謎の男、達
ケンカした親友が河川敷で本気の殴り合い。それが終わって二人ともに倒れた後に仲直り、更に友情を深める事に……それはどこかのマンガにありそうな青春の1ページ。
しかし、コレはそうじゃない。
まず、ケンカじゃない。ましてや親友どうしでもない。
俺達の剣筋は、対極だった。
七ヶ橋がしなやかな回避から繰り出す素早い一撃、例えるなら柔の剣(傘だけど)。
それに引き換え、俺は剛。剣道の構えから放つ重みのある一撃。
もしもこれが本気の試合だとしたら……勝敗はつかないだろう。
何故なら俺達は対極で、強さが互角だった。
七ヶ橋の一撃を俺は防ぎ。俺の一撃を七ヶ橋はかわす。
どちらも一向に当たらない。そもそも壊すことが目的で人体に当てる気は無いにしろ、まさかここまでとは。
……何でかな、俺は今、とっても楽しんでる。この七ヶ橋の手伝いを、今この時を、俺はとっても楽しんでいた。いつまでも続いてほしい、とさえ望みそうだ。
まあ、それは無理な話。どちらかの体力が先に尽きるし、戦いながら話すと言っていたからな、いつまでも浸っている訳にはいかない。
ガチン!
つばぜり合い状態になったその時を狙って、俺は七ヶ橋に訊ねた。
「何で傘を壊そうとしてるんだ」
「……必要だから」
必要?
「壊れた傘がか?」
「……傘の中身が」
傘の中身?
一度離れる。互いに構えたまま、七ヶ橋が語り出す。
「……この傘は特別な物で、中身が必要……でも鍵がかかっている。だから」
「鍵を壊して、中身をとりだそうって事か」
七ヶ橋は頷いた。
そのまま傘を突きに構えてこちらに向かう。
木刀と触れあう寸前、軌道を反らし、再びつばぜり合いに。
「その中身って何なんだ」
「……分からない」
分からないのか?
「何だか分からない物を取り出そうとしてるのか?」
「……そう」
「わざわざ持ち歩いて……その行動で皆から避けられてでもか?」
「……それが、私の為だから」
互いに間合いを取る。
「……正直、そんな事の為に学校生活を台無しにするのはどうかしてると思うぞ。どんな思いがあるのかも、他人である俺には全く理解できない……だが」
木刀を斜に構え、
「何かの為に自分をかけてまで一生懸命になる。その考え方は嫌いじゃない」
「……」
「だから、とことん付き合ってやる」
それで、七ヶ橋をクラスに馴染ませる事が出来るのなら。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
前へと飛び出した。
それから数十分、傘と木刀という異質な獲物どうしの交錯が続いた。
ぶつけぶつけられ、かなり強烈な攻撃を浴びたであろう傘は―――壊れなかった。
細かな傷が見つけなければ見えないぐらいのものだけ、むしろ木刀の方がボロボロだった。
「あんなに派手な音をたててたのにな……」
「……昔から頑丈」
「そうか、はぁ~」
俺は地面に腰を下ろした。小石がゴツゴツしていて座り心地は良くは無いが、疲れているので文句は言わない。
「……おつかれ」
七ヶ橋は傘を地面に置き、自らも座ろうとした。
「……?」
が、寸でで立ち上がった。
「どうした?」
「……そのままでいて」
「?」
七ヶ橋は傘を持ち、河川敷の奥にその切っ先を向けた。
「……何か用?」
その先を見ると、一人の男が立っていた。黒い服に身を包んだ、俺達より少し年上くらいの男だ。
「お前のソレ、剣だろ?」
……剣?
