もう一人の稲影珀露
『白塗』の能力、それは筆で塗った色の属性攻撃をするというもの。赤なら炎、黄色なら雷のようにだ。
まるで魔法のような遠距離からの変幻自在な攻撃に俺達は苦戦を強いられていた。技を避けている間に間合い詰められて一太刀、それをすでに俺達は何回も受けている。
しかもわざわざ一太刀で済ませる必要の無い時にも白塗は一太刀しか当てていかない。明らかに、手加減されていた。
だが対応策が見つからないのも事実。あちらの技が幾つあるのかも分からない、仮に色の数だけあるとしたら……どれだけあるのか知らないそれを調べてる間に負けてしまう。
「やれやれ、もう少し楽しめると思ってたんだけど」
白塗は余裕綽々の表情だ。何か、策は無いのか……
「じゃあ、そろそろ終わりに…………ん?」
その時、白塗の表情が少し変わった。
何か見えるのか、自らの右手に視線を向けている。よく見れば、右手が震えているようだ。
「……どうしたんだろ?」
「さぁな……けどどうやら攻めてこないみたいだ、今の内に策を考える」
「ん……頑張れ」
丸投げかよ。
「いや、三夜子も考えてくれよ」
「ん…………分かった」
いつもより間が長かったな。そんなに嫌なのかよ……まぁ、そんな事を言ってられる余裕があるってことだ。
しかし、白塗に何が起こったんだろうか?
……side 珀露
今の僕がやっていることが、リアルタイムで目に写っている。
圧倒的に強い僕、二人を相手に余裕を持って戦っている。コレがあの剣に入っていた人の本当の強さなんだと改めて分かった。
出来れば今すぐにでも止めさせたい。これ以上二人を苦しめるくらいなら僕が変わりに出て負けることができればどれだけ良いだろうか……けれど、この僕が出ている時は一切の制御が許されないし、声は聞こえているのかいないのか、こちらの言葉に一切返事はない。
今の僕に出来ることは、その光景をただこうして見ているだけ、それしか……
おい、珀露
声が、聞こえた気がする。ここで聞こえる声は限られている。
「なに? 珀露」
『毎回面倒だな……まぁいい、話を聞け』
僕の中にいる、もう一人の稲影珀露。
今外に出ている人よりも前から一緒にいて、彼も外に出て僕を動かすことができる。この僕が出ている場合なら、僕が体を動かすことも出来るし、ちゃんと声も聞いてくれる。
『今の状況は大体理解した、あのままじゃあちらは絶対勝てないぞ』
「分かってるよ……でも、僕に何が出来るっていうんだ」
『もし出来たら、お前はするか?』
え……?
「何か……出来るの?」
『向こうの一人が持つ剣、あの中に板のような物が填まっていていて、それを動かしていただろ?』
「そ、そうだっけ?」
『まぁ遠かったから仕方ない、だがしていた』
「ひょっとして……あの板の事を言ってるの?」
『大きさ、形、色、似た模様も描かれている。間違いない、あの板が収められる場所だ』
「じゃあ、その板を渡せば……」
『先ほどあちらは板を動かして盾を作っていた。おそらく、板を動かすことで能力を変えられるんだ。そして、新しい板を渡せば…』
「新しい能力が出来て、勝てるかもしれない」
『そういうことだ』
「でも、どうやってそんなことを?」
体は今あの珀露の物、返してくるまで制御は一切出来ない。
『大丈夫だ、俺がやる』
「君が?」
『あぁ、だが、お前にも手伝ってもらうぞ』
「もちろんだよ。何をすればいいの?」
『いいか、まず……』
もう一人の僕から説明を受けて、
「……うん、分かった」
『よし、なら行くぞ珀露』
「うん、珀露」
稲影珀露と稲影珀露による、稲影珀露への作戦が開始された。
「……何の真似だい?」
