助けた女性
二人の女性は信じられないものを見ていた。自分たちを縛り、二人の仲間を殺し、その前には大勢の冒険者を殺してきた男3人が一人の少年に倒されてしまったのだ。二人は絶望の中から希望を見出した。
((助かるんだ!))
自分たちは助かるという希望が心の中にあふれる。だがそれだけではなかった。死んだ仲間が目に入った時、どす黒い感情が芽生えた。それは怒りと殺意だった。
数分後。
気絶したレントを同じ岩に縛り付けた後、ローグは周りを見渡した。
「ふう、終わった。……にしてもひどすぎるな、これは……」
ローグの目に映ったのは、大勢の冒険者達の死体だった。ローグの頭の中では、ケリー達が冒険者を襲っていると予想していたが、この世界の基準で成人したばかりの悪童とはいえまさか大量殺人までしていたとはさすがに予想していなかった。
(まったく恐ろしいことだ、あの3人がこれほど多くの人の命を奪い続けるなんて。こうなったのも冒険者役場の連中の危機管理が甘いせいだ。……いや、そもそもこの世界全体の文明が低いせいだろうな。そして、こいつらは……)
ローグは縛った3人をこれからどうするかすでに決めていた。
(まず、意識が戻ってから魔法を奪う。俺に奪われた、魔法なしにされたと思ったらどんなに屈辱だろうな。その後で役場に殺人の罪で突き出してやろう、ついでに出身地を明かしてやろうか、村の評判は下がるだろうな、くくく。……ん?)
何やら物音が聞こえ続ける。その近くまで寄ってみると、口と手足が縛られた二人の女性が見つかった。
「まさか、生き残りがいたのか!?」
「「…………!」」
彼女たちは縛られた状態でもがき続けていた。それが物音の正体だった。女性の生き残り、それも縛られた状態でいることは、その事実だけでローグは推測できた。
(あいつらはそんなことまでやろうとしていたというわけか……。あれほどの悪童を若いうちから野放しにすると手に負えなくなるものだな)
ローグは彼女達のそばまで来るとすぐに開放した。そして、口が自由になった彼女達が最初に発した言葉は重なってローグに聞こえた。
「「あいつらを殺して!」」
明確な殺意のこもった言葉だった。
数分後。
「早くあいつらを殺して!」
「そうよ! 殺してよ!」
手足まで自由になった彼女達は3人を殺すことを訴え続けていた。この二人はかなり取り乱しているようだ。だが、ローグになだめられてやっと落ち着いた二人は、ローグに助けてもらったことに対して涙すら流して何度もお礼を言った。
「う、う、助かりました……ありがとう…ありがとう…」
「本当に、本当にありがとうございます!」
「俺はロー・ライト。君たちもう大丈夫だから、何があったか教えてくれないか?」
「はい、実は……」
赤い長髪の女性はカティア、青い短髪の女性はノエルと名乗った。彼女達はカティアの兄クラウとその友人ディオと一緒にこの森に入ったが、この辺りでケリー達に襲われてクラウとディオを殺されてしまった。二人だけは生きて縛られてもうすぐ別の意味で襲われる寸前だったという。
ローグに事情を説明していた二人は仲間を殺されたことに対する怒りと悔しさを思い出し、再び3人を殺すと言い出した。
「あいつらは殺しましょう! 兄さんの仇です!」
「死んだのは二人だけじゃないわ! 大勢死んでる! あいつらがやったのよ!」
どうやら、恐怖にさらされたことで取り乱したのではなく、本当に強い殺意を抱いているようだった。しかし、
「落ち着いて二人とも、俺達がここで殺しても意味が無いだろ」
「「え?」」
復讐を望むローグとしては3人にはまだ生きてもらう必要がある。二人の言い分も分かるが、ここで簡単に死なれてもローグの気が済まない。そこでローグは、二人にある提案を持ちかけた。
「この3人のやったことは死刑にされてもいいぐらいだ。君たちという証人がいるから、役場に差し出せばこいつらの死刑はすぐに決まるだろう」
「それは……そう……だけど……」
「…………うん」
「でも、それだけじゃ君たちの気が済まない。自分達の手で苦しめてやりたい、復讐してやりたい、そうだろう?」
「「はっ!?」」
「俺もあの3人には復讐してやりたかったんだ。今、それを実行中だからさ、良かったら君たちも手伝ってくれないか?」
ローグの提案は、ケリー達への復讐を『共犯者』として共に実行しようというものだった。




