狼と恐れられる復讐者
「うう、うん……って何だこれ!?」
最初に目を覚ましたのはゲテだった。ゲテが見たものは、自分とレント、ケリーが一緒に大きな岩に縛り付けられている状況だった。レントとケリーは気を失ってるままで、しかもレントに関しては火傷を負っている。
「一体何なんだ!? た、確かローが出てきて……それで……」
ゲテは思い出した。ローが現れて、レントを倒し、自分の魔法を謎の魔法で打ち消した挙句、腹を思いっきり殴られたことを。ゲテは腹が立った。
「そ、そうだ……ローが出てきてこんなことに……俺達が縛られてるのもあいつの仕業か……くそ、なんでこんなことに……」
「「「グルルルルルル……」」」
「ロ、ローか? ……いや違う……あ、あ、あれは……『ブラッディウルフ』!」
ゲテが気絶する前までの出来事を思い出している途中で、小型の狼のような魔物がたくさん寄ってきた。この魔物は『ブラッディウルフ』の一種で、常に群れで行動して獲物を捕らえる習性を持つ。普通の狼より小さいが非常に知能が高く、冒険者のような強い人間を襲うことは無いが、縛られている人間がブラッディウルフには強い人間には見えるかどうかというと……
「「「グルゥゥゥゥア!」」」
「ひいいいいいい! 来るなああああああああ! きっ【恐怖魔法】『黒いゆりかご』!」
シーン……
「魔法が出ない!? どういうことだ!?」
「「「グルルルル! ガウ!」」」
ガブッ
「ひっぎゃあああああああああ!」
どうやら、ブラッディウルフは賢明な判断をしたようだ。ゲテは魔法を使おうとしたが、なぜか使えなくなっていた。そして、ゲテの足にブラッディウルフが噛みつき、鋭い犬歯が食い込んだ。ゲテは激痛のあまり絶叫した。その叫びはレントとケリーを起こすには十分だった。
「う、つ、な、何だこれは!?」
「これはどういうことだ!?」
ガブッ ガブッ
「ぎゃあああああああ!」
「いっつ、くそ! 何だよおおおおお!?」
状況を把握しきれない二人の足にも、ブラッディウルフの犬歯が食い込んでくる。レントはゲテのように絶叫するが、ケリーは激痛を受けながらも抵抗しようとした。だが……
「何で魔法が使えない!? しかも何で俺だけ足まで縛られてんだ!?」
「知らねえよ! 早く何とかし、ぎゃあああああああ!」
「だっ誰か助けてくれー! 魔物におそ、ぐああああああああ!」
ケリーも魔法が使えなくなっていた。おそらく、レントもそうだろう。彼らがそうなってしまった元凶は、彼らのすぐ近くの木の上にいた。恐怖と絶望と苦痛に襲われる様子をじっくり見下ろしていた。
「いい気味ね。兄さんとディオの仇め」
「このまま苦しみ続ければいいんだわ」
「その通りだ。あいつらはひどい目にあって当然なんだよ」
それは、ローグと、その『共犯者』になったカティアとノエルだった。
数時間前。
カティアとノエルは、ローグの提案に乗ることにした。カティアとしては、兄と友人の仇を自分の手で討ちたいと思っていたが、殺人に手を染めること自体は怖かったのだ。ノエルも同じ気持ちだったため、殺さずに苦しめる形で復讐することに賛成した。
方針が決まった後、ローグはケリー達の魔法が使えなくするための台座を準備し、カティアとノエルはケリーの足をきつく縛った。ケリーの足まで縛ったのは、足が自慢のケリーがその足を使えない状況に苦しんでほしいからだというローグの要望だった。
次に、周りの冒険者の遺体を全て木の上に配置した。この森に多く生息するブラッディウルフのエサをケリー達だけにするためだ。
最後に魔術でケリー達の魔法を使えなくして復讐の準備は整った。後は勝手にブラッディウルフが集まってくるのを待つだけだ。多くの人々を殺し、金や装備を奪い続けた者達が、人を食い物にしてきた者達が、魔物のエサになる。ローグは、自業自得にして最大の報いだと考えている。
そして現在。
カティアとノエルは魔法を使えなくするなど半信半疑だったが、ブラッディウルフに魔法で抵抗できない様子のケリー達を見て驚いた。それと同時に、初めてローグに恐怖を覚えた。
(こんなことが……できるなんて……)
(もしかして……私達……)
((とんでもない男と手を組んだんじゃ……))
二人が恐怖を感じていることは顔を見ればわかる。ローグは二人の恐怖の対象が、ブラッディウルフではなく自分に向けられていることを自覚した。そうなると、二人が『約束』を破ってしまう可能性がある。
(この二人は俺のことを役場に報告するだろうな、遅かれ早かれ。俺自身がまともな人間じゃないって自覚あるし、何を言われても仕方ない。まあ、『ロー・ライト』としての姿だけしか知らないから『約束』を守ってもらわなくても問題ないか)
ボトッ
「ぎゃああああああああああああ! ああっ!? 俺の足がああああああ!」
「ひいいいいいいいい!」
「あああああああああああああ!」
ローグが二人のことを考えていると、ケリーの絶叫が響いた。どうやら、ケリーは遂に足を食いちぎられてしまったようだ。その様子を見たローグは笑っていたが、カティアとノエルは顔が真っ青になってしまった。あの3人に対して、冷たい目で眺めていたはずだったが、さすがにおぞましい光景を見て怖くなったようだ。ローグのことも、自分たちが何をしているのかもだ。
「ふむ、もうそろそろ頃合いかな」
ローグは最後の仕上げに取り掛かる。そのための新たな指示を出す。
「カティア、ノエル。もう十分だ。こいつらを突き出そう。ただし、『約束』は守ってもらうぞ」
「………………」
「まずは、狼たちにはもう退場してもらうか。狼に恨みはないしな」
ローグは手から魔法を放った。狼たちを逃がすために……。




