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文武平等  作者: 風紙文
第一章
8/281

一通の手紙

次の日の朝。正門を抜けてげた箱にたどり着き、げた箱に手をかけて開けると。

中から何かが飛び出し、俺の足の上に落ちた。

それを見ると……

「!」

一通の手紙だった。

「な……こ……これはまさか」

いわゆる、ラブレターという物ではないか!?

げた箱に入れるとは、また古風な生徒もいたもんだ……ではなくて。

手紙を素早く拾い上げ、鞄の中に押し込んだ。

上履きに履き替え、校内に、そして一番近かったトイレに駆け込んだ。

「……」

個室に入り一息、一つ深呼吸をする。

すー……はー……よし。

鞄から手紙を取り出す。白いシンプルな封筒に入っている。

……生まれてこの方、まさかこんな物が貰えるとは思ってもいなかった。

だが、今ここに存在する。これは嘘ではなく、夢でもな……頬をつねってみる―――――うん、夢じゃない。

もう一度、深呼吸。

すー……はー……ふぅ。

俺は覚悟を決めた。

封筒の封を開け、中にあった一枚の便箋を取り出す。

半分に折れたそれを両手で持ち……開いた。





「おーい、そう……や?」

「おー……どうしたー?」

浜樫の声が聞こえたので、俺は机に伏せていた顔を声の聞こえた方に首だけ動かしてそちらを見た。

「どうしたじゃねぇよ、創矢こそどうしたんだよ」

「あー……気にするなー」

「いやいや、気にするなと言っても無理だから」

「そうかー……」

「おいおい大丈夫か? もう昼休みだぞ?」

あー、もう昼休みかー。あの手紙を見てからの記憶が曖昧だったが、どうやらいつも通り席について授業を受けていたみたいだな

その時、ガラガラと大きな音を立てて、教室の扉が開かれた。

教室内にいた生徒の視線が集まる中、開けた張本人は俺の席に近づいてきて、

「武川くん!」

机を両手で叩き、押川に名前を呼ばれた。顔に振動を音が響いてさすがに驚き顔を上げた。

「ど、どうした?」

なんか、押川ににらまれ気味に見られてる。な、なんだ? 俺何かしたか? 

「ちょっと来て!」

考える余地もなく手を捕まれ、席を立たされた。

「な!? ちょっと待った!」

しかし待つ気配が無い。仕方ないので鞄に手を伸ばしてある物をポケットに詰め、手を引かれるまま連れていかれた。

連れてこられたのは、なぜか廊下。

しかも人気が最も少ない一階の端の方、ここには物理室があり、授業でもない限り人は通らない、ましてや昼休みでは静か過ぎる場所だ。

そこに押川の声が響く。

「武川くん! みゃーさんに何をしたの!」

みゃーさん?

「ちょっと待て、まず聞かせてくれ、みゃーさんって誰だ?」

「みゃーさんはみゃーさん。七ヶ橋三夜子だよ!」

七ヶ橋……みゃーさん?

あ。七ヶ橋、みやこ、か。

「一体何をしたの!」

「待ってくれ、俺は何もした覚えは…」

あるじゃないか。昨日の昼休みとか、帰り道とか、思いあたる事がありすぎた。

「やっぱりぃ、心当たりがあるんだね?」

「ああ……うん」

「どうしてみゃーさんと武川くんが戦うの?」

……はい?

「た、戦う?」

「うん、昨日帰ってきたみゃーさんと会った時びっくりしたよ」

そう言うと、押川は語りだした。



「あ、みゃーさんおかえりー」

「……おはよう」

「? それなあに?」

「……コレ」

「え? どうするの、コレ?」

「……戦う」

「えぇ!? 戦う!? だ、誰と!?」

「……創矢」

「創矢って誰!?」

「……武川、創矢」

「武川って……昼休みの?」

「……うん」

「何で戦うの!」

「……強いから」

「強いからって……」

「……それだけ」

「え! ちょっとみゃーさん! それだけじゃ分かんないよー!」



「……という訳なの」

「あー、そういう事か」

というか今更知ったが、今の話を聞いた限り七ヶ橋と押川は寮のルームメイトなんだな。

「心当たりがあるの?」

「……嫌って程にな」

俺はポケットに入れていたあるもの――――手紙を取り出し、押川に渡した。

「手紙?」

「呼めば分かる」

「んぅ?」

押川は手紙を開いた。

「! こ、これは!」



あなたの強さを見込んで

ぜひ手伝ってほしい

放課後

河原にて待っています

      七ヶ橋三夜子



手紙はまさかの七ヶ橋から、そしてまさかの、果たし状みたいな文面だった。

手伝ってというのは、恐らく傘の破壊の事だろう。

「ねぇ何で? どうして武川くんはみゃーさんと戦う必要があるの?」

「まぁ……戦うというか、手伝いに近いかな」

「手伝い?」

「七ヶ橋が持ってる傘あるだろ?」

「うん、いつでも持ってるあれだよね」

「何で持ってるか知ってるよな?」

「え? ううん、知らない」

「え?」

「みゃーさんはあの傘、1年生の時から持ってるけど、理由は聞いても教えてくれないんだよ」

俺より長く七ヶ橋と一緒にいる筈の押川が、知らない?

しかも七ヶ橋は1年生の時からあの傘を壊そうとしている。どんだけ頑丈なんだよ、あの傘。

「あの傘、壊す為に持って来てるんだとさ」

「壊す? 何で?」

「そこまでは教えてくれなかった」

「へぇ~」

「なんだ?」

「いやいや、武川くんってみゃーさんに気に入られてるんだな~って」

「俺が?」

七ヶ橋に気に入られてる?

「だって傘の秘密教えてくれたんでしょ? 秘密を教えられるのは、仲の良い友達の証だよ」

秘密を教えるのは仲の良い友達の証……そういうものなのか?

その時、昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。

「そろそろ戻ろっか」

「そうだな」

俺達は揃って歩き出した。

「ねぇ、武川くん」

「なんだ?」

「みゃーさんを、見捨てないでね」

「……」

「もし見捨てたりしたら、ボクが許さないからね」

「……分かってるよ」

ここまで乗りかかった、いや、もう乗り切った船だ。

理由も無しに降りる訳は無い。





放課後。学校から暫く歩いた所、そこに河川敷はある。

俺が行く頃には、既に七ヶ橋は待っていた。

「待たせたな」

「……別に待ってない」

「手紙、読んだぜ」

「……」

七ヶ橋は制服だ。まだ下校していないのだろう。

鞄は地面に置かれ、右手には傘、そして左手には長い何かが入っているビニール袋を持っている。

「……手伝ってくれる?」

「あぁ、俺で良ければ」

「……」

袋に入った棒状の何か、それをこちらに投げた。

鞄を下ろし、それを取る。袋から出すと、それは一振りの木刀だった。本当に戦うみたいだな。

いや、戦いではない。傘を壊す為の手伝いで、勝ち負けとかはない。

「その前に、一つ聞かせてくれないか」

「……心配ない」

「何がだ?」

「……戦いながら話す」

「……」

「……創矢は変わり者じゃない。私の方が、変わり者だから」

俺の事、名前で呼ぶんだな。

「じゃあ、どちらも変わり者って事でいいか?」

「……うん」

コクリと頷いた。

「……行くよ」

七ヶ橋は傘を構えた。

「あぁ、始めようか」

俺も木刀を構え、足下から小石を一つ取り上に投げた。

「……」

「……」

重力に従い、小石は落ちる。


コツン


小石が地面を叩く、

同時に、俺達は動いた。




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