「……だったら何?」
「こっちにくれないか?」
「……断る」
「へ、即答かよ。だったらこっちにだって手があるんだよ」
そう言った男は、服のポケットからあるものを取り出した。
それは―――知恵の輪だった。数字の9のような形を2つ、互いの輪の中に入れた形をしたシンプルな物だ。
「えーと、ここがこうなって……で、こうで…」
男は俺達が見る前でなぜか知恵の輪を外し始めた。
「何やってんだ、アイツ」
「……動かない方がいい」
「狙いはその傘っぽいが、心当たりはあるのか?」
「……」
七ヶ橋は答えない。だが、何か知ってはいるのだろう、さもなくばあんな挑発する筈がない。
「剣ってどういう事だ?」
「……後で話す」
「後で……な、じゃあ今は」
俺は木刀を持ち立ち上がる。
「……座ってて」
それを両肩を押さえられて遮られた。
「な!? ちょっ、おい!」
そして再び座らされる。
「……コレには巻き込むわけにはいかない」
真剣な目で、まっすぐに言われた。
「……分かったよ」
木刀を地面に置き、再び男を見ると、
カチン
「よし」
知恵の輪が外れていた。
瞬間、男が光に包まれた。
いや、男が持った、外された知恵の輪から光が溢れ出ていた。まぶしさに目を細めながらもよく見ていると、知恵の輪の形が変わり始めた。
やがて光が消えると、手に収まりそうな程の大きさだった知恵の輪が、別の物に変わっていた。
男の手にあったそれは―――剣。
銀色の刃、黒い柄、赤い鍔、そんな剣を、男は両手に一本ずつ持っていた。
「……」
あまりの驚きに声が出なかった。なぜ知恵の輪があんた物に変わったのか。
「……アレが、剣」
呟くと、七ヶ橋は傘をこちらに見せた。
「……コレも、その内の一本」
つまり七ヶ橋は傘の中にある剣という物が必要なのか。
「それで何をするっていうんだ」
「……」
七ヶ橋は答えずに傘を構えた。
それを見た男は、
「どうした、解かねぇのか?」
解かねぇのか?
その時、先ほどの七々橋の言葉を思い出した。
『……でも鍵がかかっている』
そうか、解かないんじゃない。解けないんだ。今こうして中身の剣を取り出す為に壊そうとしているのだから。
「なあ、七ヶ橋」
「……三夜子」
こんな時でも名前呼びを拘るのか。
「三夜子、大丈夫なのか? アイツは本物の剣、だけどお前のは傘、どう見たって勝ち目が無いだろ」
「……大丈夫」
男は一歩ずつこちらに歩み寄ってくる。
「……」
七ヶ橋は傘を構えたままだ。だが度考えても傘で剣に、まして二本同時に使う奴に勝てる訳がない。
せめて加勢をしようと俺は木刀に手を伸ばしたら、
「……大丈夫」
七ヶ橋の声が聞こえた。
そちらを見ると、
「……大丈夫、だから」
こちらを見て無表情の顔で、そう言った。
「……分かったよ」
俺は木刀に伸ばしていた手を戻した。
「話は終ったか? そんじゃま、始めようか!」
男は走り出した。
距離が一気に縮まって行く、
「……」
しかし七ヶ橋は動かない。構えを維持し続ける。
「剣をよこせ!」
男があと少しで七ヶ橋を剣の範囲内に入れる。
そんな時だった。
トス!
「いっ!」
急に目の前に落ちてきたある物に驚き、男は後ろへと下がった。
それは―――刀。
銀色の刃に、装飾のついた柄、楕円形の鍔、昔の侍が持っていそうな刀。それが何故か上から落ちてきた。
「待ちな」
その声は右側から聞こえた。
俺達が振り向くと、そこには――――奇妙な格好をした人物が立っていた。
服装はおかしくない。だが首にはマフラー、頭には顔を覆う程のデカイ帽子を被り、顔が全く見えていない。謎の人物とは前の男ではなくこういう奴の事を言うのだと思った。
「助けを求める声を聞き、呼ばれて無いけど即参上! 剣狩りの使者よ! 私が相手をしてやるぜ!」
どこのヒーロー気取りだよ。しかも、助けを求める声を俺達は出してない。
「さぁ、俺が来たからにはもう安心だ。少年の事を頼むぞ少女」
「……分かった」
承諾した!?
七ヶ橋は構えを解くと、俺の隣に来て座った。傘は握ったままだ。
「知り合い、か?」
「……少し」
「そ、そうか」
なら一応安心……してもいいのか? 謎の多い七ヶ橋の知り合いで、しかも謎の格好だから完全には信用し難いんだが。
「……見てて」
「何をだ?」
「……剣の、戦いを」




