「その通りだ」
「「!?」」
ローグの言葉に二人は言葉を失った。どっちの問題も解決できる、その言葉が意味することは……。
「魔法なしの問題の解決案として、俺が村人から奪った魔法の一部をミーラに与える」
「何!? その魔道具はそんなこともできるのか!?」
「そ、それじゃあ、私の火傷は、どうなるの?」
「回復魔法を使う。もちろん、これも村人たちから奪った魔法だ。ミーラの火傷も治せるはずだ。そのついでに、魔法協会にばれないように姿も変えよう」
「ぼ、坊主……」
「ロー……」
「ルドガーさん、あんたがそれでも心配だというなら、あんたも協力してれないか? 与えられる魔法はまだあるから?」
「な、な、な、何だって!?」
ミーラがローグに協力することそのものが反対だったルドガーは、思いがけない提案をされてしまった。
「……坊主、何言ってやがる……。今更俺に魔法協会と戦えというのか!? 一度負けたこの俺に!?」
「ああ。経験者がいれば心強いと思うんだが?」
「んなっ!?」
「…………」
ローグの提案を聞いたルドガーは、とても受け入れられないと思った。一度負けた上に魔法を奪われ、外町で生きていくしかない身の上になったのだ。もう一度戦っても同じことの繰り返しになるに決まっている。そうとしか思えないのだ。
(こいつは何もわかっちゃいない! こいつの過去には同情できるが、やろうとすることが滅茶苦茶だ! 現実が見えてねえ!)
「ふざけんのもいい加減にしろ! お前は……」
「勘違いするな、誰もあんたに直接戦えとは言っていない。そんなことをされても困る」
「は?」
「え?」
ルドガーはローグの胸ぐらを掴んで怒鳴りつけたが、ローグはその言葉を遮って話を続けだした。さっきの言葉とは矛盾したことを言い出したのだから、ルドガーも意味が分からなくなった。ルドガーは落ち着いて最後まで話を聞いたほうがいいと判断し、ローグの胸ぐらを放した。
「……どういうことだ、俺を戦力にするんじゃないのか?」
「俺があんたに求めるのは情報だけだ。あんたなら魔法協会の内部構造、人物関係、戦力のことをよく知ってるはずだからな」
「あ、ああ、そうだな……」
「あんたはそれを俺たちに与える、その対価に俺はあんたに魔法を与える。俺が求める協力はそういうことだ。あんたは間接的に魔法協会と戦えばいいだけだ」
「……そういうことか」
「ああ、俺たち二人のために知ってること全てを話すだけだ。それだけでいいんだ」
「………ロー、ルドガーさん………」
ルドガーはしばらく何も言えなくなった。そのまま考え込んでしまった。




