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文武平等  作者: 風紙文
第四章
98/281

その剣の名は

昨日旗が置かれていた社の中心を上って来た階段から見て左側に珀露、右側に俺と三夜子が立ち、社の下に大和先生が座った。

「出来れば、あの僕にならない方が良いかもしれない。でも、あの珀露が負ければひょっとしたら……となると、あの珀露を…」

何か呟いている珀露、葛藤の最中だな。

「…………武川さん。七々橋さん。おそらく、僕は手加減しません。ですがお願いします、僕に、勝って下さい」

「もちろんだ」

「ん……勝つのは、私達」

「ありがとうございます……」

珀露はパズル錠の筆を手の中で動かした。俺と三夜子もパズル錠を解き、自らの剣を持つ。

俺達が剣を持った時、珀露の筆が光を帯びて形を変え始め、

「うっ…………お願い……します……」

あの瞬間に、珀露の人格が変わったようだ。寸前に言った言葉から考えるに……

「あれ? やっぱりキミ達、剣持ってたんだ」

やはりそうか。剣を左手に持ち、俺達を見たのは、あの珀露だった。

珀露の剣をよく見る。左手一つで握りきれる長さの柄、真っ直ぐに伸びる両刃、その二つを繋ぐ鍔の部分、全てが真っ白だ。

種類はおそらく片手剣。見た目は、ホワイトソードかもしれない。ショートソードとも呼ばれる、西洋ではノーマルな剣だ。

「げ……あれ、やっぱり」

不意に、離れて見ていた大和先生が呟いた。

「2人共、やっぱり気をつけて戦えよ」

大和先生は珀露の剣を指差し、

「アレはレベル5の剣。七振りある内の一つ、片手剣の『白塗(しらぬり)』だ」

レベル5。片手剣『白塗』性格が変わったという時点でその可能性は高かったが、まさか本当にそうだったとは。

「……でも、私達は2人」

三夜子が剣を構えながら呟く。そう、相手がレベル5の剣だとしても、こちらはその一つ下のレベル4。それが二振り、実力を抜きにしたら同等と見て良いかもしれない。

「だが三夜子、相手は珀露じゃないんだ」

問題は、レベル5の剣を使う相手が珀露でありながら珀露ではなく、大和先生のように『白塗』という剣そのものの性格ということ。いわば自らの手のように慣れた者と戦うことだ。

「油断はするなよ」

「ん……もちろん」

「話は終わった?」

珀露……白塗は俺達の会話を待っていたらしい、剣を上下に素振りしていた。

「なら、いくよ?」

素振りを止め、切っ先をこちらに向ける。

社に沈黙が広がり……

「どこまでやれるか、楽しませてもらうよ」

白塗が沈黙を破り、前へ出た。方向的にどうやら狙いは俺らしい。

横からの一線、俺は剣を縦に構えて防ぐ。

ギィン!

それが、剣の舞開始の第一音となった。

続けざまに剣を振るう白塗、間合いに入られ過ぎていた為俺はただ防ぐしかなかった。

「どうしたの? 守ってるだけじゃ勝てないよ」

分かっている。だが、相手は俺だけじゃないんだぜ。

「……」

白塗の後ろから、狙われていなかった三夜子が剣を振り下ろす、

「甘いよ」

しかし白塗は死角にも関わらず一撃を避けてしまう。

だがおかげで隙が出来た。俺は剣に空気を送り、軽くなった剣で切りかかる。

「お? そんな大剣をそこまで振れるんだ」

軽く受け流されるが、構わず連撃、それが止まると、

「……任せて」

三夜子が横から繋いでくれた。双剣に加え、流れるような連撃は俺の倍の数繰り出される。

だがその一撃も白塗に当たることはない。ここまで当たらないのは予想してなかったなこ……こうなったら一か八か、試してみるか。

「三夜子下がれ!」

剣の切っ先を下に向けて三夜子に言う、理解した三夜子が珀露から離れた瞬間、柄を押し込んだ。

ブォン!!

空気砲が地面の砂を巻き上げて砂煙を起こして互いの姿を隠した。互いに互いが見えない状態だが、三夜子にはコレが上手く働く。

「……かまいたち」

交差させた剣を勢いよく振るうと刃のように鋭い風、まさに三夜子が言ったようにかまいたちが砂煙を切り裂きながら白塗へ向かった。

「へぇ……」

白塗はそれを避けもせず、剣を縦に構えて当たる範囲を少なくしただけだった。

よし、コレは当たる。もちろん見えない時にあちらからの攻撃にも気をつけながら、同じように攻めていけば……

「なるほどね、風と空気。それがキミ達の剣の能力なんだ」

白塗はまだ余裕のようだ。それもそうか、2人ががりでようやく一撃を当てただけ、それに、

「じゃあ、オレも使わせてもらうよ」

……白塗はまだ、能力を使ってない。

警戒しつつ白塗を見ていると、剣の刃に手を触れた。すると、中から何かが現れた。それは白塗のパズル錠と同じ、白い筆。

そういえば、なぜ『白塗』という名前なのか、それがまだ分からなかった。剣の形状はホワイトソードだと思うが、それは『白』だけ、残る『塗』の部分はまだ見ていない能力からくるものだとしたら……まさか、そういう意味なのか?

「一応言ってあげるけど、オレの剣の能力は人に怪我はさせないから」

筆を右手に持った白塗は筆を刃に滑らせる。新品同様の白い筆の筈なのに、筆先が当たったところから刃が赤に染まっていった。

やはり……白を、塗るから『白塗』なのか。

やがて刃の切っ先まで赤く染まると。剣を振りかぶり、

「赤に染まりし我が半身、その身戻したくば、外に放つがいい」

「……行くよ」

一気に降り下ろす。

瞬間、刃から炎が溢れ出した。

「三夜子!」

「ん……」

俺は剣に空気を送り切っ先を炎へ、三夜子は剣を交差させ。

「はっ!」

「……強風」

ブォン!!

空気砲と三夜子の風が炎にぶつかり、四散した。

「あぁ、やっぱり炎はダメか。なら、コレならどうかな?」

白塗は新たに筆を走らせる、刃は黄色に染まり、横に一線。光線のような雷が飛び出した。アレは空気砲や風じゃダメだろう。

「三夜子避けろ!」

「でも……創矢は」

「平気だ、手はある」

俺は剣内のパズルを動かす。雷が迫る中、三夜子は飛び越えて避けた。

凄い身のこなしだな……俺には出来ない芸当だ、だから俺は他の手段を取るだけだ。

カチリ、とパズルが合わさった。瞬間剣から布の帯が現れて鍔を作り、余った部分が風になびいた。

大和先生が持つレベル5の剣『布縫』の能力、布による帯の精製。俺はその帯を何重にも重ねて盾のように広げた。

そこに雷が衝突する。押された力に抗いながら防御を続けると、雷を食らわずに消すことに成功した。

よし、この能力なら他の攻撃でも対応出来るだろう。

と、思った次の瞬間。

「やるね、でも、前ばかりじゃダメだよ」


ズバ!!


「!?」

いつの間にか後ろに回られた白塗に、背中を斜めに両断された。もちろん剣なので痛みや傷は無いが、これはかなりのダメージだ……

「このっ!」

布の巻かれたままの剣を後ろに向けて振るうがあっさり避けられてしまう。

三夜子が隣に並んだ

「……大丈夫?」

「大丈夫だ、まだ戦える」

さすがに一撃で倒れるまではいかなかったが……

二対一なのに、相手の方が何枚も上手だな、これは。

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