白塗が急に呟いたかと思うと、震えていた右手が筆を落とした。その光景は少し妙で、自分で落としたようではなく、何かに落とされたようにも見える。
「邪魔するつもりかい? でもその程度で何が出来るって…」
白塗の右手は服のポケットに手を入れて何かを取り出し、それをこちらに投げてきた。
「えっ、まさか、あの剣が……?」
そこで初めて、白塗の表情が驚いたものに変わった。
投げられた物を俺はキャッチする。それは一枚の板で、この大きさや何が書かれているか分からない模様……コレはまさか。
「いったい『武川さん!』るんだ」
白塗から白塗のとは少し違う声が聞こえた。今の声は、おそらく珀露のものだ。
『その板を! 使って下さい!』
そうか。俺は剣のパズル内の空いた部分に板をはめると、ピッタリと収まった。やはりコレはこの剣の板か。そういえば大和先生が、レベル5の剣が一枚ずつ持つ板があり、それを収めることでこの剣は能力を増えるんだと言っていた。
パズルを動かし、今収めた板を真ん中に持ってくる。すると布の帯は消え、変わりに刃が真っ白に染まった。
「……何が、どうなったの?」
これだけでは分からない、だが、板が『白塗』の物で、増える能力もまた『白塗』からのものとしたら……
「少し、勝機が見えた気がするぞ」
「……どうするの?」
「いいか、まず……」
俺はこの剣に増えた能力を予測した上で、作戦を説明する。
「……分かった」
了承した三夜子は、白塗の方へと構える。
「なるほどね、キミのそれがあの剣なのか」
すでに白塗に戻り、珀露の声は聞こえなくなっていた。
「一応言っとくけど、いくらその剣がそうだからってオレは負ける気は無いから、勝つなら実力で勝ちなよ」
落とした筆を拾い上げ、剣の切っ先をこちらに向けて挑発してくる。だが、なぜか先ほどまでの余裕の表情が消えているようだ。どうやらこの剣が原因か。
「……私達も負けない」
「あぁ、元々そのつもりだったんだ。行くぜ、三夜子」
「ん……行く」
三夜子が前へ出た。剣を交差させて振りきってかまいたちを飛ばす。
「それだけじゃ当たらないよ」
白塗は筆で刃を青く塗り、その剣を振るった。
瞬間、白塗の前に水の塊が現れた。物理法則を無視して宙に浮く水の塊はかまいたちを飲み込むように吸収し、白塗への直撃を防ぐ。
そこへ俺が走る。剣の切っ先を水に向け、突き込んだ。
もしも俺の予測が正しければ……
そう思った次の瞬間、水の塊が無くなった。
一瞬で消えたわけではなく、剣の切っ先から吸い込まれたように剣の中に入っていった。塊を吸い込みきると剣の先から青色に染まり、パズル部分を除く刃が完全な青色に染まった。それと同時に空気砲を放つ際に伸びる剣の柄が空気を送っていないのに伸びた。
やはり、当たりかもしれない。
「やっぱり、自分を相手にするのは厄介、か」
白塗の声、アイツはこの能力をもちろん知っているはず。ならこれから何をするのかも分かっているはずだ。
俺は伸びた柄を持ち、切っ先を白塗に向けて、一気に柄を押し込む。
すると空気ではなく、先ほど吸い込んだ水の塊が飛び出した。
「あーあ、もう気づかれたのか」
白塗は筆を走らせて刃を赤に染めると、振るって炎を放った。飛び出した水にぶつかり、互いに相殺した。
どうやら俺の予測は当たったらしい。『白塗』から得た能力は、相手の能力を吸収して使うというものだ。
おそらく今のような飛び道具のみ、例えば月乃の離れた刃や、早山の箱による剣の移動のような物理的能力は無理だろうが、使い方によれば飛び道具系の能力を無効化出来るかもしれない。
そしてこの能力があれば、先ほどの作戦が進められる。
白塗にこれ以上の隠し技が無ければ、勝てるかもしれないぞ。




